今回の東日本大震災の被災者の皆様に対し、謹んでお見舞い申し上げます。
本稿の執筆時点(4月19日)で亡くなられた方と行方不明者が、1万3千人を超え、ほぼ同数という状況に心が痛みます。
日本の国民性なのかも知れませんが、こういった災害時に大規模な暴動や略奪も起きません。避難所から給水車に水をもらいにきていた女性が、放送メディアのインタビューに「もっと大変な方達がいるはずなので、そちらを助けてあげてください」と話していたのにも感動しました。
陸前高田に支援物資を届けに行った知人によると「現地は本当に壊滅状態」だそうです。知人曰く「『頑張ってください』とか『復興を応援しています』と言われたところで、白々しく響くだけで『どうすりゃいいのよ?』というのが本音でしょう」という状態らしいです。
しかし「家も家族も仕事も失ったというのに東北人は強く、決して愚痴や泣き言、涙や暗い顔を見せませんでした。なんか、励ましにいったこちらのほうが元気をもらったような気分です。」とも言っていました。
また別の知人は、停電に見舞われて「随分久しぶりに、女房と蝋燭の灯りでワインを飲んだ。たまには良いもんだ」と言っていました。やせ我慢でしょうが、厳しい状況を乗り切るのには、こういったユーモアも必要です。
タイトルにした「カサブランカ」は、ハンフリー・ボガート主演の古い映画ですが、リック(ハンフリー・ボガート)がイルザ(イングリッド・バーグマン)に言う台詞(字幕)に「君の瞳に乾杯」というのがあります。原文は「Here’s looking at you, kid」なので、直訳すると「君を見ていることに乾杯、子山羊ちゃん」とかになりそうです。日本語の翻訳の「勝ち」ですね。
なお、さきほどの知人が奥さんに向かって「君の瞳に乾杯」と言ったかどうかは、聞きそびれました。
この映画には「今は良くても、きっと一生後悔する」という台詞もあります。
原文はというと「you’ll regret it… May be not today, may be not tomorrow, but soon, for the rest of your life.」です。字幕の文字数の制限でしょうが、こちらは原文の「勝ち」です(笑)
■今回の経験
この地震があったとき、私は大阪の事務所で仕事をしていました。
ゆっくりとした大きな揺れに気付いて、ネットで気象庁のサイトを調べた(気象庁のサイトは、その後つながらなくなりました)ところ、宮城県での地震という第一報でした。宮城県と大阪は乗っている大陸プレートが違うので、大阪でこれだけ揺れたということは東北・関東地方では非常に大きな揺れになっていることが予測できましたので、直ぐに総務部に連絡して、社員の安否確認をはじめました。
東京支社とは、当初は電話もつながっていたのですが、直ぐにつながらなくなりました。幸い、東京支社とのTV会議の回線が生きていたので、当日の21時過ぎには、東京支社と仙台営業所の全員と本社(大阪)所属の出張者(実は社長も東京出張中でした)の無事が確認できたので、帰宅しました。
翌日の土曜日も出勤して、総務部やネットワーク等のインフラを担当しているチームと協力して、サポートしているユーザの拠点とのネットワークの調査や回復を手助けしました。ふと気付くと、可哀想に札幌営業所の安否確認が行われていません。総務部に連絡して、札幌のメンバーの安否確認を行いました。
このとき、案外役に立ったのは、スケジュール管理システムでした。実際に協力会社の方を含めたほとんどの人が、このシステムに自分のスケジュールを登録していました。そのため、海外出張を含めた要員の所在が早く把握でき、比較的スムーズに安否確認ができました。
■今、何ができるか
募金やボランティア、支援資材の提供等、被災された方への直接的な支援はまだまだ必要でしょう。原発や放射線に関する風評に惑わされない(東北産の野菜や魚も食べれば良いと思います)こと、ボランティアや募金を騙った詐欺にあわないようにすることも必要でしょう。
ただ、過度な「自粛」は考えものだと思います。まあ、電力が逼迫している地域でナイターをやるのは非常識だと思いますが、前述の知人も「陸前高田の酔仙酒造はこっぱみじんに破壊されてしまいましたが、まだ東北の酒造メーカーは生きていますので、皆さん、自粛しないで東北の酒で花見をして復興を応援してください。」と言っておりました。
「今、自分に何ができるか」を自らに問いかけて、できることをやっていくことが必要だと思います。
■これから、何ができるか
