豪雪で始まった2011年、立春が過ぎても冬将軍はまだまだ元気なようです。
積雪の多い自治体では除雪費用が底をついているとの事で今後の住民への影響が心配です。春の到来が待ち遠しい中、大阪府立体育館には春は訪れなくなりました。皆様ご存知の八百長問題での大相撲春場所中止です。今回は、この問題をCSR(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)やコーポレートガバナンス(企業統治)の見地から捉え、企業経営にあてはめた場合の注意点に触れてみたいと思います。
起:時代の流れに応じた制度面での比較
既に数名の力士が関与を認めた大相撲の八百長問題。真の原因は根深く、また多岐、長期にわたるとも報じられています。十両から幕下に転落すると、100万円前後だった月給が数万円の場所手当てだけになり、結婚さえも許されないと言った格差が事件の一因でもあるようです。
一定基準の売上を下回ると、月給30万円の営業マンであっても翌月から3万円の手当てだけになり、社外での行動も著しく規制される、と言った会社が仮にあるとしたなら、そうなる寸前に架空の売上を計上する社員も出てくるでしょう。
この場合、不正をした社員が悪いのは確かですが、あまりにも大きな報酬格差が生んだ悲劇と捉えることもできるでしょう。
もちろん、そのような会社は一般的に知られている企業には存在しません。かつては厳しいノルマ制を用いていた企業も今は別の評価基準を採用しています。
つまり時代の流れと共に会社の制度を変えてきたのです。
しかし、今の相撲界は会社に例えるなら、時代・世論・社会通念に合わせた制度改革を拒み続け、その結果として存続の危機に面したガラパゴス企業といったところでしょう。
業界内だけにしか目を向けず、マクロな潮流や外圧とも思える海外の動きから目を背けていると、例え国や自治体が支援してくれている企業でも、悪しき意味でのガラパゴス化になっていくことを知っておいて欲しいものです。
承:CSRとコーポレートガバナンスの見地から
先日、関取全員への第1回目の聴取が終わり、新たな疑惑力士は無いと報じられました。なんだか、関与した数名の力士だけの問題で終止符が打たれないか心配です。このような不祥事が企業で起きれば、担当者の処分だけでは終わらせてもらえません。食品業界での偽装事件は即破綻を意味しますし、食品業界に限らず、或いは手口が偽装に限らず、はたまたその数や人数の大小に関係なく、CSRに背いた企業は社会的に存続を許してもらえないのが実状です。だからこそ、近年、CSRが重要視され、どの企業もコーポレートガバナンスに努めているのです。
しかし残念ながら相撲界には、SSR(Sumo Social Responsibility 便宜上の仮称です)の考えが浸透しておらず、角界ガバナンスへの「取り組み」もありません。(昨今、ようやくガバナンスの必要性が問われ始めたばかりです)
相撲界全体でのSSRの意識がないが故に、八百長だけでなく、薬物汚染、暴行、賭博と言った反社会的行動が後を絶たず、ガバナンスがしっかりしていないから、問題が放置されたり認識できなかったりしているのだと思います。
そして何よりも重大な点は、企業で当たり前となっているガバナンスを支える教育が施されていない点だと思います。
企業には必ず、創業の理念やビジョンがあり、何がしかの形で社員に伝えられています。最近では企業倫理と併せて公式サイトで公開することも一般化しています。また近年、企業においては、SOX法、個人情報保護法、過剰反応ぎみな情報漏えい事故報道により、否応なしにCSR、ガバナンス、コンプライアンス遵守を迫られたおかげで、新人教育、社員教育、管理者教育、セキュリティ教育、マナー研修等々の教育・研修への意識が強まり、ガバナンスが醸成されてきています。
しかし、相撲界では、残念ながら武士道(相撲道?)の教えはあるものの、いわゆるコンプライアンスに準ずる定義が不足し、その類の教育が不十分であるがために不祥事が尽きないのだと思います。
