(続)事業継続管理/中村 久吉

 ちょうどこの2ヵ月ほどの間は、京都市地域中小企業の事業継続計画(BCP)策定に取組んでいます。島国という立地の影響か、大多数が性善説に立つ日本人は危機管理意識が薄く、本格的に事業継続管理に取組んでいる企業組織は非常に少ないのが現状です。しかし、今年3月の東日本大震災以降は、さすがにこの状況ではいけないと考える組織が増えてきました。それでも、災害が少ない京都市域の企業の認識は、他の地域より遅れているのではないでしょうか。
 過去2回にわたって事業継続管理を取り上げましたが、今回は初心に戻って事業継続管理の意味を考えてみたいと思います。

 事業継続計画(以下、BCPといいます)策定講座に参加されている企業経営者の中には、「BCPが我が社に必要かどうか分からないままに参加した」と言われる人もいますが、基本的に“事業を継続する意思を経営者が持っている限り、その企業組織にはBCPが必須”です。その根拠は何でしょうか。それは、BCPによって何を守るのかを考えてみれば明白です。

1.人命の安全確保
 緊急事態下では、消防・救急車・警察・自治体スタッフ等、絶対動員数が少なく、自分の身は自分で守ることが原則です。
2.サプライチェーンの維持
 自社が属するサプライチェーンの上流や下流の取引企業に対する悪影響を最小限に止めることによって、取引を維持することが重要です。
3.信用・信頼と社会的責任
 事業中断を最小限に止め、SLA(サービスレベル・アグリーメント)を維持するための取組が当該企業の信用を守ります。被災したので遵守義務を果たせないというのでは、今日まで営々と築いてきた信用が一瞬にして失われます。
4.雇用と忠誠
 従業員の雇用の維持は、家計と共に地域経済の活力を守ります。同時に従業員に安心感と希望を与え、組織に対するロイヤリティの強化に結び付きます。

 以上のように、自社、従業員、取引先、更には地域社会を守るための取組であって、緊急事態下における企業サバイバル(生き残り)を目指しているのです。

 これまで弊NPOではICT経営を推進してきました。ICT経営では、組織を取り巻く外部環境や内部経営資源の状況に対応して、定期的に経営戦略や経営計画を見直し、ビジネスモデルの有効性を確認しながら業務遂行に取組みます。平常時の比較的穏やかな変化の中で企業サバイバルを図っているのです。これに対して、事業継続管理(BCP/BCM)は非常に短期間の大きな環境変化(緊急事態)の中での企業サバイバルを目的としています。20世紀に比べて21世紀は自然環境の変化が激しく、非常事態に見舞われる確率は高まっている訳で、生き残りたいのであればこのような観点から見ても事業継続管理(BCP/BCM)は中小企業にとって必須なのだということが分かります。

 事業継続管理(BCP/BCM)は、日常において検証することが出来ない非常事態に対する取組ですから、初めて取組む時は相応の不確実性があります。従って、構築したBCP/BCMの有効性を担保するためには教育・訓練や演習及び点検と見直しが必要になります。PDCAサイクルによる継続的改善によって、BCP/BCMの有効性を担保しますので、当然に取組は早い方が良い訳です。大企業に比べて体力の少ない中小企業こそ、積極的な取組が期待されます。


■執筆者プロフィール

中村久吉(なかむらひさよし)
ITコーディネータ、ISO27001主任審査員
中小企業診断士、プライバシーマーク主任審査員
e-mail: ohnakamura@gmail.com