ツイッター利用の事例を通じてソーシャルメディアの活用について考える/池内 正晴

1.ソーシャルメディアとは
 多くの人々に物事を伝える仕組みとして、特定少数の発信者からの情報を広く伝えることができる新聞やテレビに代表されるマスメディアがこれまでは中心的役割を果たしていた。その後、インターネットが普及することにより、個人がホームページなどで情報発信することが可能となった。さらにブログなどの新しい仕組みができたことにより、誰もが手軽に情報発信することができるようになった。このブログなどに代表される個人が不特定多数の人々に対して手軽に情報発信できる仕組みの総称として、ソーシャルメディアと呼ばれるようになってきた。

2.今話題のツイッターとは何か
 ソーシャルメディアの中で現在話題となってよく取り上げられるものとして、ツイッター(Twitter )がある。「つぶやき」と表現されていることが多いツイッターとは、ツイッター社が運営している無料で利用できるインターネット上のサービスであり、ブログよりもっと気軽に個人が思ったことなどを発信できる仕組みである。
 ブログのイメージを日常の行動に例えると、各個人が見たことや感じたことなどを日記に書いて貼り出し、それを多くの人に見てもらい、それを見た人がコメントを書き込んだりするといった具合になる。
 それに対してツイッターのイメージを例えると、各個人が見たことや感じたことについて、短い文章ですぐに付箋に書いて貼り出して多くの人に見てもらい、それを見た人がさらっとコメントを書き込んだりするといった具合になる。例えば、外を歩いていて「今日は少し寒いな」とつぶやいたら、通りがかりの人が「風邪を引かないように気をつけてね」と声をかけてくれたと言った感じの気軽なコミュニケーションなのである。

3.ソーシャルメディアとしてのツイッター
 ツイッターでの情報発信は気軽に行えるので、その内容は非常に軽いものと思われるかもしれない。しかし気軽に発信できることにより、多くの人がすぐに情報を発信することができる。そして、発信されるのがインターネットの世界でありコンピュータ上で行われることであるため、さらに多くの人が発信した情報を検索してすぐに見るといったことができるのである。
 何か大きな事件が起こったときなどは、それを知った多くの人が見たことや、聞いたこと、そして感じたことなどを即座に書き込むといった状況が発生する。
そしてさらに多くの人々がその書き込んだ内容を読んだり、それに対してコメントするといった状況が重なり、そのなかだけでひとつの世論が形成されたりすることもある。これがソーシャルメディアと呼ばれる理由でもある。
 ブログもソーシャルメディアのひとつであり、書き込まれた内容に対してオープンな議論がどんどんと行われて、社会的に影響をもつといったことも、これまでにも多くあった。ツイッターは、ブログよりも簡単に情報発信できることから、利用者が増えることにより、さらに多くの人からの情報をスピーディに広げていく力を持っているのである。 これらのことより、ソーシャルメディアは市民の目線での世論をどんどんと形成していく力を持っていると考えられる。

4.企業活動でのツイッター活用
 現在、多くの企業がツイッターの持っているソーシャルメディアとしての力を活用しようと試行錯誤を繰り返している。ツイッターを利用して直接的な利益を得ることは難しいと思われるが、活用して多くの利用者と対話することによって企業活動の大きな武器にもなり得る。一例としては、製品の開発者と消費者との間で、利用した感想を聞いたり、効果的な使用方法などを紹介することなどにより、消費者がその製品を身近に感じることができるだけでなく、開発者としても次の新製品のヒントとなる情報を得ることもできる。

5.ツイッターを利用した企業活動によるトラブルの事例
 ソーシャルメディアを企業PRの場として活用するためには、その成り立ちや特性をしっかり理解して実施する必要がある。
 最近の事例では、ある有名飲料会社が自社のキャンペーンをPRするために、特定のキーワードをつぶやいた人に対して、コンピュータプログラムを使って機械的にキャンペーンのPR文を送りつけるといったことを行った。
 利用者側からみると、自分がつぶやくことによって誰かがそれに応えてくれてコミュニケーションができることを期待しているところに、自分のつぶやきに対しての応答ではなく、企業からのPRが突然送られてきたこと対して不快感をおぼえる。そして、同じことがあちらこちらで次々に行われていくと、怒りに変わっていく。
 キャンペーンメッセージを送信し始めてから、送信した企業側がこの異変に気づき、送信を停止するまでの時間が約2時間であったということからも、ソーシャルメディアの反応の速さがうかがえるであろう。
 この企業にとって不幸中の幸いといえることは、ツイッターでのPRによる異変に気づいてからすぐに送信を停止し、その数時間後には謝罪文を掲載したという対応の素早さである。事後の行動については好意的に受け止め、擁護する意見を述べる利用者もいたため、その企業のイメージについても致命的なダメージを受けることなく、事態は収拾に向かっている。

6.ソーシャルメディアを正しく活用するために
 ソーシャルメディアにおいては、マスメディアのように自分の伝えたい情報を一方的に発信することはできない。多くの人と対話をしていくことによって、こちらのことを理解してもらうといった努力が必要となるのである。また、これはソーシャルメディアに限らずインターネット利用全般的に言えることなのであるが、インターネットではコンピュータを介してコミュニケーションを行うので相手の顔が見えない。しかし自分が対話している相手はコンピュータではなく、その向こうにいる人間なのである。そのことを常に意識して、相手の立場にたって状況を見ることができれば、今回のような過ちを犯すことを防げるのではないだろうか。


■執筆者プロフィール

池内 正晴 (Masaharu Ikeuchi)

学校法人聖パウロ学園
    光泉中学・高等学校
ITコーディネータ
E-mail: ikeuchi@mbox.kyoto-inet.or.jp