ロングセラー商品を作り続ける老舗の経営/松山 考志

 ウォークマンといえば、ソニーの携帯音楽プレイヤーとして世界的に有名なロングセラー商品です。ソニー創始者の1人である井深氏が移動中に好きな音楽を聴きたいと望んだことから、昭和56(1979)年7月に第1号のカセット方式のウォークマンが誕生し、発売と同時に世界的なヒットを記録、その後CDウォークマン、MDウォークマン等でヒットを連発しましたが、インターネットの出現により、iPOD(アイポッド)に人気を奪われていました。
 しかしながら、今年に入り、国内の携帯音楽プレイヤー市場に異変が起きています。ウォークマンが、市場を独走する米アップルのiPODを猛追しており、今年8月、9月に週単位でソニーがアップルを逆転して初の首位に立ち、月間シェアでも僅差に迫りました。理由は、ウォークマンが消費者のニーズを捉えラインナップを揃えたことや、音の品質がiPODより評価が高いといった指摘もあ
りますが、ソニーが長年培ってきたウォークマンブランドに依拠するところも大きいと思われます。

 企業にとって、ウォークマンのように長く売れ続ける商品があれば、事業の安定と企業繁栄は保証されると言えます。しかしながら、実際は、目先のヒット商品を飛ばすことに躍起になり、安易なモデルチェンジを繰り返し、頻繁なディスカウントセールによる価格競争に巻き込まれる等で、売上不振から抜け出せない事態に陥ることがあります。最近の自動車業界と小売業界の不振はその事例と言えるでしょう。一方で、安易に安売りをせず、量より質に重きを置いた多品種少量生産を基本とし、息の長い商売を続けていこうとする老舗企業も今なお数多く存在します。

 京都には、創業百年以上という厳しい競争に勝ち残ってきた企業が1千社を超え、今も商売を続けています。京都の老舗が勝ち残ってきた共通の理由の1つとして、ロングセラー商品を持っているということが挙げられます。この寿命が長い商品の特徴としては、時代を問わず飽きがこない、品がよく派手派手しさによる嫌気がない、安くて質がよい、使い勝手がよい、適量生産品である、圧倒的な支持層を持っている、となります。本当にいい商品は飽きがきません。安価で目を引くようなデザインで使い勝手の悪いものなどは、衝動買いされるものの、時間が立つと飽きられる商品です。売上至上主義で、本来のお客ではない人に無理やり売り付けようとした結果、企業経営の健全性が損なわれることもあります。
よい商品は、しっかりと顧客を掴んでいて、その人たちの御用達というべきお店になっています。

 本当によいものを作り続ける老舗企業は、こだわりと誇りを持ち、「ナンバーワン」ではなく「オンリーワン」を目指しています。ここでしか作れない商品を持つことは、言うは易し行うは難しです。時に社内の新モノ好きが、自分の存在感を誇示するために新商品開発を始め、前任者が長年行ってきたことに異を唱えることが見うけられます。経営者としては、ロングセラー商品化を行う際に、自らも含めて社内にロングセラー商品に対して飽きさせない風土を作ることが必要です。流行や、売れ筋商品に対して敏感になることもありますし、他社商品を見すぎて自社商品を深く見ようとしなくなることもあります。ロングセラー商品やブランドにあぐらをかいた結果、新商品開発の成功体験を忘れられない企業は、社内のこうした抵抗勢力に負けることもあるでしょう。その時々に新しい手法とアイデアを取り入れ、改善を積み重ねることで、社員や顧客にも飽きのこない、ロングセラー商品を育てられると思います。
 先のウォークマンの例は、老舗のロングセラー商品の条件に当てはまるでしょうか。ソニーの時代を問わず飽きがこない音にこだわった商品作りの姿勢、ウォークマンの「‘いつでも’‘どこでも’手軽に音楽を楽しむ」というシンプルなコンセプト、ファッショナルブルでありながら飽きの来ないデザイン性の追及、他者と同等と価格帯ながら常に音に対する技術を磨き高音質な音楽を携帯プレイヤーで楽しめるようにするという点や、10代や20代の若者はもちろんのこと、昔ウォークマン世代であった年配層まで幅広い顧客に支持されていることが当てはまります。

 モノが溢れている今、企業が老舗のような経営感覚を持つと、私たちの生活環境はずいぶんと快適になるのではないかと思うことがあります。無理な成長をせず、質のよいものを自他の利益を考え適正に販売し、お客様の声を聞き、お客様に喜んでいただけるモノを提供し続けるよう努力することによりロングセラー商品を作り続ける、老舗の経営は今なお非常に参考になるお手本といえるでしょう。

(参考文献)
・商売繁盛・老舗のしきたり 成功企業が守り伝えてきた21の大切な教え  泉 秀樹 PHP新書
・京都人の商法 「伝統」と「革新」を両立させるビジネス感覚に学ぶ  蒲田 春樹 サンマーク出版


■執筆者プロフィール

 松山 考志

 セキュリティパッケージソフトウェア開発会社勤務。
 東京で中小企業の経営支援のお手伝いをさせて頂いています。