震災から4ヶ月で思うこと--宮城の地から/藤原 正樹

 3月11日の震災から、はや4ヶ月になろうとしています。

 私が住む仙台市北部は、震災の影響はほぼ見えなくなりました。5月から新学期が始まった大学は、例年通りの日常を送っています。仙台市の中心街に出ると、居酒屋は満席になり、遅い時間までにぎわっています。震災前と何ら変わらなくなりました。
 一方、沿岸部ではがれきの除去が進まず、避難所暮らしの方が大勢おられます。
8千人といわれる行方不明者の捜索も続いています。
世界から見ると日本は被災地であり、関西から見ると東北は被災地に見えると思います。しかし、東北の内陸部に住む私たちは、”被災地”と呼ばれることに違和感を感じます。内陸部に住む私たちから見ると、被災地は沿岸部なのです。
また、沿岸部においても、市町村によって復興の進み方は差が見られます。

 このように、被災地のおかれている状況は一様ではありません。この一様でないことが、今回の震災被害の甚大さを示しているともいえます。

■内陸部と沿岸部の差

 15年前の阪神大震災と比較すると、今回の地震による建物の被害は軽微でした。私の住んでいる仙台市泉区では、建物の倒壊は皆無と表現していいぐらい少なかったです。仙台市中心街の青葉区でも倒壊した建物を見ることはありませんでした。
 今回の震災被害のほとんどは、津波によるものです。ある調査会社の資料によれば、沿岸部の気仙沼市、石巻市では、企業の約7割が浸水し、事業を継続できなくなりました。

 このような現状の中で、沿岸部の自治体の方は、強い危機感を持って復興に取り組まれています。早く復興計画を示さないと、”町がなくなる”という危機感です。復興計画作りは、時間との戦いに入っています。復興計画が遅れたら、町から人がいなくなるのは明らかです。

■産業復興に向けた大学の取り組み

 私の宮城大学では、震災復興支援の多くのプロジェクトが動いています。学生を中心とする被災地でのがれき除去ボランティア、「リスタート東北プロジェクト」という被災地と支援者をつなぐ活動などが行われています。
http://1st.geocities.jp/restart_tohoku_project/index.html

 現在、大学で中心的に取り組んでいるのは、ある町の復興支援計画の作成支援です。
津波被害を受けた沿岸部では、第1次産業である漁業・農業に関連する産業の比率が高いのが特徴です。今回、産業復興のモデルとして提案しているのは、ノルウエーの漁業、オランダの農業です。いずれも、高い生産性と国際競争力を持つ産業です。地形も三陸海岸とフィヨルドのように似ています。塩害と戦いながら、世界一の輸出高を誇るオランダ農業は、津波被害を受けた沿岸部農地活用のモデルとなります。

■震災復興と情報

 最後に、震災復興と情報の役割について書きます。
震災直後には、Twitterなどのソーシャルメディアが、安否確認や必要物資の調達などで威力を発揮しました。その模様は、宮城県のITC組織である「ITコーディネータ宮城会」のコラムでも紹介されています。
(ITで私たちが出来ること 2011/03/29 11:43 am)
http://www.itc-miyagi.net/modules/weblogD3/details.php?blog_id=43

 私の大学でも安否確認や震災直後の情報発信は、TwitterやWikiなどで行いました。避難所などでは、リテラシーの問題でネットやPCが十分活用できない点が指摘されていますが、被災地と支援者の情報交換には大いに役に立ちました。これからも、復興事業の中でITは不可欠な存在となるでしょう。

 一点だけ、気になることがありました。
多くのITベンダーから「東日本震災復興支援プログラム」が発表され、被災地では無償で多くのクラウドサービスが受けられることになりました。
http://www.itc.or.jp/news/20110322.html
ところが、これらのサービスはあまり使われなかったようです。震災後の混乱した状況の中で、新しいシステムを活用するのは困難であったことは予想できます。
新システムの習得に人手を割けなかったからだと思います。
 今後の災害時のIT活用を考える上で、検討すべき課題でしょう。


■執筆者プロフィール

藤原正樹(フジワラ マサキ)

NPO法人ITコーディネータ京都 理事
公立大学法人 宮城大学 事業構想学部 教授
博士(経営情報学)
中小企業診断士 公認情報システム監査人(CISA)
e-mail:fujiwara@myu.ac.jp