以前、このメルマガで「失敗学」にちょっとふれた文章を書きました。「一つの失敗」から学習することで、同じような失敗を繰り返さないことが重要だと思います。
今回の震災で急に注目されている規格に「BS25999(BCMS)事業継続マネジメント」があります。現在「BCM」と言えば「Business Continuity Management」の略語ですが、私が昔にCISA(公認情報システム監査人)の資格を取った時は「Business Contingency Plan」の略で「BCP」と言われていました。
「contingency」は「偶発的な出来事」の事ですので、とりあえず何かあったときにどう行動するかを計画しておくことになります。
「事業継続」となると、取り扱うべき対象の事象が幅広くなるので、考える対象が増え、必要な工数も増えます。しかし、単に「災害」に閉じて考えて、簡単なものでも計画しておくことは、有効だと思います。
人は「自らに問いかけた方向」に動きます。
今回の震災でも、地震にあったときには、まず「大丈夫か」「ここは安全か」「家族は無事か」と普通の人は問いかけたと思います。なんとか自分が安全で家族が大丈夫であれば、次に「どうすれば自宅に帰れるのか」「電車は動くのか」となるでしょう。
ここまでは「自分」に関する視点からの問いです。
次に「社員は大丈夫か」「会社の資産はどれだけ被害をうけたのか」「顧客は大丈夫か」と視点が広がります。さらに「月曜日の営業体制はどうなるのか」「災害対策本部を立ち上げたほうが良いのでは」と未来に向けた時系列的な視点も出てきます。
良い業務プロセスは、自然にできる形になっているものです。必要な対応も、この順番に考えれば良いと思います。
■まずは、安否確認
第一に考えるのは、社員の安否確認ができることでしょう。
全社のスケジュール管理に登録する習慣をつけてもらう。有償のスケジュール管理ソフトを導入する余裕がなければ、無料のGoogleで良いでしょう。社員がどこにいるかを把握できれば、安否確認は格段に楽になります。
安否確認の方法ですが、電話等で本人の声が聞ければ安心ですが、わざわざメールを打ってもらったりするのは大変です。メーリングリストにしておいて、返信してもらうだけにするのがベターです。できれば、会社の火災予防訓練のときにでも、一度は「訓練」しておきましょう。
今回の震災ではメール等が駄目になり、twitterやblogが使えました。ネットにつながる環境があれば、こういった方法も考えられると思います。ただし、次に同じことが起きた場合には、twitterにアクセスが集中して「クジラ画像」が出るかも知れません。
また今回は東京-東京はつながりませんでしたが、東京-大阪・大阪-東京は案外つながりました。サテライトオフィスがあるなら、そこを中継点にするのも一つの方法だと思います。
■情報資産のバックアップ
建屋や工場、ハードウェアは、復旧できます。最も困るのは経営情報の完全性や可用性が失われることです。必要最低限の情報資産が復旧できる状態にあることが大事です。
今回の震災では、クラウドの安全性が目立ちました。会計とかはクラウドを利用するのも一つの方法だと思います。また、Microsoft社のSkyDriveに定期的にバックアップを圧縮してアップしておくのも一つの方法です。
自社内のPCをサーバとして使っているなら、UPSを設置して停電時には自動的にシャットダウンがかかるようにしておきます。
■忘れてはいけない広報機能
広報機能は重要です。取引先に1社ずつ連絡するのは大変です。
自社の被害状況を明確にして、業務を継続できる状況にあること、あるいは何時から再開できることをホームページ等を使って早い段階で情報提供します。個別の取引先への連絡は、それからだと思います。
本社が被災して本社機能を臨時に移転するような場合には、絶対に必要なことになります。
■最後に・・・
今回の震災は、金曜日の午後という比較的対応しやすい時間に起きました。
これが、深夜だったりすると、被害はもっと大きくなったかも知れません。対応計画には、こういった場合も考えておく必要があるかと思います。
ところで、どなたか私と「蝋燭の灯りでワイン」を飲みませんか(笑)
(参考資料)カサブランカ (名作映画完全セリフ集スクリーンプレイ・シリーズ)
■執筆者プロフィール
上原 守 harvey.lovell@gmail.com
ITC,CISA,CISM
エンドユーザの立場から,ユーザのシステム部門,ソフトハウスでの経験を活か
して,上流から下流まで,幅広いソリューションが提供できることを目指してい
ます。