医療機関の消費税/中川 秀夫

 ある医療機関で会計システムの導入についてお話する機会があった。会計シス
テムの話は、気がつけば消費税の処理をどのようにするのかという話になって、
それが、システムの話を超えて、消費税そのものの矛盾にいきあたった。その矛
盾となった話は、損税問題である。
 損税とは、預かった消費税より、支払った消費税が多い。つまり、その医療機
関に消費税を転化、資金的に負担させた金額をいう。
 医療機関の提供する公的な医療保障制度に係る診療行為等に対する患者からの
窓口へ支払う医療費には、消費税が含まれていない。しかし、この診療行為を行
うに当たって治療に使われる薬品、診療材料、検査料等の医業原価や販売費およ
び一般管理費に含まれる購入費の多くは、一般企業同様に取引業者に対して消費
税分を付加して支払うのである。つまり、収入は消費税が非課税取引であるため、
消費税額分は付加されず、支出のうち課税取引の取引先には消費税を付加して支
払うことによるアンマッチな状況が医療機関にすべてしわ寄せされているのであ
る。最終的な消費者は、明らかに医療行為の提供を受ける患者のはずである。そ
れではなぜ、サービスを提供している医療機関が負担しなければならないことに
なるのか。この矛盾を知るためには、消費税の仕組みを今一度考えてみる必要が
ある。

(消費税の仕組み)
 消費税とは、消費一般に広く公平に課税する間接税である。ほぼすべての国内
における商品の販売、サービスの提供及び保税地域から引き取られる外国貨物を
課税対象とし、取引の各段階ごとに5%(うち1%は地方消費税)の税率で課税
される。
 消費税は、事業者に負担を求めるものではなく、税金分は事業者が販売する商
品やサービスの価格に含まれて、次々と転嫁され、最終的に商品を消費し又はサ
ービスの提供を受ける消費者が負担することとなる。
 生産、流通の各段階で二重、三重に税が課されることのないように課税売上げ
に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を控除し、税が累積しない仕組
みとなっている。課税仕入れとは、事業者が、事業として他の者から資産を譲り
受け、若しくは借り受け又は役務の提供を受けることをいう。ただし、課税仕入
れに該当しないものとして、社会保険診療報酬などの非課税取引が列挙されてい
る。
 納税義務者は、製造、卸、小売、サービスなどの各段階の事業者である。
 この消費税の仕組みと非課税取引によって、医療機関にしわ寄せされることに
なるのである。
 税率改定後の国税庁のホームページにおいても、「非課税範囲の拡大に関し、
これまでの税調答申において指摘された問題点」と題して次のように記述してい
る。「そもそも課税ベースの広い消費税としての基本的な性格に反する。前段階
税額控除の仕組みが非課税関連分野で機能しなくなるため、税の累積が生じるこ
とを通じて経済活動に歪みをもたらすこと等により、消費税の「中立性」や「簡
素性」を大きく損なうことにつながる。特に転々流通する物品を非課税とする場
合には、その影響は大きくなる。」として、このしわ寄せを認識している。

(医療機関を課税事業者に改める) 
 医業収入の多くの部分は、非課税取引によるものとなっているため、最終消費
者というべき患者や社会保険診療報酬基金からの収入には、消費税は含まれてい
ない。(厚生労働省の説明によれば、非課税による負担分は診療報酬におりこみ
済みとのことであるが、医療機関側の納得が得られていない。)
 現在、「損税」となっている医療機関の仕入れに係る消費税(控除対象外消費
税)を是正するために、医療に関する行為を原則非課税から「原則課税」へ転換
すべきである。
 また、輸出取引と同様にゼロ税率とすれば、医療機関にしわ寄せされることが
なくなる。社会政策的な配慮から課税することが適当でない取引との理由による
ならば、むしろ、ゼロ税率とすべきはずであるが、財政収入の確保の観点からは、
ゼロ税率とせずに、課税取引への転換が望まれる。

 したがって、医療機関における損税問題の解消策は、税が累積しない消費税の
仕組みと非課税売上げという2つの要因の矛盾を解消することに行きつくことと
なる。
 現在、「損税」となっている医療機関の仕入れに係る消費税(控除対象外消費
税)を控除するためには、応益負担の考え方に従い、医療に関する行為を原則非
課税から「原則課税」への転換が必要である。医療費負担に困窮する者について
は、例えば、申請により消費税負担相当額の公的負担を措置する制度の創設等を
検討することで、政策的配慮に代える。そして、医療費全体の課税ベースを拡大
していくことで損税問題が解消できるならば、国等に対する消費税も増収となり、
政策的配慮措置の代替財源も確保できるから、この問題も一考の余地があるので
はないだろうか。


■執筆者プロフィール

中川 秀夫(なかがわ ひでお)
税理士、ITコーディネーター、CFP(1級FP技能士)、
不動産コンサルティング技能登録者
IT投資に関する支援を新機軸に経営計画、
建設投資、不動産に関する業務サポートを展開中 。

お問合せ先:naka.h@dream.com

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