上手な生産管理システム構築で全社改革を!!/小久保 弘

 中小製造業の生産管理システムの取り組みは様々である。特に、最近の「多種少量短納期」と言う顧客ニーズの大きな変化に対して、生産管理システムの再構築へのニーズは高いものの、「システムのハードを代える改修レベルで済ませる」「改善レベルで部門レベルを良くする」「改革レベルで会社全体を変える」等。
現在も、幾つかの企業の支援をしているが、経営トップの意識と思いで、大きな差が出てくる。もっとも、「改修レベル」の場合は、ほとんど話はないが。

 本文では、中小製造業経営トップとして、生産管理システム導入に向けて考慮すべき点について、少し述べていきたい。

1.生産管理システムの目的の再認識
 生産管理システムは、会社全体の最適化のための仕組み創りであることの再認識が必要である。環境の激変は間違いなく起きている。その結果が「多種少量短納期」という顧客ニーズ変化である。
 システムを使用しているハードウェアが10数年経ち、システム変更をせざるを得ない、が結構多い。何とか「改修、改善レベル」で済ませたいのが経営トップの本音かもしれないが、「モノ作りのマネジメント」としては、単純に情報システムのみを代えるだけで良いのだろうか。例えば、見込み生産から受注生産型に変えざるを得ない状況で、組織、人の意識、業務の流れ、生産文化を大きく変えなくてはならない。
 「改修、改善レベル」では、結局、無駄な投資になる場合もある。支援した企業の多くは、「個別部門の改善」を前提とした当初の考えも、その後、「全社改革」に近い組織、業務の流れの最適化をベースとした進め方に変えていただいている。

2.「改革レベル」に向けて
 まずは、自社現状と環境の理解が必要である。
・経営戦略のヒアリング(経営上の課題、今後の方向など)
・業務内容をベースとしたヒアリング(現場と管理の両面から)
・IT活用のレベル(現場含めてITへの対応力の把握)
 また、そのためのプロジェクトの編成に向けて2つの重要な点がある。
・経営トップ含めた全社員の意識の統一化
 関係者数人があちこちの人を説得しながらやるのでは、失敗の確率が高い。中小企業では、経営トップのリーダシップが肝要である。
・全社最適化への方向付け
 特に営業と生産部門間の意識合わせと協働化が必要である。

 最近、営業力アップのため、Webサイトの再構築の話も多い。この場合も、Web化のための全社としての見直しを考えるべきである。担当者数人に任せる経営トップがほとんどであるが、あまりにも認識不足である。実効あるWebサイトにしたいのであれば、Web戦略化として全社レベルで取り組むべき課題と思う。

3.生産管理システム構築に向けて
 従来の業務、運用ルールから大きくコンセプトを変更することが必要である。
・実績管理主体から計画管理への変更
・社内管理からパートナーも含めた総合管理化
・アナログ(人的管理)からディジタル(数値管理)への変更
・生産現場主体から生産管理主体へ
・データの内容のレベルアップ(適時的確な情報の把握)

 何が根本的な課題か、的確な課題設定をベースとする進め方が必要である。表面的な問題対応となっていないか、部門共通としての課題か、例外処理だけの対応になっていないか、効果はあるのか等を考える。
 また、動かない生産管理システムの要因には、「マスターデータの維持不足」「在庫管理の不十分さ」がある。先の5つのポイントを具体的に組織に活かすことが肝要でもある。

4.パッケージ選定
 最近のパッケージの機能の豊富さ、費用の少なさから考えると、自社向け開発よりも、適正なパッケージの選定が有効と思われる。
そのためには、RFP(提案依頼書)を作成し、自社の今後の方向と新業務に適合したパッケージを選ぶ必要がある。成熟したパッケージを選定することもポイントの1つと思う。その基準は、出荷本数、経過年数、バージョンアップ数の3点ではないだろうか。
 成熟したパッケージはその機能、品質、安定度などで導入後の自社負担も少ない。ある会社での選定は、パッケージ主体の各社提案に4000万円以上の見積価格差があった。最終的には、やや見積の高い提案であったが、実績のあるパッケージを選定した。くれぐれも安さだけでの選択は控えるべきである。安さだけで選定したが、結局使えず、1000万円近い金を無駄にした会社もある。
 多くの現場では、どうしても、今までのやり方に固執することがある。パッケージのカスタマイズが発生することになるが、これは、極力止めるべきである。
新しい文化を創るのである。コアな部分の場合はやむを無いが、画面追加、画面遷移変更などがあると1件で100万円レベルでの費用発生がある。パッケージ機能に自社業務をあわせて行くことも重要な意識改革でもある。

 新生産管理システム導入は、新しい自社文化の構築の始まりである。慎重かつ大胆に、全員で取り組んでもらいたい。


■執筆者プロフィール

小久保 弘
ITメーカでのシステム開発、事業会社設立、顧客支援などの経験を活かし、中小企業でのIT活用をベースとした経営戦略化、Web戦略化、現場システム構築支援などの対応をしている。また、幾つかの研究会主催、個別企業対応からの共通課題をベースに若手、経営トップへの気付き支援をセミナー、
勉強会を通じて実施。