技術継承にどう取り組むか/岩本 元

 1人の技術者として私が考えることの多い問題に技術の継承があります。多く
の技術者は、仕事の経験を通じ、また自己学習によって豊富な知識を蓄積してい
きます。昔風に言うと物知り博士です。そして、自然に手が動いて品質の高いモ
ノを作り出せるようになります。目をつぶっていても仕事ができるベテランと例
えられる状態です。最後には他者から相談を受けた課題を解決してあげることが
できるようになります。プロフェッショナル、熟練工と呼ばれる状態です。直接
解決しなくても、知恵を貸して解決への道筋を示す(社内)コンサルタントと呼
ばれる人もいます。
 多くの会社、特に製造業者は、このようなプロフェッショナル技術者(以下、
プロ技術者)に依存しています。この人がいるから、この人に相談すれば、この
人なら何とかしてくれるという人が皆さんの周りにもいる筈です。私自身もそう
なりたいと思います。

 しかし、プロ技術者を中心に事業を回している会社はリスクも抱えています。
彼ら/彼女らが退職した後をどう補うかという問題です。2007年から2010年に掛
けて団塊の世代が多数退職する2007年問題は、単に労働力が低下するだけでなく、
中核であったプロ技術者が会社からいなくなってしまうことの影響を指していま
す。定年退職以外にもリスクはあります。終身雇用が見直されている現在、プロ
技術者が引き抜かれて転職することもあり得ます。また、事業を拡大しようとす
る際には、プロ技術者の人数が不足しないか、手が回るのかを考慮する必要があ
ります。
 そこで、プロ技術者の保有する技術を若手技術者に継承することが必要となり
ます。プロ技術者の知識は長い経験により培われたものなので、その継承は容易
ではありません。常日頃から技術継承を意識した体制と方法で業務を実施し、長
期的に技術を継承する仕組みをあらかじめ社内に構築しておくことが必要です。
まずは、プロ技術者を認定する制度です。ダイキン工業は、技能継承の中核とな
る人材を育てる「マイスター(卓越技能者)制度」を創設しました。シャープも
「モノづくり匠(たくみ)制度」を作り、製造現場で働く約4000人の中から、高
度な技能を持ち、後進を育てられる人材を「匠」に認定しています。日立製作所
は、技術継承を担当する「モノづくり技術事業部」を創設し、職人が持つ技能を
静止画、動画などで収録してデータベース化、広く社内で共有しています。
 プロ技術者と若手技術者をペアにして業務させる方法もよく取られます。マツ
ダの「伝承道場」では、特定技能領域について、45歳以下の技能検定1級認定者
を対象に、1~2年の期間、生産ラインから離れて、マンツーマンで技能伝承に
専念させています。

 現在、定年後の再雇用制度を設けている会社がありますが、必ずしもその制度
はうまく機能していません。その理由には、再雇用の給与レベルが低く抑えられ
ていることや、与えられる業務のレベルが低いため再雇用に対するモチベーショ
ン(「給与以上に、役に立っているという実感が欲しくて働いている」)が低い
ことがあります。逆に、日本の製造業の熟練工が退職後、中国の会社で雇用され
る事例が増えています。若手技術者に技術を継承し、育成するという高いモチベ
ーションが熟練工に与えられているそうです。日本企業においても、プロ技術者
を再雇用するのでなく定年延長も実施したり、他企業から退職するプロ技術者を
積極的に獲得する取り組みが必要でしょう。横河電機はいくつかの受け入れパタ
ーンを用意し、定年退職者の希望に柔軟に対応しています。

 日本の製造業を支えるのは高い技術力であり、それを保有するプロ技術者です。
技術の継承は重要な経営課題です。


■執筆者プロフィール

 岩本 元(いわもと はじめ)

 ITコーディネーター、技術士(情報工学部門、総合技術監理部門)
  &情報処理技術者(ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、システム監査他)
 企業におけるBPR・IT教育・情報セキュリティ対策・ネットワーク構築のご支援

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