LとRのクラウド/宗平 順己

 最近クラウド・コンピューティングという言葉がよく見かけられるようになっています。「ITpro EXPO 2008 Autumn」における講演レポート、「米国で記者が目撃したクラウド・コンピューティングの実像」を見て頂くと米国での実態がよくわかります。(動画で前後篇25分ほどです)

http://bptv.nikkeibp.co.jp/article/081112/081112708.html

 ここで話題となっているクラウド・コンピューティングは、いわばレンタルサーバの超廉価版ととらえて頂ければ良いです。これをLのクラウド(Cloud)と呼んでいます。
 皆さんが気にすべきは、もうひとつのクラウド、Rのクラウド(Crowd)と呼んでいる、クラウドソーシングというものです。
 クラウドソーシングの走りの一つとして、2000年にジャック・ニッケルが始めたスレッドレスというものがあります。これは、オンライン・アパレルと言われるもので、消費者は自分のTシャツデザインをサイトにアップし、サイトの訪問者が人気投票を行い、人気の高いデザインだけをTシャツにプリントして販売するというものです。ジャックはサイトの運用とTシャツのプリント・販売以外何もしていません。デザイナーもマーケティングも全て顧客(コミュニティ)が行ってくれています。

 クラウドソーシングの例として良く引用されているものとして、iStockphotoというものもあります。Webデザイナーのブルース・リビングストンが自分たちの写真をWebサイトに登録しいつでもダウンロードして自由に使えるようにしたシステムがはじまりで、ファイルをダウンロードするごとに25セント課金するしくみになっています。ところが、このしくみに目を付けたアマチュアやセミプロ写真家や写真素材を必要とする企業ユーザが、
・自分の写真をサイトに載せるといろいろな人々が採用してくれる
・既存の有償サイトよりも非常に安価にそこそこの品質の画像を入手できる
というように需給双方のメリットが評価され大きなビジネスへと発展しました。
その結果有償サイトを運営していたGetty Images社は2006年にiStockphoto 社を5000万ドルで買収せざるをえなくなってしまいました。
 このようにクラウドソーシングは、インターネット上のバーチャル・コミュニティに参加する多くの一般の人々(Crowd)の才能や知恵、知識などを活用してビジネス課題を解決するものです。ウィキペディアやLINUX、オープンソースもこの例として捉えることができ、その活用範囲は非常に多方面にひろがりつつあります。

 ここで皆さんに気がついて頂きたいのは、クラウドソーシングのための仕組みはクラウド・コンピューティングの環境を使って簡単にできてしまうということです。有名なYoutubeもGoogleの環境を利用して携帯向けサイトを迅速に作ることができました。
 インターネット上にはとても便利な無償・安価なコミュニケーション環境やソフトが多くあり、これらを組み合わせる知恵とアイデアがあれば、新しいビジネスを立ち上げることができます。このような取り組みは大企業は非常に不得意とすることで、機動性の高い中小企業の皆さんであるからこそ可能なものです。
 ぜひ、ITコーディネータのアドバイスを得て、LとRのふたつのクラウドを有効活用して下さい。


■執筆者プロフィール

氏 名 宗平 順己(むねひら としみ)
所 属 (株)オージス総研 執行役員 技術部長
資 格 ITコーディネータインストラクター、ITコーディネータ、公認システム監査人

専門分野
・SOA
・BSC(Balanced Scorecard)
・IT投資マネジメント
・ビジネスモデリング
・IT統制