2010年7月~2011年6月までの1年間、ITコーディネータ京都の「グローバルビジネス研究会」の活動に参加した。本稿では、中国とのビジネスについて私の個人的な経験と意見を述べる。
1.「グローバルビジネス研究会」に参加しての感想
参加メンバーはバックグラウンドがそれぞれ異なり、関心も様々であったが、夕方からのミーティングにおける意見交換は新鮮で有益であった。研究会の成果物である「グローバルビジネスの留意点」はグローバルビジネスに取り組む際のリスクを簡潔にマインドマップで作成されており、体系的に重複なく・漏れなくまとめてあった。どのようなリスクがあるか誰にでも一目了然で便利で解り易い。
日本貿易振興機構(JETRO)にも無いようなユニーク、コンパクトでかつ実用的なアウトプットであった。
2.「グローバルビジネス研究会」発足の背景
この研究会の発足は、ずばり、日本のビジネスのグローバル化が発端となっている。特に2008年のリーマンショック以降、人口減少とともに日本の市場の収縮傾向が明確となり、海外でのビジネスを伸長しないと生き残れない企業が多くなっている。人材面においても中国やインドから日本に進出しており、逆に多くの日本人が外国資本の企業で働くようになってきている。IT業界においてもグローバル化が進展し、とりわけ隣の中国とは一衣帯水の関係であり、交流が日増しに深まってきている。私と同じ団塊の世代の仲間も退職後、中国資本の企業で働く人がいつの間にか増加している。
日本と中国との立場は次第に逆転し始めている。今までは日本が中国のお客様の立場であったが、これからは反対にGNPで世界第2位となった中国が日本のお客様の立場になってくる。日本人が中国の動向やニーズを十分に理解することはこれまで以上に大事になってくる。
3.日本人と中国人は個人の関係をベースに友達関係を作ればよい
私は日本生まれであるが、私の家族は上海からの戦後の引揚者である。泥沼の日中戦争があり、終戦後蒋介石の軍により収容所に集められて、着の身着のまま上海から長崎港に復員輸送船でやっと帰国したそうである。
何故か私の家族は中国が‘大好き派’と‘大嫌い派’に二分される。但し中華料理だけは家族全員が好きである。中国の文化は独特で個性が強いため、日本人を‘大好き’か‘大嫌い’かの、どちらか両極端にさせる傾向がある。私の場合、19世紀以前の昔のロマンのある「本来の中国」は大好きであるが、現在の金儲けに忙しい上海のような21世紀の「虚構の中国」はあまり好きになれない。
中国人から見た日本に対する印象も「嫌いな国でもあり、かつ好きな国でもある」というように矛盾しているとのことである。中国人が「日本人を嫌い」な理由のほとんどは明治時代以降の歴史(日中戦争など)によるものでる。日本と中国の関係では、国益という‘建前’が絡むと、対立はどうしても避けられない。
国と国の関係は両政府に任せて、私達は日本人と中国人の個人の関係をベースに‘本音’でどんどん友達関係を発展させればよいのではないか。
4.私の中国での体験(異文化コミュニケーション)
私はITベンダーに勤めていた1998年、中国に1年ほど長期出張していた。日系企業の現地法人を対象に情報システムのニーズを調査するため、深?、香港、広州、杭州、上海、南京、北京、重慶など各地を1人で訪問しながら中国人の日常生活を見てきた。残念なことに、私の中国語の発音が悪いのか、自己紹介で自分の名前‘坂口幸雄’を中国語(ピンイン)でbankou xingxiongと発音しても、相手にはチンプンカンプンでほとんど通じなかった。その時は名刺を見せたり、紙に漢字を書いて筆談で自己紹介した。また、飛行機の中で隣の席のおじさんが平気で床に唾を吐くというマナーの悪さには閉口した。当時の中国はまだまだ発展途上の様であった。
