派遣切り等の雇用問題がますます深刻化するなかで、各企業は一番の無形資産(財産)であるはずの正社員の解雇をも始め、無形資産を数値することには限界がありながらもあらゆるものを数値で判断するようになってきています。
言い換えれば、数値を見るまでは現実が存在しないような(眼で確認した事実よりも数値の方が絶対的な)時代になってきています。
数値が絶対的であると言う考え方は、確かに物事を判断する上での一つの指標となりますが、ある種非常に危険性のある判断となる一面をも持っており数値判断にあるリスク(捏造、架空売上等)を何とか内部統制でヘッジしようと終わりのないシステム構築でコントロールしています。
大企業では、大多数の企業が決算数値ではじめて自分達の現実を見て、その数値が会社の事実であると勘違いしています。
より事実に近い状態を表現できるようにと、さまざまな会計基準が変更されていますが、ますます事実とはかけ離れていっているような気がします。
中小企業の経営者の皆様には、是非、眼で見た事実を現実と捉え、それを補正する・再確認するツールとして数値を使ってもらいたいと思います。
PL・BS等に代表される財務会計は1円までこだわった詳細的見地に基づいたミクロ的思考であり、管理会計はグループとしての全体像をつかむことが主たる目的でありマクロ的思考であります。経営管理において大切なことは財務諸表ではなく、各社独自の管理会計のシステムではないでしょうか。
予算や中期計画等は主に過去のデータに基づいて行われていると思います。不特定要因に満ち溢れている現実社会において、過去のデータから計算された予測値がぴったりと的中することは、単なる偶然でしかありません。
数値を一つの点(予算、目標)で捉えるのではなく、ばらつきや確率等を加味した統計学的な見地で管理することで他人任せではない管理手法が必要なのではないでしょうか。
と言うことで、今回は製造現場の品質管理等にはスタンダードな手法である管理図を利用した経営管理についてお話してみます。
製造における管理図とは、一般的に長さ・重さ・直径・固さ・強さ等の性質を時系列的に測り記録したものであり、真ん中には平均値をとり、上限(UCL)と下限(LCL)を設けてサンプリングした製品の値を管理図上にプロットすることで品質を一定に保つ管理手法の一つです。
ばらつきには2種類あり、偶然原因によるものと異常原因によりものに分けられます。上限値と下限値に挟まれた「でこぼこ」は偶然原因と見なされ、範囲外の部分は異常原因と見なします。
作業現場において、異常原因(範囲外)によるばらつきは現場の作業員や職長による管理範囲であり経営者等の上級管理者はあまり関与しません。一方で偶然原因(範囲内)は業務システムそのものに起因するばらつきであり、主に経営者等の上級管理者が仕組みそのものを改善することでばらつきを減らし、平均値を向上していくものです。
経営においては、管理図を時系列ではなく商品別、担当者別、営業所別等の単位をとることで管理図を用いて責任の所在を明確にし、経営品質を上げるPDCAサイクルをまわすことが可能となります。
日常の業務で『木』と見る人と『森』を見る人の見るべきものが明確化されます。経営戦略の実行や経営体質の改善等において、管理図を用いた経営管理手法は新しい「気ずき」をもたらしてくれるでしょう。
経営管理での管理図において何を計測値にするかのポイントは、比較的安定したデータを取ることです。代表的な計測値としては以下のようなものがあります。
・店別(担当者別)売掛金残高/月間売上高
・商品別在庫高/商品別売上高
・店別(支店別)一般管理費/売上高
計測値が安定していない状態では、まずパレート図等を用いて大きな経営問題を解決し、指標が安定してきたら管理図の運用を行う必要があります。
在庫回転日数や一人当売上等の各指標は財務指標から作成するのではなく、普段の経営コントロールの指標として管理図を用いた利用で、初めて活きた数値となります。
数値管理の基本は、何に利用するかの目的をまず持つことです。
後付の各指標には、あまり意味を成しません。
以上、紙面上の関係で詳細は書けませんでしたが、管理図による経営改善・業務改善にご興味を持たれた方は、ご連絡をいただけましたら幸いです。
予測不能の現在だからこそ、単一の数値(目標、ノルマ)ではなく、ばらつき(リスク)や確率を意識した統計学的なアプローチでこの時代を是非チャンスに変えていただきたいと思います。
■執筆者プロフィール
高松 崇(たかまつ たかし) memis代表
ITコーディネーター・システムアナリスト
中小企業基盤整備機構 経営支援アドバイザー
京都府「知恵の経営」ナビゲーター
mail: takamatsu@memis.jp
http://www.memis.jp