中小零細企業の現場から(1)/米田 良夫

 私は商工会議所で経営指導員として勤務しております。今回のメルマガは、中小零細企業の現場を回っていての感想と考えをレポートいたします。
 私の勤務しております地域は、町工場が多く下請企業がほとんでです。昨年のリーマンショック以来、売上が3割から6割減少しています。工場の稼働率も半分ほど低下し、金曜日だけでなく、月曜日も休みにするなど、100年に1度と言われる不況をまともに受けております。
 経営指導員として、皆様に活気を取り戻していただこうと巡回しておりますが、景気を回復して物を動かすようにすることは、個人ではできません。また、社長自身も、既存得意先への営業や新規顧客開拓、新製品開発などあまり積極的ではありません。職人社長さんで無理もないのですが。そういうことで今は、ネガテブにならず、気持をポシティブにして、乗り切るようにお話しております。

 今、一番問題なのは、売上減からくる資金繰りであります。多くの事業所が緊急保証制度を利用しておりますが、その返済をしなければなりません。しかし、春頃から、信用保証協会に返済ができないという申し出をする事業所が増加しています。銀行から誘われるまま借入したが、返せないという状況です。
 商工会議所の方へも小規模事業者経営改善資金融資制度(以下、マル経)の利用を希望する事業所も増えております。また、中小企業倒産防止共済や小規模企業共済の解約、減額も増えております。

 以上のような現状を踏まえ、以下のように私の考えをまとめてみました。

1.できれば借入はしない方がいい
 中小企業では社長からの借入はもちろん、外部からの借入も資本金となっており、借入金の借換が永年継続しています。金融機関や商工会議所もその借換を勧めていることも問題ですが。
 借入はいつかは必ず返済する必要があります。いくら信用保証協会の保証があったもしても同じです。いくつかの事業所では、今の時期は借入をせず、経営努力をすることで乗り切ろうとしています。また、数年前から経営改革に取組み利益をだした事業所もあります。この不景気をいい機会としてとらえ、経営を今一度見直してみることも必要です。
 中小零細事業所も資本を強化することで、無借金経営をめざすことです。

2.資金繰り表、試算表を毎月自ら作成する
 中小零細事業所では、財務をほとんど税理士に全面的に依存しております。当期の試算表を見せていただくようお願いしても、税理士に依頼するため数日かかり、場合によっては、5ヶ月前であったりもします。それというのも、半期や一年分まとめて、領収書などを税理士に渡して、あとはお任せであるためです。
 また、最も重要ですが、資金繰り表を作成することです。設備資金、運転資金にかかわらず、キャッシュの管理は社長の責任であります。今月、お金がないと急にあわてても手遅れです。金融機関によっても違うでしょうが、融資が決定されるのは1ヶ月程度かかります。月別、あるいは日別の資金繰り表を手書きでもいいので、作成するようにする必要があります。
 会計ソフトも安くて使いやすいものもでており、社長自ら管理することが必要です。

3.経営計画を作成する
 マル経の申込に来られた方に、現状と今後の業況についてヒアリングするのですが、経営計画がありません。確かに、景気動向など外部要因に影響を受けるのですが、それを見越した計画をたてる必要があります。返済計画や融資効果を考えるのに苦労する点です。

4.金融機関に決算書を提出し、事業内容を説明する
 マル経融資先事業所で決算書を持ってこられることがあります。商工会議所への情報公開と思いますが、同じことを日本政策金融公庫や銀行に行って欲しいと思います。そこで、ただ持参されるだけでなく、次期の見込みなどを説明することです。
 持ってこられたら、決算書をみて問題点を指摘し、対策をとっていただくよう指導しております。最近も問題をそのままにしており、資金繰りに困難をきたす事態になった事業所もあります。

5.町工場であっても営業は必要である
 町工場の社長は職人さんであり、営業には不慣れです。既存の取引先への営業活動や、新規の取引先の開拓を勧めますが、なかなか動いていただけません。
 特に、永年固定の取引先の下請をしている事業所は、新たな取引先の開拓には消極的です。そして、下請元の業況回復をじっと待っている状態です。このことは、資金問題より難しいことであるように実感しております。


■執筆者プロフィール

 クリッジナリティー      代表  米田 良夫

商社系・独立系のコンピュータ販売会社、技術者派遣会社で永年SEとして勤務後独立する。主としてオフコンであるが、汎用機からパソコンまで開発する。システムは生産管理から販売管理、会計、人事・給与など多種の開発をする。現在、商工会議所の経営指導員として、中小零細事業所を巡回し経営支援をしている。
中小企業診断士、ITコーディネータ、ビジネスコーチ。