2008年3月に広東省に出張した際、北京オリンピック開催を前にしてチベット問題が発生した。数日前まで町にたくさんいたチベット人が急に町から一斉に姿を消してしまった。中国には表現の自由など人権について問題があると言わざるを得ない。毛沢東の大躍進政策や文化大革命による死者は5千万人とも言われており、日本の人口の約半数である。ともかく21世紀と19世紀が同居し、共産主義と資本主義が混ぜこぜの複雑で矛盾の多い国である。
近代史の1ページで日本と中国は昭和初期に日中戦争をしていた歴史がある。
中国に長期滞在するなら‘明治以降の日本と中国の歴史・政治・経済を日本人は充分理解しておく必要がある’と豊富な駐在経験を持つ知人の商社マンに教えられた。
現在、日本は原子力発電所の事故で節電が大きな話題になっている。2008年当時の中国はインフラ整備が不十分で、現地法人の工場では当局から数日前に突然、停電の通達が来ると工場を1日休業にしていた。電力供給の優先順位は一般家庭、商業、製造業の順で、製造業は優先順位で言えば一番最後である。納期などにどれくらい影響があったかどうかわからないが、生産管理上、停電はいつもの当たり前のことであり特に問題になっていなかったように思う。
5.中国人のビジネスの手本や長所や欠点
中国は「ものつくり」は日本を手本にしているが、経営(マネジメント)はグローバルスタンダードの米国流から学ぼうとしている。共産主義の国だが、GEのジャック・ウェルチなど利益優先のドライな米国の経営学の本が読まれているそうだ。またビジネス上のコミュニケーションを良くするためのハウツー本も売れている様子。中国人は本当は日本人以上に顧客志向、資本主義的かも知れない。
中国人は個人は強いが、集団になると弱点が出てくる。中国についての専門家で、NHKの中国語講座の講師としても有名な相原茂氏は著作の中で次のように言っている。
中国人の長所と短所を一言で言うと、
・「一ケ中国人是龍、一群中国人是虫。一ケ日本人是虫、一群日本人是龍」
一人の中国人は龍だが、集団になると虫である。
一人の日本人は虫でしかないが、集団になると龍になる
・「一個和尚有水喝,両個和尚挑水喝,三個和尚没水喝」
一人では持てない荷物だが、三人で運ぶには持ちづらい。
三人の和尚がいると、皆さぼって何もしない。
中国人は米国人と同じように仕事の責任と役割が明確でないと曖昧なままでは仕事ができない。この諺の意味は、中国関係のホームページ等に多くの丁寧で解りやすい説明がある。興味のある方は是非インターネットで調べてみて下さい。
6.中国人の人事評価・昇進への考え方(リスク)の違い
日系製造業のIT上流工程のまとめの支援で中国に出張したことがある。従業員50人程度の小規模の現地法人であったが、中国でのビジネスは言うまでもなくいつもハラハラドキドキのハプニングの連続である。日本人は総経理と工場長のたった2人だけで超多忙、ほとんどの中国人社員は新入社員で中国人スタッフの人材育成が急務であった。ITCプロセスガイドラインを参考に日本人2名と中国人2名でミーティングを行った。その中で私が気付いたことは、バランススコアカードやプロジェクト管理は中国人にも特に関心が高い。驚いたことに、中国人スタッフと一緒にバランススコアカード演習をやると、日本人と中国人はリスクの考え方が正反対となる。SWOT分析をすると日本人は「脅威や弱み」ばかりを挙げ消極的であるが、中国人は「機会や強み」ばかりを挙げ積極的である。根本的にリスクの考え方が異なるのは国民性の違いなのか。そのプラス思考に底知れないバイタリティを持っている。
日本人は未だに会社の終身雇用・企業別組合・年功序列を信用しているが、中国人はもともと会社の人事制度を信用していないのか、一つの会社に長期間勤めることをリスクと考えている。自己評価についても日本人は守り中心の減点主義だが、中国人は攻撃中心の加点主義である。日本人は自己評価が下がるのを気にするが、中国人は高い評価や待遇を期待する。
日本人は性格も能力も大体同じ均一の集団であるが、中国は優秀な人材とそうでない人材がバラバラの不均一な集団である。人事管理が異なるのは当然かも知れない。
