1.KKD型経営からの脱却
「KKD型経営から脱却を!」といったような話をときどき聞くことがある。ご存知だと思うが、KKDとは経験・勘・度胸の頭文字をとったものである。
このKKDに頼った組織運営を行っていると、現状にあった対応を迅速に行っているように見えるが、実際は本質を見誤っており、それによって不適切な対応を行ってしまい、結果として大きな損失をだしてしまうといったようなことが起こりうる。このような状況に陥らないためにも、KKDに頼るのではなく、経営品質を高める様々な手法を取り入れることが重要であると、よく言われている。
2.KKDによる弊害
KKDがなぜ良くない結果をもたらすことがあるのかを考えてみる。
一つ目のKである「経験」については、自分はたくさんのことを経験しており、世の中のことはほとんどわかると錯覚してしまったり、昔に経験したことが強く印象に残っており、現在の世の中にはミスマッチとなっているにもかかわらず、それに気づかないでいるなどの状況に陥ることが多い。
二つ目のKである「勘」については、前述の十分ではない「経験」に基づくうえに、自分たちが置かれている現状などの認識が十分でない状況の中で、考えついた内容は最適な選択肢とならないことが多い。
最後のDである「度胸」については、過去の成功体験による自信が、リスクに対する検証を十分に行わないまま、前述の「経験」と「勘」による行動を実行に踏み切ってしまうのである。
3.KKDは悪か
前項ではKKDによる弊害について述べたが、このようなことがあるからKKDは排除すべきことなのであろうか。
過去の高度経済成長の中にあっては、KKD型の経営で成功してきた多くの事例があるにもかかわらず、現在においては多くの失敗事例とともに否定的な意見が多い。なぜ、このように変化してきたのであろうか。
高度経済成長の時代においては、科学技術や社会システムなどが現在ほど複雑化しておらず、多くのことを一人で経験することが比較的容易であった。そのためカリスマ経営者がすばやい判断をすることにより、拡大中の市場の波に乗って業績をどんどんとのばしていったと考えられる。
科学技術が高度化して社会システムが複雑化し、市場が成熟しつつある現在においては、これまでと同じようなKKDは通用しないのである。ただし、インターネット普及の黎明期などにおいては、一時的に高度経済成長期のような強引なKKDによって成長した企業はあるが、現在においてはその大半が淘汰されている。
現在においては従来のようなKKDの手法は通用しなくなってきているのであるが、KKDの手法を進化させることにより、新たな事業を行う場合などの原動力とできないだろうか。
4.KKDの進化形
現在の世の中においてKKDが通用しないのは、科学技術や社会システムが複雑化して、ひとりの人間がその内容を十分に理解して受け入れることができず、正しい判断をできなくなってしまっていることにあると考えられる。この人間の能力を超えてしまう部分をITによって補うことにより、KKDを発展的に変化させて、組織の競争力アップにつなげることはできないのであろうか。
「経験」については、ナレッジマネジメントの仕組みを利用して、自分が経験したことのみならず、ほかの人が経験した内容についても仮想的に経験し、幅広い経験を知識として活用していくことができる。
「勘」については、財務だけでなく様々なリソースを定量化して管理することにより自分たち自身についての現状を正しく認識するとともに、外部環境についてもインターネットなどを活用して常にアンテナを張り巡らし、次なる行動計画の正しい選択肢を考えてゆけるようにしていく。
「度胸」については、蓄積された様々な情報を活用して分析やシミュレーションを行うことによってリスクを正しく認識して、それを最小化できるように計画をさらに改善することができる。ただし、行動を起こす場合にリスクが0ということはありえないので、最後に決断する「度胸」は必ず必要となる。しかし、これまでのプロセスでリスクが最小になっているので「大博打」といった度胸は、あまり必要なくなってくると考えられる。
5.おわりに
経営品質の向上のためにはKKDを排除していく必要があるという意見も多くある。もちろん経営品質向上のために、さまざまな対応を行わなければならないのだが、そのために今までの日本の成長を支えていた手法のひとつを簡単に否定してもよいのであろうか。米国や欧米で使われている手法を積極的に取り入れることも良いのであるが、そこに日本独自の考え方を取り入れることにより、国際競争力を確保できるという考え方もある。
これまでのような、カリスマ経営者による個人プレーのKKDは通用しなくなってきているが、客観的な視点を重視し、ITの力を借りて組織として実践される進化したKKDであれば、現在の世の中でも十分に力を発揮できるのではないだろうか。
なお、今回述べた「KKDの進化形」については、理論的に十分検証されたものではなく、実際にこの手法で成功した実績があるというものでもないため、あくまでも考え方の一例として、とらえていただきたい。
■執筆者プロフィール
池内 正晴 (Masaharu Ikeuchi)
学校法人聖パウロ学園
光泉中学・高等学校
ITコーディネータ
E-mail: ikeuchi@mbox.kyoto-inet.or.jp