「「残業ゼロ」の仕事力」は、2007年発刊された下着メーカー、トリンプ・インターナショナル・ジャパンの元社長吉越浩一郎氏の著書で、読者の皆様も読まれた方がおられると思います。
本書ではワークライフバランスの大切さを主張されているが、日本の恒常的な残業体質への警鐘となっている。
日本の残業問題はいろいろな観点から幾度も論議されているが、東日本大震災の影響で計画停電が話題になる中、今一度この古くて新しい問題を取り上げ、残業の実態、残業のタイプを取り上げ、経営の問題として考えてみたい。
厚生労働省が出している毎月勤労統計調査のH22年度分結果確報によれば、全産業の総労働時間数は 146.1時間で、そのうち所定時間外の労働時間は10.1時間となっている。これは事業所規模が5人以上の全産業平均値であるが、この数値が読者の職場の実態と乖離しているかどうかは、それぞれ読者皆様の判断によりますが、数値に現れない残業時間は少なからずあるのではないでしょうか。
実態との差異はさておき、残業問題が存在しなければ良いのですが、先の著書名にインパクトがあったのは、実態として問題が内在していたからでしょう。
仕事をする上で残業が発生することは当然と考えられ、残業をしないとする方がむしろ異端児扱いされる風潮がまだまだ多く見られます。
高度経済成長期のようなガムシャラな残業はなくなっていると思いますが、従業員の立場からは、上司からの明確な指示がある場合を除き、目の前の仕事、周囲の状況、プライベートな事情により、自ら調整しているのが実態でしょう。
従業員の残業が発生する要因のパターンを考えると次の主なパターンが考えられます
1)本来の仕事量の超過によるもの(上司の指示のある、なしに関わらず)
2)担当者個人の仕事没頭によるもの
3)周囲との付き合いによるもの
4)給与補填のためのもの
5)能力差異解消のためもの
その要因は、企業組織そのものにある場合、従業員個人にある場合などがあり、更に単一の原因ではなく、諸事情が絡む上に、発生する原因が常に同じとは限らないことが、問題解消を遅れさせていると考えられます。
3月11日に発生した東日本大震災は、多くの地域に被害・影響を及ぼしています。京都でも震災の影響が企業活動に影響あると回答した企業が3~4割に達しています。
また、計画停電は回避の方向ですが、経済産業省は、東京電力・東北電力の供給地域に対して、今夏の電力使用量を昨年の使用電力量の15%以上抑制することを要請しています。関西でも今夏が昨年並みの猛暑となった場合、電力供給の余力がなくなり、15%の節電を呼びかける方針が打ち出されました。
節電だけの問題でなく、この機会を業務効率化の一つのトリガーとして再考する必要があるでしょう。先の吉越元社長は自らオフィスの電気を消して回ったそうですが、ただ電気を消すだけでは問題の本質的な解決にはなりません。火元から問題を解決しなければ煙はなくなりません。第二次オイルショックの時も休憩時間のオフィス消燈が励行され、就業時間後は従業員を事務所から強制帰宅させ
た企業もありましたが、従業員は仕事を「お持ち帰り」しただけで仕事の方法が改善されたわけではありませんでした。今般のセキュリティの厳しい中では考えられないことですが、本末転倒な話です。
そもそも何故残業が発生するのか。業務量増大に対して従業員を増やせば済む話ですが、中小企業では簡単に従業員を増やすことはできないでしょう。それよりも残業でカバーした方が人件費の抑制になりますが、残業が恒常化してしまうと繁忙期と関係がなくなり、効率低下の温床となります。
経営トップ層にとっては、いつどんな突発事故が起きるかも知れませんので、1日24時間が仕事でしょうが、しかしそれも常態化させるのではなく、解決方法を決めて、非常時を速やかに解消させることが責務です。
吉越氏の著書のキーワードにデッドラインというのがあります。決められた時間内に物事を処理する。少なくとも結論を導いて即決即断する習慣が必要です。
行動指針・計画を決め、計画と実行の差異を最小限にすること。如何にして残業をなくすか、そしてライフワークバランスを保ち、従業員のモチベーションを高めること、それを自ら実践することが理想の経営者ではないでしょうか。
■執筆者プロフィール
大塚 邦雄
情報処理システム監査、ITコーディネータ
35年にわたるシステム経験をもとにIT化を支援します。
e-mail:k_ootuka@mbox.kyoto-inet.or.jp