7.中国人と付き合うには「異文化コミュニケーション能力」が重要である。
どこの国の人でも、仲良くなるには酒を飲んだり、世間話をするのが最良の方法である。その時に基本となるのは言葉(中国語会話)である。やはり言葉が通じないと、意思疎通ができないので仲良くなれない。ただし私自身はと言えば、中国語の学習は遅々として進まない。残念なことに団塊世代である私の脳味噌と体力の衰えが激しいのが原因である。ここはボケ防止を兼ね、老骨に鞭を打って今年の秋は「中国語検定3級」を受けてみようかと大それたことも考えている。
私の中国語学習にはいくつかの厚い壁がある。日常会話で使う基本的な動詞が日本語の単語と大きく異なる。食べる⇒吃chi 、飲む⇒喝he、見る⇒看kan、聞く⇒聴ting、歩く⇒走zou、と何故か異なるので、筆談が通用しない。
発音は更に難しい。最初は英語の「abc」である「ボフォモフォ、 b p m f」から始まるが、単調でオジサンには全く面白くもおかしくもなく根気が続かない。
中国語にはピンインというものが出てくるがこれも曲者である。中国では子供でもできるそうであるが日本人にはその発音が難しい。中国人は基本的に口や舌の使い方が異なる。zhi、chi、shi、riなどアルファベットの発音とも異なる。英語のように読んでも中国語にならない。中国語(ピンイン)と日本語(音読み)の関係が分からないまま挫折となってしまった。
8.いつの日かテレサテン(?麗君)の歌を中国語で歌えるようになりたい
私はテレサテンの美しい歌を聴いていると気分がすっきりしてくる。血圧も少し下がるような気がする。美空ひばりとテレサテンは二人とも天才歌手で、美空ひばりは日本の国民歌手で、テレサテンはアジアの歌姫だ。歌の心の表現力や音程の確かさなど二人はプロ中のプロである。1970年代頃、中国の昼間は老?・?小平が支配し、夜は小?・?麗君が支配したと言われる。
「白天是‘老?’社会 晩上是‘小?’世界」
9.これからは地球人同士のグローバルな交流が始まる
私達、個人個人が日常生活の中で親しい中国の友人を作り、お隣の中国の文化・生活・政治経済・歴史などを理解しながらお互いに違う価値観を持っていることを認識して、身の丈に合うやり方で付き合っていけばおのずと道は開けると思う。私の知人で得意な趣味の分野で蘊蓄やこだわりのある人は、個人でワインやお茶などの輸出入で、通信販売のネットショップを開業している人が多い。また会社を辞めて日本語教師として中国などに行く人もいる。
また、世界はグローバル化が進展しており、もはや‘日本と中国だけの2国間の関係’だけではない、すでに‘地球人同士のグローバルな交流’が始まっている。Facebookの様に6億人が参加する世界的大流行のソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)も出てきている。そのためにも言語はより重要となっているITC京都の皆さん、世界の13億人が話す中国語を勉強しましょう。
気分転換を兼ねて、私は今年の秋に安いパック旅行で昔の中国の情緒が残る上海、無錫、蘇州あたりの旅情を楽しみたいと考えている。最後に専門家ではないため文中に不適切な点や正確でない記述もあると思うが、ご容赦願いたい。
■執筆者プロフィール
坂口 幸雄
ITベンダ(東南アジア・中国での日系企業の情報システム構築ビジネス、会計プロジェクト)、JAIMS日米経営科学研究所(米国ハワイ州)、外資系企業、海外職業訓練協会等を経験。現在、グローバル人材育成センターのアドバイザー、PMAJオフショア分科会メンバー、ITC京都会員
資格:PMP、PMS、ITC、日本経営品質賞セルフアセッサー
趣味:犬の散歩、テレサテンの歌を聴くこと、四国八十八カ所遍路の旅および西国三十三カ所観音霊場巡りを完了
メールアドレス:sakaguchi@g-jic.com