今年の5月末に経済産業省から出された「情報経済革新戦略」では、日本国内の労働生産性の低さ、IT投資への量と質の不足が指摘されている。
また、6月22日の通称「新IT戦略の工程表」では、70兆円の新市場創出のロードマップ化を図っている。ようやく成長化へのIT戦略の重要性に国?が気付いたと言うべきか?
米国のイノベーション戦略はじめ、韓国、中国、EU諸国は既に、同様のIT戦略への最重要化を推進しているのであるが。
その中でも重要な動きは、クラウドサービスの徹底活用である。このような環境の中で、中小企業として考えるべきポイントについて、少し、述べたい。
1)なぜ、今、クラウドサービスか?
企業全体のIT化予算は削減され、しかも、運用経費的な金額は、増加の一途である。また、市場環境は短納期、多種化、少量化とその形態は大きく変化しつつある。環境変化に対する素早い対応力、そのためのIT関連資源の的確で、低費用での運用が必然的に要請されている。必要な時に、必要なだけIT資源を使えるクラウドサービスは、資源の厳しい中小企業にとっても、その発展への重要な要件である。
2)全般的なクラウド導入の動きは?
幾つかのアンケートデータや支援している企業の話などから既存システムとの連携性、信頼性への心配、クラウド事業者変更時のトラブル、の不安から全体的には、積極的な導入の状況ではない。様子見的な企業が半数ほどいる。
しかし、そのような不安材料とは別に、ビジネス環境の変化が大きく、その対応のためもあり、各調査会社の報告では、市場全体の伸びを年率10から20%ほどと予想しており、クラウドサービス+自社システムのハイブリッドな形態が主流となるようである。
3)クラウドサービスにはどんなのがあるのか?
アプリケーションサービスが主体のSaaS、アプリの開発環境提供が主体のPaaS、ハード機能の提供が主体であるIaaSなどがある。
中小企業での活用が期待されるのが、SaaSである。月額4000円から15000円/1IDで営業支援、会計、グループウェアなどのサービスがある程度のカスタマイズで可能となる。中小企業でのIT活用を評価、認定しているIT経営力大賞の企業では、高機能化による業績拡大への対応、運用の軽減などために、SaaSを使いこなし始めている企業が増えている。
4)具体サービスの色々。
営業支援では、Salesforceが機能的に高いと言われている。JSaaSは国の支援もあり、20人以下の事業者向けに開始されている。会計関連が多く、更に多くのサービス提供が必要ではないか、と思う。
MIJSは国内SaaSベンダーの集まりであり、各企業ごとサービスをしているが、各社サービスを連携して、更に高度な活用が出来るようにAPI(アプリケーションのインターフェース)により更なる複合サービスを実現している。
開発環境の提供により、簡便なアプリ開発や出来たアプリを他のメンバーが使用する動きも盛んである。
AmazonEC2、Azure、GoogleAppsEngine、Facebook、NING、force.com、Zoho、ASTERIA、ITカイゼンツール などを少し、見てもらうと実感が出るのではないだろうか?
アプリ連携もSalesforceとガルーンの連携、他様々なSaaSサービス間、PaaSとの連携など更に多様化している。
5)自社導入に向けて考慮すべきこと
先行している成功企業では、業務分析による自社業務の適正化も並行して進めている。単純に、現システムをクラウドに置き換えるような意識で進めた企業での成功は期待できない。
経営者、情報関連担当者ともに、「作るソフトから良いソフトとの連携活用へ」と意識の改革が必要でないだろうか。
基本的な活動としては、
a、SaaSサービス(PaaSも含む)活用の推進
何を、何処までやるのか?を中心に、導入効果(コスト低減)明確化、カスタマイズ化(個別業務プロセスの対応)などを考慮し、導入課題絞込みの推進をする必要がある。
b、導入手順の確認
適切な導入ガイドの策定実施と支援の体制確立
c、実施ソリューションの確定
SaaS/PaaSベンダー選定のチェック
(経済産業省のガイドラインの活用)
d、運用体制の確立
日常運用、トラブル対応、など運用体制を中心とした確認が必要。
SLA(相互のサービス内容確認)、セキュリティ管理の明確化クラウドサービスのチェックとしては8月に公表された以下の資料が参考になるのでは。
http://www.meti.go.jp/press/20100816001/20100816001-4.pdf
これからは、業務プロセスの見える化とシステム面では各業務サービス実施のための既存アプリとの連携が重要なポイントとなってくる。
そのため、社内担当者としては、各業務を精査し、それを新しく作るよりも、如何に既存提供サービスと連携出来るか、の意識変革が必要とされる。また、クラウドサービス内容をフォローし、自社にとってのサービスの選別化と連携するためのスキルアップも必須となる。
例えば、
・ビジネス要件をユーザー部門と協議しながら定義していくコンサルティングスキル(業務分析、要求定義スキル)
・エンド・ツー・エンドでのビジネス・プロセスの設計スキル
(業務プロセス化ための基本スキル)
・自社内の開発標準を定め、それを実現する構成を組み上げるアーキテクト能力
(システム構築スキル)
・外部サービスを調達するか、カスタムメイド開発を行うかの選択能力
(外部サービス情報収集と評価スキル)
・異なるサービス・システムを組み合わせた環境でのサービス品質の保持能力
(SLA、相互のサービス提供の評価スキル)
そして、このような時にこそ、ITコーディネータとの連携が有効なやり方ではないか?と思う。最後は、チョット手前味噌ではあるが。
■執筆者プロフィール
小久保 弘(こくぼ ひろし)
ITコーディネータ、販路コーディネータ
ITメーカーで、システム開発、事業会社設立、システム営業などを対応。
現在、京都、滋賀の中小企業の経営戦略、マーケティング、システム開発
支援など、個別企業支援と研究会、セミナーを対応中。