ソフトウェア利用者(使用者)目線の品質意識は品質向上に繋がる/戴 春莉

 品質マネジメントとプロジェクトマネジメントの両方において顧客満足は重要
項目として取り上げられており、顧客満足を達成するには要求事項適合と使用適
合性の両方が必要だと定義されている。
 IT分野において、ソフトウェア開発の形態は、一次下請け、二次下請けと請負
契約が多く、セキュリティの要求で開発技術者は「顧客」が見えないことも多い。
そのため、顧客の要求仕様書に従うことが「要求事項適合」として認識されてい
ることが多い。
 しかし、要求事項に適合しても顧客の満足を得られるとは限らない。その多く
は要求仕様書の精度が高くないためと認識されている。顧客が仕様書を更に詳細
に書かなければならないと考えているが、何処まで詳細にすればいいのか明確に
せず、コーディングと同じぐらいの詳細仕様書を作るところもあった。
 もちろん、要求仕様書に「要求」を書かなければ実現できないが、一般常識
(業務以外のIT技術者の基本的な教養)まで細かい要求を書くのも「仕様書依存
症」を起こして思考力を持たない技術者を生み出し、長期的には品質の低下に繋
がり、顧客の満足を得られないといった悪循環を引き起こすこともある。
顧客満足のもう一つの要素「使用適合性」に関しては、ソフトウェアの使用者に
フォーカスすべきである。使用者目線を持たなければ「使用適合性」を実現でき
ない。海外にいる技術者たちは日本国内の顧客が見えず、使用者目線を理解でき
ないとも言われているが、しかし使用者目線を持った技術者であれば、決してそ
のようなことはない。以下に中国の実例を紹介し、その証としたい。
 中国国内でソフトウェアを販売する時、下記の国家政策がある。
(注:オフショアと受託開発は対象外)

1.販売するソフトウェアの品質は必ず、各省の国家指定ソフトウェア品質計測
  機関でソフトウェア品質を計測し、品質認可書を取得することを必須とする。
2.市販ソフトウェアであれば、著作権の登録済み証明書の提出、あるいは取得
  も必須である。
3.品質認可書を取得すれば、販売時に納付した売上増値税17%の14%は国
  から企業に還付すること。

 国が指定するソフトウェア品質計測機関では、多くのソフトウェア製品をテス
トしている。弊社では、その機関がどのように顧客目線で品質を計測したかを把
握したいと考え、3年前から、「江蘇省ソフトウェア品質計測センター」(同省
の国家指定品質計測機関)に弊社の製品をテストケースとして「受入確認テスト」
を依頼した。担当者達の品質基準や品質に対する認識を試すのが目的だったが、
その結果は驚くべきものであった。
 同センターの品質基準は、GB_T16260、ISO_IEC9126等のソフトウェア品質特性
規格の「機能性」「信頼性」「使用性」「効率性」「保守性」「移植性」であり、
国際基準と同様な基準である。中国のソフトウェア政策のため、同センターが計
測したアプリケーションの数は極めて多く、2001年から昨年末まで、すでに1万
件以上のソフトウェア製品を検証し、公的機関と企業のネットサービスパフォー
マンス評価は1,800件以上、情報システム監査(プロジェクト資質、ソリューショ
ン資質などの審査)も200件以上担当し、著作権登録済み証明書の発行も3,300件
以上に達した。同センターはこれほど多くの案件をこなしてきているため、業種
に関係なく、それぞれ業種の「利用者目線」を身につけている。「開発の仕様書
に基づいてテスト作業を行う」V字型モデルから離れ、第三者の中立的な立場で、
「利用者目線」から、実装した機能の漏れチェック、使用性チェック等を一貫し
てテストを行っている。
 例えば、画面上に「発注日付」、「納品日付」の二項目があった場合、仕様書
に日付の大小チェックという要求を記入しなくても、同センターが自身の基準に
照らし合わせて適切に判断している。具体的には、「発注日付」に入力した日付
が「納品日付」より遅れた場合、仕様書の問題ではなく、「一般常識のバグ」と
して開発側に差し戻すようにしている。
 弊社の受け入れ確認テストに関しても、大変満足な結果であった。水際で問題
が発見・解決され、その完成度の高さに感服した。また、開発側の技術者達も同
センターの利用者目線のチェックによって、技術者自身も不十分なテストの視点
に気付き、利用者目線を理解し、短期間で大きく成長した。
 日本には「阿吽の呼吸」があるが、中国でも「以心伝心」と言われている。つ
まり、中国人も日本人と同様、相手のことを思えば、相手が何を考えているのか、
何を意図としているのかは自ら理解できる文化を持つ。ゆえに、例え日本側が仕
様書に暗黙知、常識を書かなくても、中国側が「利用者目線」を持っていれば、
日本側の暗黙知・常識を理解することができるだろう。そして発注側と受注側、
顧客と技術者がお互いの長所を活かせば、顧客の業務ロジック仕様書+開発側の
利用者目線の技術実装仕様書の結合は、ソフトウェアのパフォーマンスを最大限
発揮することができるだろう。
 日本だけでなく、ソフトウェア利用者目線での品質意識を持つことが、ソフト
ウエア品質の改善に繋がり、結果的に顧客満足の向上に結びつく、一見非常に当
たり前のことだが、この当たり前のことを当たり前と思わずに、あらゆる階層で
徹底することが今求められている。


■執筆者プロフィール

戴 春莉

情報システム監査士、PMP、ブリッジPM・SE・PG、
情報処理技術者(中国)、工業デザイン・マスタ(日本)

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