1.はじめに
ITベンダーのコマーシャルなどに「クラウドサービス」という言葉がよく聞かれるようになり、世の中に広く知られるようになってきた。中小企業のIT化に役立つなどと記事などにも書かれているが、本当に中小企業経営にとって魅力的なものであるのであろうか。
2.クラウドサービスとは
そもそも「クラウドサービスとは何者なのか?」ということについてであるが、このような機器にこのようなソフトウェアを搭載したものなどという定義は一切なく、利用者が機器やソフトウェアの構成などを意識することなく、コンピュータシステムによるサービスを利用できるという概念なのである。ほかのことに例えるなら「家にある水道の蛇口をひねれば、きれいな水がすぐに出てきて使うことができ、使った分だけ料金を払えばよい。その水がどこでどのようにして作られているかを意識する必要はない。」といった具合になる。
3.従来のコンピュータシステムとの違い
従来のコンピュータシステムは、事務所の片隅にサーバと呼ばれる少し大きなコンピュータをおいて、各自の机にあるパソコンをつないで利用するといった形態が多くあった。システム設置するときにはメーカーの技術者が来ていろいろと設定をして使えるようにしてくれる。システムが完成した時には、「電源を入れるときはこのボタンを押してください」「データをバックアップするために、毎
日これらのテープを入れ替えてください」「もし赤いランプがついたら、表示内容をみてマニュアルで調べてください」などとややこしい話をたくさんして、あとは利用する人たちに任せられる。利用者は、システムを使って会計などの業務をしたいだけなのに、コンピュータのややこしい操作をいろいろとしなければならない。ましてや、システムが故障してうまく動かなくなった場合などは、もうパニックである。 ある程度規模が大きな会社であれば、専門的にコンピュータの面倒をみる人を割り当てることも可能であるが、中小企業などではこれもむずかしいであろう。
これを解決する方法の一つが、クラウドサービスと呼ばれる仕組みを利用することである。クラウドサービスの契約をすれば、利用者側はパソコンを準備し、インターネット接続回線を準備するだけでシステムを利用することができる。システムのメンテナンスなどはサービス事業者側で行われるので、利用者はパソコンの操作にだけ慣れれば、ややこしい操作をすることなく、業務に専念できるのである。
4.クラウドサービス利用時の費用は?
クラウドサービスを利用するための費用は、一般的に利用者一人当たり月額いくらといった料金体系になっている。実際の料金を聞くと、割高感を覚える方もしばしばおられる。この場合によくあるケースとしては、従来のようにサーバを自社に設置してシステムを構築した場合のリース料などと比較をされていることがある。しかし実際にシステムを自社で構築して利用していくためには、構築費用以外にもいろいろと費用がかかってくる。システムの面倒をみている人の人件費や機器が故障した場合の修理費用など、直接見えにくい費用や、将来必要となる可能性がある費用などがあり、これらを含めてTCO(総保有コスト:Total Costof Ownership)として考える必要がある。
クラウドサービスでは、複数利用者のシステムをあわせて構築して運用するため、TCOで比較すると、中小企業が利用する規模のシステムであればクラウドサービスのほうが安くなることが一般的である。
5.クラウドサービスは使いものになるのか?
クラウドサービスは、多くの利用者が使えるシステムを構築し、まとめて運用されるため、利用者は安く楽に利用できるというメリットがあるのであるが、このことによるデメリットがあるのも事実である。クラウドサービスで提供されているシステムが少し自社の業務に合わないという場合においても、プログラムの変更を伴うようなシステムの改造ができないのが一般的である。自社で構築するシステムの場合は、パッケージソフトウェアを購入した場合でも、必要な費用を支払えばメーカーが利用者の業務に合わせてシステムの改造を行ってくれるケースもよくある。
クラウドサービスを利用する場合はシステムの改造ができないため、自社の業務にマッチしたシステムを導入することが困難なのではないかと思われるかもしれないが、世の常として、ニーズがあればそれにあわせて製品が進化していくのである。
自社導入で購入されるようなパッケージソフトは、改造して利用することを前提として購入する顧客が多くあったため、基本的な機能はもちろん網羅されているのであるが、細かな部分はプログラムを変更して対応するように作られているようなものも多くあった。このように改造を前提としているようなソフトウェアではクラウドサービスとして利用することが困難である。
しかし、クラウドサービスのニーズが高まるにつれて、あらかじめ用意された設定を変更することによって柔軟に様々な業務に対応できるようなアプリケーションソフトが次々に開発されている。
6.クラウドサービス活用の検討
現在は様々な事業者からいろいろなクラウドサービスが提供されている。一例として、J-SaaSのホームページ(http://www.j-saas.jp/)に掲載されているサービスなども参考になる。
クラウドサービスを活用することにより、システム導入や運用に対する費用や手間が軽減され、中小企業がコンピュータシステムを導入するためのハードルが低くなってきている。これまでなかなかシステムの導入に踏み切れなかった方もクラウドサービスを選択肢にいれて、検討を進めてみてはいかがだろうか。
また、以前にASPやSaasと呼ばれていた時代に導入を検討されて、「これでは使い物になりそうにない」と感じられて導入を見送られた方々についても、数年前と比較しても技術が進化し、飛躍的に使い勝手や性能が向上していることが多くあるので、もう一度検討を行ってみてもよいのではなかろうか。
■執筆者プロフィール
池内 正晴 (Masaharu Ikeuchi)
学校法人聖パウロ学園
光泉中学・高等学校
ITコーディネータ
E-mail: ikeuchi@mbox.kyoto-inet.or.jp