ITアウトソーシングの見直し その2/大塚 邦雄

 前回2月に標記テーマでメルマガを執筆しましたが、今回はその続きとしてクラウド・コンピューティングサービスを取り上げます。今話題のSaaSもクラウド・コンピューティングサービスの一つです。ではSaaSとクラウド・コンピューティングサービスでは何が違うのかといいますと、SaaSは電子メールやグループウェア、業務用アプリケーションなどのソフトウェア・パッケージの提供を行なうものです。これに対してクラウド・コンピューティングサービスは、ソフトウェアだけでなく、ハードウェアやデータベースなどを含めた幅広い概念です。これらはインタネットを介して利用しますが、インターネットを雲形で表すことから名付けられました。具体例を挙げると、Google Appsや、Amazon EC2/AmazonS3などがあります。言葉の定義はさておき本題にはいりますが、

 初めに話しは少し外れますが、先にあげたGoogleですが、Googleの検索はコンシューマ向けに如何に検索サービスを安価に提供出来るかを考えて、考え抜いた末に生まれたもので、その結果として仮想化技術を使いこなしてきているのです。
ですので云うまでもなく、本質的なものが何であって、その手段と目的を履き違えると本末転倒になってしまいます。クラウド・コンピューティングサービスを利用するにあたっても、ただ漠然と利用するのではなく、目的をもって活用しなければなりません。

 とはいえ、具体的に業務にどのように使えるのかイメージが付き難いと思います。ちょっと前に話題になりましたが、ある自治体ではCRMのSaaS提供業者が構築・運用した定額給付金の事務処理アプリケーションを利用することで、事務処理の準備をわずか2週間で完了させたといいます。定額給付金は一時的なものですから、そのためにITシステムを構築することは馬鹿げています。しかし、クラウド・コンピューティングサービスを利用することによって、迅速に体制を整え、事務処理が完了すれば契約を終了すればよいのです。
 これは一例ですが、この様に必要とする時期に必要な機能を使うことも出来ます。もちろん企業であれば継続的に使用して情報の蓄積・活用を図らなければなりません。

 反対にクラウド・コンピューティングに向かない処理があります。ちょっと専門的になりますが、クラウド・コンピューティングの特徴を理解していただく為に簡単に説明します。それはトランザクション処理と言われているもので、複数のコンピュータ(ユーザ)から一つのデータを同時に更新する場合です。この場合データの整合性を保つ為に、一つの処理が終わるまで、他のコンピュータ(ユーザ)の処理を排除しなければなりません。しかしクラウド・コンピューティングではこの排他制御をせず、ひとまず更新を進めます。このためトランザクション処理では更新が失敗することも想定しておかなければなりません。
 また、クラウド・コンピューティングでは一つのデータを複数のサーバで保持するようにします。これはあるサーバにアクセス障害が発生した場合でもデータが保持されるようにするためです。このためデータ更新が遅くなり、その間にデータの一貫性が崩れる可能性があります。
 その他にもデータベースの情報の持ち方によっても向き・不向きがありますので実際に利用するにあたっては専門家に相談して進めることが必要になります。

 クラウド・コンピューティングサービス利用でよく言われることにセキュリティ問題があります。当然セキュリティは確保しなければなりませんが、水と安全はタダではないことを銘じておくべきでしょう。クラウド・コンピューティングサービスで取り扱う業務処理を選択し、更に万が一の保険をかけておくことも必要です。

 中小企業にとって、会社規模では大企業に及ばなくてもネットの社会では時間とチャンスは平等に与えられています。またクラウド・コンピューティングサービスには大企業と同等のソフトウェアを技術を持つことが可能ですのでこれを利用しないことはありません。何が出来るか、その前に何をしたいかをはっきり決めて検討されてはいかがでしょうか。

注)
SaaS(Software as a Service)
Google Apps:Googleが提供する表計算・ワープロ・メール・カレンダー機能等をもつサービス
Amazon EC2/AmazonS3:Amazonが提供する商用ウェブサービス。レンタルサーバ上で希望するソフトウェアを実行することが出来る


■執筆者プロフィール

 大塚 邦雄
 情報処理システム監査、ITコーディネータ
 30年にわたるシステム経験をもとにIT化を支援します。
 e-mail:k_ootuka@mbox.kyoto-inet.or.jp