地域における共生社会とIT利活用の推進/玉垣 勲

□揺らぐ世界経済の道程
 先頃、最も安全な金融資産とみなされてきた米国債の格下げは、米国への信認の低下、ドル中心の世界経済秩序の揺らぎを象徴しています。一方で「無国籍通貨」とも言える金相場の高騰は、財政危機の広がるユーロなど他の通貨がドルに代わる信認を得られない現状をも示しています。確固たる基軸通貨のない不安定な経済環境がこれから続くと予想されます。米欧が財政の制約も増すなかで輸出への依存が強まってドルやユーロの下落を放置している感があり、そんな中で円が独歩高になっているのは日本にとって憂慮すべき事態であります。
 主要国は協調して、過度の為替相場の変動など市場の動揺を抑える体制を構築しなければなりませんが、特に日本は円独歩高に手をこまねいているわけにはいきません。日本の金融・財政のかじ取り、特に長引くデフレからの脱却、超円高の是正など喫緊の重要課題解決に向け政治の果すべき役割・責任は重いものがあります。

□東日本大災害の教訓
 国内に目を転ずれば、未曾有の東日本大災害(地震、津波、原発事故)から半年以上が経過しました。その間。マスメディアは連日、災害の爪痕をドキュメントしていますが、その深刻さはまさに”想定外”に高まってきています。もとより、国や地方自治体などは、被災地復旧・復興への新たな制度づくり、枠組みの整備、必要とする資金の調達のアイデア、提言のまとめに腐心していますが、ややもすれば市場原理の活用や効率性の観点からの地域再生の構想が主だったものとなっているように思われます。
 リスク社会に生きる我々にとっては、リスクへの備えが不十分であったとの認識に立って災害などリスク対応への新たな視点・視座が企業や自治体、組織に求められています。もとより、リスク対応について震災発生からすぐにしかるべき行動をとった企業も存在しますし、被災者の冷静沈着な行動や、被災者みずからの手による避難所の秩序だった運営は内外から大きな賞賛を浴びました。こうした行動の背景には東北地方に根付いた町内会など地域コミニュティに寄与が大きかったことにあります。
 すなわち、実際に復旧・復興を行うのは地域の組織・企業などであり人にあるのです。復興実現の要諦は、コミュニティが中核となり、加えて継続的な人材の育成・供給がカギになると思います。「中小企業や強い現場」に働く人」に思いを馳せた地域再生に官民あげて本腰を入れたいものです。

□中小企業の強みと成長力
 今度の大災害は、これまでの効率性最優先、市場原理の限界も露わにしました。
「節電」現象は、国民一人一人がこれまで安易に考えてきたことの反省にとどまらず物質文明礼讃一辺倒への戒めとなりました。地域再生のためには「共助」が必須であることも痛感させられました。当然に地域に根付き、生きる中小企業の存在意義、役割の重要性を再認識させられました。
 元来、中央と地方の格差是正に向け、各地域の中小企業が元気になるべく前進することが、国・国民の命題です。中小企業には大企業にない強みがあります。
製造業にあっては独自の組立・加工力を磨き自らの優位性を高めうること、独自のアイデアで経営の理念や信念で自らの企業を牽引、つらぬくことができること、トップダウンによる意思決定スピード、機動力、従業員のひたむきな精進と誠実・素直さに強みがあります。
 その中小企業の成長力をさらに高めるポイントは、経営トップが主要顧客企業への依存意識を捨て、より多数の顧客に目をむけること、経営者は従業員に対して、向かうべき方向や戦略を明確にすること、主要企業に依存していた開拓力(市場浸透力・開拓力、新製品開発力)や見積もり力を強化すること、自社で蓄えたコストダウンなどの現場力を新規顧客創造に生かすこと、外部環境の変化に対してもコスト削減などのPDCAサイクルを常日頃から全従業員が着実に進めること、従業員を信頼して人材育成に努め、ボトムアップをはかることです。

□クラウドコンピューティングと元気企業
 評論家の立花 隆氏の言を待つまでもなく現代は、まさに「科学の時代」です。
わけてもIT革命の進展は著しいものがあることは衆目の一致するところです。
IT利活用は規模の大小を問わず事業経営には不可欠です。最近のITの話題と言えば、クラウド、ソーシャルネットワーキング(ツイッターやFacebookなど)ですが、このツイッターなども自社外のサーバーで運用されていることを考えれば、クラウドの一つと言えます。
 ソフトウエアやサーバーを自社設備として導入することなく、インターネットを通じて利用するクラウドコンピューティングは、初期投資がほとんど必要としないこと、月額定額で利用でき資金計画が立てやすいメリットはあります。クラウド利用のメリットは、運用管理軽減の他に今度の災害対策としての有用性にも目が向けられました。
 クラウドを使うと言いましてもその内容は人や企業によってさまざまで、これを利用者側で分類しますとSaaSの利用、業務特化型カスタマイズなどに分けられます。

・SaaSの利用
 会計ソフト、給与計算ソフト、グループウエア等々の利用があります。初めてIT化する場合は、パッケージソフトの保守契約が切れた、法規が変わったなど、あるタイミングで切り替えるのがよいと思われます。

・業務特化型ソフト+カスタマイズ
 小売業の販売管理、宿泊業の宿泊予約など、業種に沿ったSaaSもあります。
導入に際しては地域内の身近なITベンダーなどの専門家と相談し、導入ソフトをカスタマイズする方途もあいます。さらには、災害時に備えて、社内の運用負担を軽減したいなどで、これまでの既存のシステムをクラウド化することも一考に値します。
 しかし上記いずれの場合も、自社にとっての利点を十分に吟味すべきですが、幸いにも23年度は経済産業省がクラウド活用の推進をバックアップし、各経済産業局で地域事情にあった活動を展開していますので、こうした事業もうまく利用しましょう。、

□絆・共助の共生社会
 IT化の推進に当たっては自社単独でするには自ずから限界があります。地域内の(農工商それに住民)関係者が連携して、コミュニティを元にビジネスを広げていくようにイメージして、地域の絆・地域の共生・連帯を念頭にクラウドなどのIT化利活用により、新たな人と組織のネットワークを育み,協働する中から新たなビジネスチャンスの創出も可能となるでしょう。今度の未曾有の大災害を教訓に地域の人、中小企業の絆を一段と強化し、共助の理念のもとに新時代の「新生地域再生」を発展させるべく、共々着実に行動に移していこうではありませんか。


■執筆者プロフィール

玉垣 勲
IT経営・代表、労務管理事務所・所長
(中小企業診断士、通訳案内士(英語)、ファイナンシャルプランナー)