マーケティングの基本である4P、すなわちProduct(製品)、Place(立地)、Promotion、Price(価格)の中でも価格は企業の収益に最も大きく影響します。
製品やサービスの価格設定には、利益の最大化(長期または短期)、投資の早期回収、得意客の維持、競合他社の排除、余剰設備の有効利用といった背景や目的があるため、その戦略は重要です。本稿では価格戦略について復習してみます。
基本的な価格戦略には、コストベース価格戦略、顧客価値ベース価格戦略、競争ベース価格戦略の3つがあります。コストベース価格戦略はコストに基づいて価格を設定するものです。つまり、掛かったコストに目標利益を加えたものが価格となります。コストが固定費と変動費からなる場合には、損益分岐点の考え方も必要です。この戦略の欠点として、価格設定の目標が目標利益の達成に限定されがちである、顧客が払ってもよいと考える価格と設定した価格が大きくかけ離れる場合がある、製造部門にコスト削減のインセンティブが働きにくい等があります。
顧客ベース価格戦略は、顧客が払う価値ありと感じる価格を設定するものです。
ザイスハルムの知覚価値モデルでは、知覚価値(=知覚品質-知覚犠牲)がゼロより大きいときに製品またはサービスは購入されます。ここで知覚品質とは、本質的な価値属性に、ブランド名や広告効果といった付帯的属性を加えたものです。
知覚犠牲とは、金銭的コストに、製品やサービスを探すのに要する時間や労力、それを選択するときに感じる不安感といった非金銭的コストを加えたものです。
そこで、本質的価値を変えずに価格をより高く設定するには、付帯的属性を大きくするか、知覚犠牲を小さくすることを考えます。前者の方法には広告の活用があります。後者には、従量制・定額制・品質保証(返金)等により金銭的負担を明確にし、顧客の不安感を取り除く方法があり、時に顧客の「教育」が有効です。
競争ベース価格戦略は、競争市場において優位性を獲得するために価格を設定するものです。例えば、新規ビジネスについては、コストと同等または下回る積極的価格を設定し、顧客を獲得することで他社より迅速に経験を蓄積し、それをコスト削減に繋げて事業を伸ばし、最終的に他社を市場から駆逐する経験曲線価格法があります。銀行の利率で使用される実勢価格法は、市場で最も普及している価格または業界リーダーの価格にならう方法であり、有名観光地のレストランで使用される価格シグナル法は、品質が低くても、他社と同様の(高い)価格を設定する方法です。低コスト、強力な流通チャネル、資金力を保有する場合には、市場価格の上げ下げをコントロールするプライス・リーダー法を取ることもあります。
どの戦略を取る場合も重要なことは、収益の大部分を担う自社の得意顧客を奪われないような防御です。パレートの法則によると20%の顧客(多くの場合、リピータ)が売上の80%をもたらします。したがって、価格戦争を回避することは、価格戦争に挑むことと同程度に重要です。同じ市場セグメントをターゲットとする競合他社の価格戦略を分析することも重要です。
3つの価格戦略は、以下のように組み合わせて使用することが考えられます。
・コストベース価格戦略によって、価格の最低ラインを決定します。
(いくら以上にしないと元がとれないか)
・顧客価値ベース価格戦略によって、価格の最高ラインを決定します。
(いくらまでなら払ってもらえそうか)
・競合他社の価格によって、実際の(中間)価格を決定します。
また、価格体系(メニュー)に関する戦略には、以下のようなものがあります。
・価格差別化
顧客を分類し、高くても買う顧客には高く売り、安くないと買わない顧客には安く売る方法です。
(例)通勤・通学時の鉄道料金を高く設定
・プライスライン
製品をいくつかの価格帯に分類する方法です。
(例)高品質、中品質、低品質の3種類のホテルブランドを用意
・補完的サービス
中核サービスの利益率を低くし、補完的サービスの利益率を高くする方法です。
(例)産業機器の設置サービスの価格を低くし、整備サービスで回収
・パッケージ
2つ以上の製品やサービスを1つのパッケージにして特別価格で提供する方法です。パッケージの状態でしか購入できない純粋なパッケージ(例えば、パソコンの付属ソフト)とパッケージの状態で購入することも、パッケージの構成要素を個別に購入することも可能な複合的パッケージの2種類があります。パッケージの効果には、製品をカスタマイズするより組合せを変える方がコストが低いこと、価格差別化に利用してセグメント毎に異なる価格を実現できることがあります。
・需要管理
需要の大きさに合わせて価格を設定し、利益の最大化と需要の均等化を図ります。価格差別化と似ていますが、価格差別化は需要の均等化を狙いとしません。
(例)繁忙期のホテル料金を閑散期の2倍にする。
景況が未だ厳しくデフレスパイラルとも言われる中、価格をあげることは容易ではありません。しかし、これらの価格戦略を振り返って努力することも忘れてはならないことでしょう。
■執筆者プロフィール
岩本 元(いわもと はじめ)
ITコーディネーター、技術士(情報工学部門、総合技術監理部門)
&情報処理技術者(ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、システム監査他)
企業におけるBPR・IT教育・情報セキュリティ対策・ネットワーク構築のご支援