1.「見える化」の取組み
多くの企業の工場内や事務所には、不良件数や提案件数などがグラフで掲示
され、ベンダー(情報システム企業)のセミナーは、タイトルを問わず必ず
といっていいほどに出てくるキーワードは「見える化」。
その内容は、
(1)経営方針発表会、経営方針のブレイクダウン、各組織の事業計画に落
し込み
(2)決算数値などの経営業績の進捗状況
(3)販売活動や決算短縮取組み等の各職場目標の進捗状況
(4)QCD、3S活動、ノー残業デー活動などの職場個々の各業務改善取
組みの進捗状況が大半となっている。
これら企業経営情報や社員の自発的活動の取組み経緯の掲示や発表などによ
る全社員へのオープン化は今に始まったことではなく、従来からも活発に行
われていた。
従来は、開示する情報種は経営幹部がイニシアチブつまりトップダウンのケ
ースが多く見られたが、今日では経営幹部は企業や各組織の方針を打ち出し、
それを受けた社員がその方針を自己の業務にブレイクダウン、その進捗状況
を全社員の共有情報としてオープン化、先取りした課題を全社員で解決に導
く、つまりボトムアップスタイルに変質していることがうかがわれる。当然
ながら経営幹部は全社員参画経営の表れと、時間や金銭面等でバックアップ、
さまざまな利便を講じて いる。
2.「見える化」の求める効果と活動方法
大企業だけでなく中小企業に至るまで全業種・全企業はグローバル経営を余
儀なくされ、過去の成功体験のコピーではなく、全社員の創意と工夫をもっ
て、一人一人の社員が考え、それを形に変え、関係者全員が共有化し、総合
的な力を集中させるプロセススタイルなくして企業の永続は困難な経営環境
となっている。
そのプロセススタイルのツールとしてスポットが当てられたのが「見える化」
による業務改善活動。
「見える化」の求める効果としては、
(1)社員一人一人が気づきを得たことを、
(2)その気づきを文章化、図表化、記号化などで、素早く形にして、
(3)全員の目に触れさせることにより、他者の気づきが触発され、その気
づきに磨きがかけられ、
(4)磨かれた気づきを職場の改善に結びつけ、職場の活性化および会社の
目標達成に貢献、ひいては社員個々の目標をも具現化する。
(5)この(1)から(4)に至るプロセスを繰り返し実践する仕組みや風
土を醸成する。
つまり、全員が当たり前のことを、ひとつひとつ、着実に、ステップを登っ
ていくことにより、企業の成長と個人の幸せ、あわせて顧客満足度向上の実
現を図る。
では、「見える化」活動として具体的にどのようなものがあるのかを例示し
てみる。
(1)経営方針の策定・開示・徹底の仕方、
・経営方針や事業方針発表会を実施
・発表後は、職場の見えるところに掲示し、継続的に徹底・理解させる
・理解を深めるだけでなく、ブレイクダウンし職場や個人の目標の中に
折り込む
(2)事業業績の進捗状況
・期初設定の目標管理内容の進捗状況を上司および経営幹部と意見交換
する
・販売会議等で、販売計画と実績の差異分析を行い、次月計画に反映さ
せる
・販売計画等の目標に対する日別ごとの進捗状況を掲示する
(3)経営数値の抜粋
・月次決算の抜粋の公表(売上、営業利益、経常利益)(当月、累計、
前年比)
・成功事例の公表と、全員の前での顕彰
・失敗事例の原因分析と対策の公表
・クレーム・トラブルの生データ分析と対策の検証
(4)企業全体及び職場個々の業務改善取組みの進捗状況など
・コミュニケーションの推進
職場懇談会
経営幹部との懇談会
朝礼での所感発表
出社時や退社時の挨拶
出張の出発や帰着時の声かけ
リクレーションなどの懇親会
・社員一人一人のキャリアアップの取組み
勤務評価のフォロー、意見交換会
目標管理のフォロー
塾活動や匠活動などの自主研修会
外部研究会への参加促進
・職場改善活動
3S活動の取組み
電話、FAX、メールマナーの改善
経営幹部の職場巡回による現場の士気と問題点の把握
ご意見箱の設置とスムースな回答
意識実態調査
各種サークル活動の計画と進捗
これらの活動内容を当事者間だけの共有に止めるのではなく、全員の目に触
れられるように、各事例を図表化や文章化にして掲示する(オープン)こと
