先月は2度の大型台風が直撃し、近畿南部をはじめ各地に甚大な被害をもたらしました。政局の混乱・交代と自然災害が連動しているように思えてなりません。
スポーツ・読書・食欲の秋。どうか今月は政局・自然現象とも平穏であって欲しいと願います。そして、一刻も早く、震災被災地・原発非難の方々含め、各地で不自由な生活を強いられている方々に「日常」が戻ることを祈っております。
さて私事ですが、先日、長男が怪我で通院している市内の大型病院に付き添いで行ってきました。地元でありながらご縁がなく(これは幸いなことなのですが)何年も行っていなかったのですが、昔に比べサービスレベルが格段に向上されており感動を覚えました。院内にコンビニが入っており、テーブルも備えつけられているので食事もできます。デザートとコーヒー好きの私には安価にくつろげるので助かります。待合室には現在の診察中の番号が電光掲示板で案内されており自分の番があとどれくらいなのかの目安も表示されています。そう言えば、昨年お見舞いに行った義父が入院していた病院も、1階にグランドピアノが置いてあり、定期的にピアニストが来て演奏して下さっているとのことでした。
病院もいよいよ本格的に患者さんや付き添い者へのプラスαのサービスに着手する時代、生き残りをかけた差別化の時代に入っていることを肌で感じた次第です。
ところで、一見、病院と似ている「高齢者介護福祉サービス」の状況はどうなのでしょうか。介護福祉事業も病院同様、経営難にあえぐ事業者が多く、差別化による利用者獲得・優秀な人材確保・経営の合理化に迫られています。また資本力のある異業種参入と言った脅威も出てきています。「高齢者介護福祉サービス」の創業の精神は「人としての尊厳の確保・生きがいのある高齢者生活への支援・奉仕の精神」であり、そこで従事するスタッフの志も同様とのことです。しかし、崇高でピュアな創業の精神・志も適正な利益確保や働き甲斐があってこそ事業として成り立つのが現実です。
現在の「高齢者介護福祉サービス」事業が抱える問題の多くは、以下の5つになるかと思います。
1.利益確保
国・自治体の補助だけでは経営が成り立たない。利益確保には一定数の利用者確保が必要であるが、そのために手厚いケアをしようとするとコストがかかり赤字になる。コスト削減のための業務効率改善(例:介護記録の効率化)をしようにも具体的な施策が見えない。
2.スタッフの確保
新規スタッフの短期間離職(待遇面・利用者家族等との対人関係・過酷な労働
条件)、スタッフスキルのばらつきや全体的なモラル低下
3.利用者ニーズ(満足度)への対応
利用者はネットなどを通じて知りえた「ほんの一部で実施されているハイレベルなサービス」までも求める。そこまではない場合でも、そもそも何をもって満足レベルに達していると判断していいのか指標がなく満足度・ニーズを捉えきれていない。
4.法制度上の介護行為の限界
スタッフとしては、痰の吸引や胃瘻(いろう)援助をしてあげたいが、(家族なら行って良いが)医療行為になるのでスタッフはできない。
5.経営を圧迫する法改正
介護保険法、老人福祉法の改正
このような厳しい現実(SWOT分析で言うWeaknessやThreatにあたる部分)がある一方で、以下のように差別化や事業拡大のヒント・チャンス(SWOT分析のOpportunityにあたる部分)も残されています。
1.高齢化社会による要介護の老人が増加
2.共働き、核家族化、少子化による介護福祉サービスの需要増
3.医療療養病床削減の法改正による介護療養病床の需要増
4.介護福祉施設入所への抵抗感減少
5.衣食住に加え、趣味・リクレーションも楽しめる介護福祉施設の需要
従って、事業の成長発展は、これらWeaknessやThreatに対し、Opportunityや、自事業所(自施設)ならではの強み(駅前の立地条件や地元病院とのコネクションと言ったSWOT分析のStrengthにあたる部分)で対応・対抗することで道は拓けてくるのではないでしょうか。
例えば、利益確保においては、
・収益性の良い「要介護度」が高い利用者の受入促進~医療機関連携や看護資格者の採用による対応。
・高価な設備投資を必要としない有料追加オプションメニュー(アロマエステや施設内での利用者個人用花壇の提供など)の充実による高付加価値ニーズへの対応と収益確保。
・スタッフの心的負担でもあり業務改善の足かせとなっている、介護記録業務におけるIT活用での効率化。
優秀な人材の確保については、
・地元の学校への積極的なインターンシップの働きかけ。
・職員意見箱の設置やオフサイトミーティングの実施。
・介護福祉士会などの主催によるスタッフコミュニティ(意見交換会)の開催。
利用者ニーズ(満足度)への対応については、
・プロジェクターを用いた懐かしい映画(ビデオ)上映などの娯楽提供。
・利用者・利用者家族アンケート回収によるニーズの把握。
などが考えられます。
どれも一朝一夕にはできませんが、厳しい環境下だからこそ現行事業の殻を破り、新事業ドメインや新たなコアコンピタンスを創生していかなければなりません。少子高齢化が加速するわが国において、高齢者介護対策は国家レベルでの課題であり、国・自治体の補助は必要不可欠ではありますが、補助金制度に頼るのではなく、創意工夫で経営課題を克服してこそ創業の精神が守られるのだと考えます。
最後に、介護福祉の事業主は、失礼ながら中長期での経営戦略を確立されていない事が多いようです。介護や福祉について崇高な思いがあり、その分野では研究熱心な一方で、こと経営スキル向上に関してはあまり時間を割かれていないようです。また、それに対し親身になって支援する専門のコンサルタントが不足していることも経営改善が遅れている原因かと思います。
私達、ITコーディネータは、やみくもにIT化を勧めるのでなく、真に経営に役立つIT利活用に向け、経営者の立場に立った助言・支援を行い、IT経営を実現させるプロ集団です。その活動範囲は多岐にわたっておりますが、介護福祉の分野においても一層の支援をしていく必要があると考えます。自分にもやがて訪れる老後を、今、介護を必要とされている方の身になって考えることで、どのような支援が必要か、今のうちに何をしなければならないかが見えてくると思います。
■執筆者プロフィール
富岡 岳司
ITコーディネータ京都 会員
ITコーディネータ
文書情報管理士
E-mail:j420@auone.jp