工事進行基準への取り組み/西田 則夫

今まで慣れ親しんだ会計基準がこの4月より見直しされることになりました。それはなにかというと、売り上げの計上が「工事完成基準」から「工事進行基準」への適用が義務化されることです。
この「工事進行基準」とは、プロジェクトの進捗率に応じてその売り上げを分割計上する会計ルールです。また、「工事完成基準」とは、プロジェクトが完了した時にプロジェクトの売り上げを一括計上するものです。
日本の会計においては、売り上げは実現主義の原則(商品等の販売や役務の提供により対価の確実性が確保できた時点で認識する方法)に基づいて計上されるのが一般的でした。ただ、収益の計上は客観性・確実性がありますが、プロジェクトが長期にわたるときは企業活動の実態を表すことが困難であり、株主にとって財務の状況が分かりづらい点があります。逆に進行基準の場合は、適正に進捗管理がされていれば、株主にとって時点時点での企業活動の実態を可視化して透明性を高めることで企業実態を把握しやすくなります。
 では、売り上げ計上の算定根拠となる進捗率はどのように求めるかというと2つの方法があります。1つは「原価比例法」ともう1つは「EVM(Earned Value Management)」です。多くの企業が採用しているのは原価比例法で以下の算定式で算出します。
 進捗率=発生原価÷見積総原価
 売り上げ高=契約金額×進捗率
ここでの発生原価は、実際に発生した労務費や外注費などの費用。
見積総原価は、プロジェクトの完了までに発生すると見込まれる費用の総額。
工事進行基準の導入の効果として、次の効果があるといわれています。
1.不採算案件を早い段階で見極められる
 進捗を毎月管理することでプロジェクトの見える化が進んで生産性向上や標準化が進む。
2.見積総原価の精度向上のため、早めに要件・仕様を固めることで、成果物の品質向上につながる
3.事業の透明性が高まる
 より実態に近い損益状況が財務諸表に反映されるので、その時点の経営体力やリスクが可視化される。
上記のようなメリットもある反面、進捗率が第3者から客観的に妥当性があるものと判断してもらうため、社内の管理の仕組みを見直したり、そのための管理業務の増加が発生します。企業によっては、すべてのプロジェクトに適用するのではなく、ある条件を持ったもののみに適用することが認められています。たとえば、当社でいえば、成果物請負案件で一定金額以上の契約金額のものとしています。他社においても契約金額を基準にしているところが多いようです。
そういった意味で、適用基準を満たすプロジェクトでも正式契約にいたっていないものは、工事進行基準を適用しずらいため、進行基準の義務化は契約の早期締結に結びつく傾向があります。
 進行基準のベースである進捗率を第3者としてチェックする仕組みが必要であることは先ほどの述べましたが、社内組織としてはPMO(Project Management Office)のような部門が実施することで客観性を保証することになるでしょう。
このような取り組みは大企業のように管理スタッフがいるところはいいですが、中小の場合は、兼務が多いので(社)情報サービス産業協会からの工事進行基準適用マニュアルでは、ミニマムモデルも提供していますので参考にするとよいでしょう。
 従来に比べ管理コストが増加する制度ですが、見方を変えれば業務プロセスの改善に結びつくこともあります。
改善としては以下のようなものがあげられます。
1.成果物に対して原価総額が正確に見積もれている
2.成果物作成の途中で成果物の完成度と原価の使用状況が正確に把握できる
3.成果物作成の途中で残作業の量と最終的な原価総額に変化がないか判断できる
4.最終成果物が顧客と合意がとれておりその価格が確定している
今後は、この制度の導入のメリットを最大限に生かすことがITに携わる我々にとって必要となります。


■執筆者プロフィール

西田 則夫(Nishida Norio)
情報処理プロジェクトマネジャー、ITコーディネータ
マネジメントの経験を顧客満足の向上に役立てたいと思います。
Norio.Nishida@csk.com