最近の世界的なITの大きな流れの一つに、「Consumerization」というものがあります。まだ良い和訳はないのですが、消費者向けのIT技術が企業向けのITを塗りかえてしまうことというように理解すれば良いかと思います。まさしくスマートフォンがその代表ですね。
リレー連載その1では、このスマートフォンを使う場合にはPCと同じような管理のしくみが必要ですというようなことが示されていましたが、この号ではスマートフォンの利用の仕方について、少し深く考えてみたいと思います。
企業によるスマートフォンの利活用方法としては、スマートフォンアプリを作って消費者にダウンロードして使ってもらう囲い込みやチャネルの多様化を目的としたものと、社員に使わせる業務利用の二つの方法があります。
まず後者についてですが、スマートフォンの業務利用の用途を調べたアンケートが頻繁にいろいろな調査会社でなされています。これらの調査によると、まだまだメールやスケジューラでの利用が中心でスマートフォンらしい使い方はこれからというところのようです。自社の業務用Webアプリをスマートフォンで使わせるための技術的な蓄積がまだ不十分なのがその主な要因です。
スマートフォンからの認証や端末管理のためのアプリケーションはすぐにでも利用可能な状態になりつつあります。持ち歩きPCと同様のセキュリティ対策は先行して整備されつつありますし、スマートフォンをシンクライアントとして利用することも難しくありません。11月の第二週に東京で開催されたVMware社のvForum2011では、個人のスマートフォンを極めて安全に会社のWebアプリの端末として使うことのできるソフトを、同社の社員が日常的に利用している様子がPRされていました。ただし、スマートフォンの画面で利用できるようにするための工夫が必要です。小さい画面でいつもズームアップしてスクロールして使うのはやはり不評です。会社のWebアプリを構築する際に、スマートフォンでも利用できるようにするための工夫が必要となるのですが、まだまだその知識が普及しているとはいえません。
ただし、SaaSの中には、Salesforce.comの様にスマートフォン向けの画面を同時に自動的に作ってくれるものも出てきています。おそらくスマートフォンの業務利用はSaaSから急速に広まり、新規開発の社内ソフトから対応していくというように進むと思います。
一方、消費者向けのスマートフォンアプリについては、非常にたくさんのアプリケーションがApp StoreやAndroid Marketに登録されている状況において、いかに自社のアプリをダウンロードしてもらうのか、そしてこちらの方が難しいのですが、いかに削除されずに使わせ続けるかが重要なポイントとなります。
一部の方はご存知かと思いますが、スマートフォンのストレージサイズはメーカによってまちまちです。iPhoneについては4までは、8/16/32GBの3種類でわかりやすいのですが、Android携帯についてはストレージ容量がかなり小さいものもあります。スマートフォンにはアプリだけでなく、写真や動画、音楽なども登録されるわけですから、まさにこのストレージの奪い合いになっているのです。
顧客志向の議論では「顧客内シェア」という指標が良く使われますが、スマートフォンアプリについても同じことが言えるわけです。確かにWebサイト経由でアクセスできれば良いという考えもありますが、ライバル社がスマートフォンアプリを出した場合、消費者はどちらを選ぶでしょうか? 答えは明らかですね。
使い続けてもらうためには、アプリケーションとしての使い勝手の良さはもちろん、スマートフォンを通じて提供するサービスそのものが魅力あるものでないといけません。
いずれの用途であれ、開発は開発キットが無料で提供されておりゲームを作るのでなければ技術的難易度はあまり高くありません。スマートフォンという素晴らしいデバイスがあるのだから、これまでの考え方に縛られることなく、自由に楽しい発想、自分が使ったら楽しいなぁ、うれしいなぁという視点で用途を先に考えることが大事です。
そのためには、まず自らがユーザとなること。使ったことがない人、良さがわかっていない人がプロジェクトに参加することは厳禁です。特に上長の方々は注意してほしいと思います。
■執筆者プロフィール
氏 名 宗平 順己(むねひら としみ)
所 属 株式会社オージス総研 執行役員 技術部長
資 格 ITコーディネータ、公認システム監査人
専門分野
・BPM+SOA
・BSC(Balanced Scorecard)
・IT投資マネジメント
・ビジネスモデリング
・IT統制