TPPにおける自由貿易市場への対応/柏原 秀明

1.はじめに
 21世紀に入り10年間が経過し,ビジネスのグローバル化は益々激しくなっ
てきている。最近の注目点はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定:Trans Pacific
Partnership),すなわち,2006年にチリ,シンガポール,ニュージーランド,
ブルネイの4カ国で創設された協定である。この協定の目的は,環太平洋の諸国
間における非関税障壁の撤廃による自由貿易や技術革新および起業家育成などを
視野に入れた取り組みである。現在では,先の4カ国に加えてアメリカ,オース
トラリア,ペルー,ベトナム,マレーシアの5ヶ国が参加の意思を表明し交渉を
開始している。日本は,この協定の協議開始の表明をした段階である。
このように20世紀には,想像もつかなかったビジネスのグルーバル化が急速に
進展しつつある。このビジネスのグローバル化,すなわち,“自由貿易市場の拡
大”は,いずれの参加国にとっても大なり小なり自国の利害に関係する“機会と
脅威”が潜在的に内包されている。また,いずれの国が主導権を握るかによって
も利害の得失が大きく変わる可能性が大きい。ここでは,このような自由貿易市
場を相手にビジネスを展開する場合の考慮点について述べる。

2.自由貿易市場への対応
 従来は,自国の第1次,第2次,第3次産業などの保護・育成への対応は,自
国の裁量(非関税障壁)によって自由に実施することができた。しかし,今回の
TPPへの参加は,基本的に対象となる全ての分野において “例外を認めない”と
表明されている。すなわち,参加国は自国の経済発展の差や多様性の如何に関わ
らず“正味の実力”で勝負することになる。したがって,このような“実力勝負”
のビジネス環境では,近い将来発生すると予想される重要な”リスク要因“を事
前に予測・分析しその対策を講じておくことが従来にも増して重要である。よっ
て,ここでは自由貿易協定国とビジネスを行う場合のリスク要因を以下に述べる。

・政治・経済・法律・社会・産業などの基盤リスク ・人口リスク ・紛争リスク 
・治安リスク・国民性(文化・風土・風習)リスク ・思想リスク ・企業リス
ク ・為替リスク ・賃金リスク ・価格リスク ・技術リスク ・特許リスク 
・環境リスク ・安全安心リスク ・商品・サービスリスク など 

 TPPのような完全な自由貿易では,自国企業の“弱み”を最小限にしながら“強
み”を最大限に発揮し,“リスク”を回避しなければ“ビジネス勝負”には勝て
ない。言い換えれば,現状以上の“実力中心の勝負”になり,1番以外は勝ち目が
ない可能性が増すことになる。

3.TPP市場への勝機対応
 TTP市場への勝機対応例を以下に3つ挙げる。
●知的財産権の出願・取得
 原材料を輸入し,商品として付加価値を付けTPP諸国に輸出・販売する場合,
その商品を開発する段階で知的財産すなわち,特許出願を行いその商品の付加価
値の源泉である“コア技術”を中心に権利化することが重要である。商品出荷時
に特許が成立していれば,競合他社の商品を寄せ付けない“強み”となる。
 また,サービスビジネスにおいても“ビジネス特許”の出願・成立ができれば,
競合他社のサービスを寄せつけない“強み”となる。
●“弱み”を“強み”に転換する顧客志向の強化
他のTPP諸国に比較してコスト高であっても顧客志向の高付加価値商品・サービ
スであれば,1番になれる可能性がある。例えば,日本の農産物(米や野菜など)
は,相対的に高価であるが諸外国の富裕層には“美味しい・安全・安心”との評
判が立ちよく売れているとのことである。また,日本の観光サービスは,観光地
と共に“サービス品質”が上々で,来日した観光客は大いに満足して帰国すると
のことである。このように日本人中心の顧客志向から多様なTPP諸国への顧客志
向の視点で再度見直し顧客戦略を強化すれば,現状の“弱み”が“強み”に転換
できる可能性は十分にある。
●新規マーケットの迅速な優先的確保
魅力的な商品・サービスの創造・開発過程において,リソース(ヒト,モノ,カ
ネ,情報など)を重点的に大量投入しTPP市場への早期対応を図ることが重要な
鍵となる。すなわち“先手必勝”の喩えのとおり,時間との勝負になる。すなわ
ち,誰よりも早く新規マーケットの占有率を多く確保することでビジネスの勝機
を掴むことである。

5.おわりに
 二百数十年間の鎖国後,江戸時代末期に“黒船”が出現し,当時の先進国から
開国を迫られた我が国の当時の状況と完全な自由貿易協定であるTPPへの参加の
有無を問われている状況は,共通点がある。大きく異なる点の1つは,我が国が
先進国に位置づけられていることである。このグローバル競争の経済環境の中で
は,TPPの枠組みへの参加を拒否することはあり得ない。もしも拒否すれば,グ
ローバル加工貿易経済で成り立ている我が国は,“逆鎖国”状態におかれるリス
クが増大する。
 このTPPに対応するためには,前述のリスク要因と勝機を考慮し,内部環境で
ある自国産業の“強み”と“弱み”および外部環境であるTPP加盟国の産業にお
ける”機会“と”脅威“をSWOT分析により明確にすることが先決である。日本
政府は,複雑な利害関係が生じている”第2の黒船“の課題こそ,内包する現象
・意図を明確かつ具体的な”SWOT分析結果の標語“として記述し,生産者や生
活者の視点で理解が平易な説明(概要版・詳細版)を行うことが重要である。こ
のSWOT分析結果を用いて,SF(成功要因)・CSF(重要成功要因)を早急に纏め上
げ,CSFを明確にし,我が国の産業の”あるべき姿(To-Be Model)“と”行動計
画(Action Plan)“を策定し早急に国民に公開することを期待したい。


■執筆者プロフィール

柏原 秀明(Hideaki KASHIHARA)
京都情報大学院大学教授,柏原コンサルティングオフィス代表
NPO法人ITC京都副会長・理事,日本生産管理学会関西支部副支部長
博士(工学),ITコーディネータ,技術士(情報工学・総合技術監理部門),
EMF国際エンジニア,APECエンジニア,他
E-mail : kasihara@mbox.kyoto-inet.or.jp

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