ITコーディネータとしての心構え/二上 百合子

 先日、プロジェクトマネジメント研修に参加しました。講師は、ITコーディネータの方で、同じITコーディネータ仲間の研修を受講生として聴く、というなかなか面白い経験をしました。(講師の方はさぞ、やりにくかっただろうと思います。)その講義の中で、講師のKさんは自分の経験を話して下さいました。
もしかしたら、経験の浅い私が受講していたのでいろいろ話して下さったのかもしれませんが、とても共感できるお話でしたので、いくつかご紹介したいと思います。

 Kさんが、経営のコンサルティングとしてある会社に行かれた時のことです。
経営幹部の方々から、現状や悩みなどをヒヤリングして、経営改革を作成し提案したところ、経営幹部の方もその内容に感心されて「すぐに実施します」と言われたそうです。ところが、翌週、翌々週とその会社に行ってみても、実施されている様子がない。経営幹部の方に聞いても「忙しいから」と言われて、なかなか実行にうつされなかったそうです。提案された経営改革は、その時点での問題から導きだされたもの、周囲の状況の変化によっては無意味とは言わないまでも、修正が必要になるかもしれません。しかし、経営幹部の方々は方針が決まったと安心してしまい、実行を先延ばしにされてしまったのです。その後、経営幹部の方と、ヒヤリングだけでなく、一緒に経営戦略を考えて経営改革の案を作ると、「今、何故その経営改革が必要なのか」を理解して頂けるせいでしょうか、格段に実行される確率があがったとのことでした。

 また、経営戦略を考える場では、なるべく多くの経営幹部の方たちに発言してもらい、Kさん自身はあくまでファシリテーター(会議などを進行する人、促進者)としてフレームワーク(ツール、手法等)を提供する形で進めるそうです。
そうすると、最初はなかなかいい案が出てこないのが、複数の人で頭を突き合わせ、呻吟しながらわからないなりに手順に従って話合いを進めていくと、まるでなかなか泡立たない卵の白身が、一所懸命かきまぜているといつの間にかメレンゲになるように、気がつくと経営戦略ができている。それは社長1人でも会長1人でもできない、皆で話し合い、コミュニケーションをとりながら考えていった結果だ、と説明されました。

 もう1つ、印象に残ったのは、Kさんがコーチングを学んでわかったこと、そそれは人と人とは異なるものだ、というお話でした。Kさんがはじめてコーチングをした時、まるで誘導尋問のようだ、と言われたそうです。つまり、相手の話を聞いている間に、Kさんの頭の中ではもう答えが見えてきて、その答えに向かって、話を進めるようにしてしまっていた。しかし、コーチングというのは、人の話をよく聞き、たとえ自分の考えと異なる答えが出てきても、その人が自分で考えて出した答えであればよいのだ、自分の意見を押し付けるものではない、ということを学んだというお話でした。

 これらの話は、ITコーディネータとして、経営戦略をつくるサポートをしていく上で、Kさんが常に気をつけていることだと思いました。
1.経営幹部の方々に全員で経営戦略を考えてもらい、「自分たちで考えた戦略である」という意識を持って改革を実施してもらう。
2.ITコーディネータは答え(例えば経営戦略など)を提供するのではなく、経営幹部の皆さんの話を聞きながら、ツールや手法を提供して解決策を導き出すお手伝いをする。
3.1人で考えたのでは難しくて解決できない問題でも、皆で協力しながら考えて解決策を導きだしてもらう。その際に、大勢とは異なる意見が出ても、決して否定しない。

 上記はどれも、ITコーディネータ研修では言われた内容なのですが、私自身忘れがちです。特に、ついつい答えを押し付けてしまい、ファシリテーションではなくコンサルティングになりがちです。プロジェクトマネジメントの教育を受講して、ITコーディネータとしての心構えを思い出すことができました。

 IT経営応援隊の活動の1つとして、経営者研修会の実施があります。経営者研修会では、経営戦略の立案からIT経営企画までの一連の流れを、経営幹部の方に受講生としてシミュレーション学習してもらいます。そしてIT経営の重要性等、新たな「気づき」を得て頂くことで、IT経営への取り組みのきっかけとして頂く活動です。その経営者研修会に講師として参加することがありますが、非常に教材のボリュームも多く、また参加しておられる経営幹部の方々も、そういったシミュレーションに慣れておられないことがあって、つい「研修だから」と模範解答の説明に終始してしまっていました。これからは最適な答え(と言っても1つではないのですが)に至るまでの経過を一緒に考え、悩み、導きだす為のお手伝いをするパートナーとして参加して行きたいと思います。また、経営者研修会に参加される経営幹部の方々にも、私たちITコーディネータとの出会いを生かして、私たちが持っているツールや経験を貪欲に吸収し頂けるように、自社に戻って実際の経営戦略を作成する際に役立てて頂けるように、サポートしていきたいと思います。


■執筆者プロフィール

二上 百合子(ふたがみ ゆりこ) ITコーディネータ