が、一人の気づきが全員の気づきとなり、適時適切な対応に結びつく。
3.「見える化」の課題と対策
「見える化」は「一人の気づき~全員が考える~改善に向けての活動~実践
する仕組みや風土の醸成~社員の自己充実~顧客満足度向上の実現~企業の
成長」を具現化する有力ツールである。
「見える化」の効果をより一層深めるには、単に現在の状況・実態を示すこ
とではなく、進捗プロセスを明示し、課題が先取りできるような気づきが得
られることが肝要ということからして、大切なことは、
(1)全員が、目標、業績、成果、配分の共有及び意識レベルのリテラシー
向上を図れるように基準・ルールを設定し、統制(コントロール)を行
う
(2)活動成果や問題点の先取りは、計画と実績との差異チェック管理が有
効であるだけに、どんな活動も計画ありきを徹底する
(3)必要な人が、必要な時に、必要な情報を得る、ことは情報システムの
最も得意とするところであるだけに、情報システムの整備と活用がベ
ースとなる
4.情報システムを活用した「見える化」の取組み事例
(1)事例A社:週ごとの月度売上シミュレーションと月次決算早期完了に
よる目標管理
従来は前年同月の売上推移グラフから想定して月度売上見込みを予想してい
たが、シュミレーションツールを開発し
・総額及び客先ごとの本年度・昨年度の月間日別売上推移データを加工し、
グラフ化表示することにより、毎週ごとに月度売上のシミュレーションで、
月度売上の予測が容易に掴め、とるべき販売施策が可能となった。
・当月度決算を翌月5日までに仕上げることにより、計画と実績差異の原因
分析を徹底。販売会議では売上遅れの取り戻しや、計画の上方修正に有効
な検討が可能となった。
(2)事例B社:総在庫管理から問題在庫管理にシフトし、死に筋在庫の削
減を図る
・在庫管理といえば在庫の総額または金額把握、少し踏み込んでも品種別や
品番別の在庫回転日数を算出して、適正在庫か過剰在庫かを判断、一喜一
憂している。
・しかし、商品は在庫期間が長引くほど流行遅れ、デザインの陳腐化および
ニーズの変化などにより商品価値は低下するだけに、情報システムの在庫
ファイルにABC機能を強化し、月度の実地棚卸時点で売れ筋在庫か死に
筋在庫かまたは商品の陳腐化度など、のABC管理を行う。例えば、
C商品(長期不移動商品)のロケーションは別管理。
情報システムよりC商品をリストアップし、壁面に掲示し特別販促日を
設定し在庫0化を推進する。
見本品展示商品、不良品在庫や返品未処理商品のロケーション管理も徹
底化。
(3)事例C社:与信管理を徹底して債権回収サイト計画を厳守する
売上は回収が完了して初めて売上となることは流通業界の常識。回収期間が
長ければそれだけ運転資金調達が必要となり調達コストが付加される。
・貸倒れ、回収滞留化リスクを回避するために、情報システムで客先ごとの
与信限度額と総債権額のチェックおよび回収サイトの推移をアウトプット
し、問題債権を明示、回収遅れや違算トラブルを未然に防ぐ。
5.終わりに
「見える化」は業績や業務活動及び社員の自発的活動などの情報をやみくも
にオープンにすれば良いというものではない。社員の自己実現と会社の目標
達成の視点よりオープンにする情報を選別する。
オープンにする情報の選別に当たっては、
・その情報をオープンにする目的と狙う効果は何か
・社員にはどのような取り組みを期待しているのか
・一度オープンした以上は少なくとも半年から1年間は継続し、効果を積み
上げる
・情報システムは、結果(KGI)検証よりも進捗状況(KPI)を必要の
都度チェック・検証する機能に重きをおくこと
ことを基本に据えることが「見える化」をより一層効果あらしめることにな
る。
(以上)
■執筆者プロフィール
恩村政雄 E-メール: obcc.onmura@nifty.com
OBCC主宰(onmura・ビジネス・クリエーティブ・コンサルタンツ)
NPO法人ニュービジネス支援センター 理事長
TEL/FAX: 075-981-3830 URL: http://www.npo-fc.jp
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