私は「上級SE教育研究会」という産学官のそれぞれの立場で、コンピュータとソフトウェアに関わる仕事に携わる者が集まり、ソフトウェア技術者が必要とする能力は何か、優れたソフトウェア技術者である上級SEをいかに育成するかを研究する会に、1年前より参加しております。20年以上続く研究会の新参者ですが、色々と教わることの多い会です。その中で、「視座力・視点力・価値観力」というテーマで長年議論されてきたものがレポートとしてまとまっています。
「視座力・視点力・価値観力」は、大阪電気通信大学石桁名誉教授が提唱されてきた「視座、視点、価値観」に「力」を加えた造語であります。
この「視座、視点、価値観」を強く意識することで、状況把握力やコミュニケーション力、問題解決力が強化されることから、「力」が付加されています。
齢を重ねるにつけ、相手の立場に立ってなぜ考えられないのかと反省することも多いこの頃ですが、少し、このテーマについて考えたいと思います。
■コミュニケーション力強化のための「視座力・視点力・価値観力」
「視座」とは物事にかかわる立場であり、「視点」とは物事に対する目の付け所のことで、どちらも問題の解決策を考えるときに、どれだけ多くの立場や視点から考えられるかが重要です。「価値観」とは、「大切に考えていること」で、物事を判断するときに、単純に計数的に論理的に判断できない時は、判断基準として価値観が非常に重要となります。
例えば、システム開発プロジェクトの課題を考えるとき、「視座」では顧客、株主、経営者、従業員、プロジェクトリーダ、ビジネスパートナーなどの立場があり、「視点」では納期、費用、品質、リスク、顧客満足度などの観点があります。一方の価値観では、※人、物、金が少なくて済む方法を採用すること、※法律は絶対遵守すること、※最新の技術を取り入れた方法で解決すること、※企業イメージを重視すること、※危険を避け、安全を優先すること、などがあります。
コミュニケーション力が最も必要とされる場の一つに会議があります。一つの意見には、その人の知識や経験など総合的なものが背景として存在し、ものさしである判断基準があります。会議では、意見の異なる相手の話をよく理解し、自分の考えを率直に述べ、時には相手を説得し、あるいは同調しつつ、反対意見も述べなければなりません。このような意見交換のプロセスを経て、共通の結論を出すのが会議ですが、議論がかみ合わない会議も多々あります。
このような会議は、互いの視座と取り上げている視点が異なっており、ある場合には自己主張が強く、雰囲気や意地から相手の言い分を正しく理解しようという度量がないことから起きます。その場合には、会議の目的に立ち返り、自分の主張とその会議で必要としている視座、視点、価値観に照らし合わせて説明し直し、お互いが相手の立場で考え直してみることが重要です。
■ソーシャルメディア時代の「視座力・視点力・価値観力」
最近のソーシャルメディアの台頭で、「視座」、「視点」、「価値観」が大きく変わっていくように感じます。ソーシャルメディアでのコミュニケーションは年齢や職業そして性別もあまり意識せず、視座である立場も視点も多様な方が参画します。もちろん、クローズドなある趣味とか目的を持ったコミュニティもありますが、TwitterやFacebookでは価値観も色々な方が参画されています。それだからこそ、今まで発想もしなかった観点での見方や意見やコメントが飛び交い、それに共感を覚え、その共感が輪となって広がっていきます。
企業においてのコミュニケーションは、従来はマスメディアや自社メディアを活用し一方的に顧客に情報発信してきましたが、これからは顧客の中に飛びこみ、同じ目線で議論したり、共同で新商品開発につなげたり、ファンクラブを作ったり、アイデア次第で色々なことが実現できます。
ソーシャルメディアでは、「情報の共有・共感」が人々のつながりやコミュニケーションを変えます。共感=同じ価値観であり、これは映画を見て視座視点に関係なく同じように感動し、涙するのと似ています。また、ソーシャルメディアでは写真や動画が多用され、感動と共感の輪を一瞬にして広めることができます。
スマートフォンの台頭とともに、これからもこのようなコミュニケーションやコミュニティが急拡大すると思われますが、一方で投稿される文面や写真などを見て、この人の視座、視点、価値観は何だろうかと考えることも多くなりました。
これからは、このようなソーシャルメディアでのコミュニケーションを通じて、この3つの力を高め、磨きをかけていくことが重要になってくると思います。
最後になりますが、日経BP社のWebサイトのTech-Onのコラムに、2011年8月11日より「視座力・視点力・価値観力」をタイトルにした連載物が取上げられるとともに、10月14日に大阪電通大駅前キャンパスで日経エレクトロニクス主催のセミナーが開かれます。セミナー名は「エンジニアのための仕事力強化講座」で、次のURLに募集広告が掲載されています。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/SEMINAR/20110830/197834/
参考までに情報提供させていただきます。
■執筆者プロフィール
ヒーリング テクノロジー ラボ 代表 下村 敏和
ITコーディネータ京都 理事
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