今から20年余り前、私が税理士事務所に就職した頃は、まだ手書きの会計帳簿も存在していた。その後、会計専用機(オフコン)が普及し始めたものの、導入コストは今とは比較にならないほど高額でありました。
10年ほど前からは、会計ソフトを用意すればだれでもパソコンで会計帳簿の作成ができるようになってきました。
そして、インターネットの普及および高速化を背景に拡大しつつあるのが、最近話題のクラウドコンピューティング(SaaS)方式の会計システムです。クラウドコンピューティング(以下クラウドと略す)とは、インターネットの先にあるサーバを利用して情報処理をするシステム形態のことをいいます。ユーザーが何らかの作業を行うときに、自分の目の前にあるパソコンや会社のネットワーク
上にあるサーバではなく、インターネットの先のサーバを利用するのです。
クラウド(cloud)とは雲を意味する英単語で、インターネットを図で表すときに、雲のイメージ図を使うことがよくありますが、雲のようなネットワーク(インターネット)に接続すると、その先で処理(サービス)が行われることからこのように呼ばれるそうです。
クラウドには次のようなサービスがあります。
・SaaS ソフトを提供するサービス
・PaaS プラットフォームを提供するサービス
・HaaS/IaaS インフラを提供するサービス
・DaaS 端末のデスクトップ環境を提供するサービス
クラウドを利用するとき、私たちユーザーに必要なのは、基本的なインターネットへの接続環境と端末(PC、携帯端末など)、そして、ブラウザ(インターネットエクスプローラなど)だけで、データの保存やソフトウェア使用などは、すべてインターネット上での利用契約をするだけです。
高いPCを買う必要もなく、ソフトウェアを購入する必要もないのですから、利用する企業や個人にとっては、安く、しかも、バージョンアップやバックアップなども自分でする必要がなくなり、管理も楽になります。
このクラウドは、これまでのITへの考え方を革命的に変えるコンセプトで、厳しい経営環境が続く中、企業ITがこれからクラウド化へと向うだろうということで、大きく注目されています。
例えば会計システム(SaaS方式)の場合、インターネットに接続されたパソコンさえあれば、会計ソフトをインストールしなくても日々の帳簿作成(会計データの入力)ができます。
会計システムのIDとパスワードを持つユーザーは、世界中、どのパソコンからでも会計データの入力や、帳票の閲覧ができます。また、クラウドはiPadやiPhoneと馴染みが良いため、これらの端末でも利用できるようになるでしょう。
長年にわたる厳しい経営環境を背景に、会計事務所へのお客様の要望は税務を超えて、ますます多種多様になってきています。
資金繰りに始まり、設備投資のタイミング、人材の確保、経営の安定化策、事業承継、危機管理などなど。難題も多く、早急な判断が必要なことも多いです。
タイムリーな経営判断のためには、会計システムを上手に利用して、財務諸表(貸借対照表・損益計算書)をスムーズに作成し、いつでも企業の資産状況や経営状況が把握できるようにすることが最低条件となってきます。
そのためには、企業に合った会計システムを導入することが必須です。会計システムによっては、貸借対照表・損益計算書の作成だけでなく、経営分析資料の作成もできます。同じSaaS方式のソフトウェアを利用して資金繰り管理や給与管理など連携を図ることも可能です。
また、経営の専門家に相談する場合でも、会計システムによって得られたタイムリーな情報をもとに、企業の経営改善や経営戦略策定に結びつけていくための的確なアドバイスを受けることができます。
尚、時代の流れの中で、クラウドの利用件数は増大していくものとみられますが、記述のように便利な反面、データが外部に保管されるというセキュリティリスクもあります。導入時には、そのことも含めて仕組みを十分理解したうえで、利活用をしていただきたいと思います。その折には、ITコーディネータのようなITや経営の専門家のご利用もぜひご検討ください。
■執筆者プロフィール
小林由香(Kobayashi Yuka)
小林税理士事務所 所長
税理士、ITコーディネータ、ファイナンシャルプランナー
「お客様の発展のため、最大限の努力をいたします。」が信条。