八百長に手を染めた力士が悪いことには違いありませんが、学校卒業後、一般社会とは異なった世界に身を置いた彼らに、企業で当たり前に学ぶ規律、ルール、常識を角界が教えていないのであれば、起きるべくして起きた不祥事であり、力士ではなく角界がまねいた不祥事と言わざるを得ないと思います。
コアコンピタンスへの集中、他社との差別化には専門教育(日々の稽古)で技を磨き常に変化していかなければなりませんが、その業界(角界)で生き残り続けるには、技以上に、理念、倫理と言った不変のものへの教育も続けなければならない事をあらためて教えられたのではないでしょうか。
転:ITで補完できること
さて、折角のITCのコラムですから、ITについても触れておきたいと思います。
(やや、こじつけかも知れません)。
前回の野球賭博と言い、今回の八百長と言い、力士があまりもITの一般常識を知らなさすぎると思いました。携帯であれ、パソコンであれ、メールは一定期間保管されている事や、削除しても実体としては削除されていない事を知らなかったからです。だからこそ事件の裏づけがとれたのですが、性善説で仮定するなら、知っていれば手を染めなかった可能性もあります。(性悪説で言うと、別の手を考えた になるでしょうが)
私がここで言いたいのは、人は誰でも道を外れそうになる時がありますが、何かがその抑制の後押しをしてくれる、それが時にはITと言うツールであったりもすると言うことです。
メールを例にとると、わが社には、メールを全文保存するサービスが導入されており、業務外のメールや誹謗中傷のメールの有無もいざとなれば取り出せる仕組みになっています。これは会社でのメール利用において強力なけん制となっています。
もうひとつ、ITを用いた行動けん制の顕著な例が、WEB(インターネット)のフィルタリングツールです。
わが社にも某社のツールが入っており、会社のパソコンから公序良俗に違反するサイトや娯楽、遊戯関係のサイトにアクセスすると、管理者に通報がいくと共に自分のパソコンにも警告が出る仕組みになっています。
一昔前に「上司が来たら画面を切り替え・・・」なんて川柳もありましたが、それも許してくれなければ、コーヒーブレイクの際に、「ちょっとくらい」も見逃してくれません。「業務時間中は仕事に没頭して、残業せずにとっとと帰れ」とこのツールが怒鳴っているようにさえ感じますが、それでいいのです。
このツールがいいのは、ほころびの元である「ちょっとだけなら」さえ見逃さないことなのですが、それ以上に「このツールに見張られているならやめておこう」と自制心が作用することです。諦めと言えばそれまでですが、それでいいのです。目的は捕まえることではなく、間違えを起こさせないための仕組みなのですから。
その他にも、セキュリティ確保を目的に、入退室時は毎回社員カードを通さないとドアが開かない仕組みになっているのですが、これも裏では入退室記録が残っているため、いざとなれば席にいなかった時間が割り出せるようになっています。私はたばこを吸いませんが、喫煙者へのたばこ休憩抑制にもひと役かっているようです。
一見、窮屈で、見張られているように思えますが、上司にチェックされているよりは断然いいですし、普通にしていれば何ら支障はありません。
ITはうまく使えば、規定違反、規則違反の未然防止を支援するツールでもあるのです。
結:
相撲ファンには楽しくない内容になりましたが、私も大相撲は好きです。好きだからこそ、協会が身を綺麗にして出直して欲しくこのような内容を書きました。
加えて、野球もサッカーも好きです。食べることも好きです。私が好きなもの、応援しているものが、不正により消えていくのは大変残念ですし寂しい限りです。
そのような事がないよう、わが社も含めこれを機に、CSRとは何かを問いただし、ガバナンスへ努め続けるとともに、不正を起こさせない仕組み作りに目を配って頂きたいと思います。仕組みを支援するITを有効に活用しながら。
■執筆者プロフィール
富岡 岳司
ITコーディネータ京都 会員
文書情報管理士
E-mail:j420@auone.jp