ITに関するスキル向上というと高度専門技術者を思い浮かべる方が多いと思いますが、今回のテーマはITを活用する側の人材育成について述べます。
ITを活用する側といってもエンドユーザのみではなく、自社で情報システムを開発せずにシステムを運用している情報システム部門も対象としています。
その背景は最近ある中堅会社で情報システムの運用に関して危惧すべきことがありましたので、その事例を紹介しながらお話します。
この数年の間、情報システムは自社開発からERPなどのパッケージを利用することが多くなっております。ソフトウェアも豊富になっておりますが、自社開発する機会が少なくなった分だけ、情報システムのしくみについての知識・経験が希薄になり、問題が潜在化しています。
懸念される問題はいくつかありますが、今回は次の2点について取り上げます。
1つは、業務系システムの構想力が低下していることです。もう1つは情報システムがブラックボックス化しているのに伴い、処理結果に対する結果責任が不明瞭になっていることです。
最初の問題は、ある業務をシステム化するにあたって、ベンダーに対してシステムの要件を決めて発注するのですが、要件の細かい条件を列挙するのですが、全体像を掴みきれていないため、その業務要件のゴールのイメージが描けず、相互関係のバランスを欠き、無駄な開発を進めようとしていました。
何よりも問題なのはシステム化の要件の基になる業務フローすら記述できずに、いきなり帳票の設計をしたり、処理条件を考えてしまい、費用対効果などの全体を鳥瞰した視点を欠いています。これは単に担当者の個人のスキルの問題もありますが、情報システムがパッケージ利用にシフトしていくなかで、システムの構築力が低下していったと考えられます。パッケージの利用は自社開発のための開発費増大を抑制し、間接要員の削減につながり会社経営上の課題解決には有効ではありますが諸刃の剣であることも認識してしておく必要があります。
もう1つの事例は、同じくパッケージを利用している会社で、運用方法を変更するにあたり、実行のサイクルに変更を加えたのですが、関連する事項の変更対応をしていないため、ちょっと信じられないことですが間違った処理結果を数ヶ月間運用していたということです。これは情報システム部門が変更作業にあたって検証作業もせず適用し、利用部門も処理結果の検証を放置していたことになります。これはパッケージ利用でシステムの仕組みがブラックボックス化していることも一因として挙げられますが、それだけでは済まされません。
個々に潜む共通の問題は、情報システムの利用にあたっての基本的な考え方が欠如していることです。コンピュータはあくまでも道具ですから、使い方も間違えれば企業を窮地に追い込む凶器にもなりかねません。ではどのような手立てをすればよいのでしょうか。人為的なミスをなくし、合目的な活動のために人材育成は欠かせません。しかし 一口に人材育成といっても簡単にはできませんが、ミスを防ぐチェック体制だけでなく、スキルそのものの訓練が必要です。
その訓練の1つの方法として以下のことが考えられます。
つまり、いずれのケースもデータの流れを理解していないことが問題です。
定期的にテーマを決め、情報系の担当者と業務系の担当者がペアになって情報の流れを理解し、業務改善提案を実践させることにより、つぎの効果が期待できます。
1)情報系担当者による正確なデータの流れ・加工が明らかになる。
2)業務系担当者により必要十分なデータが明らかになる
3)各担当者の全体を俯瞰する力が付き、モチベーションの向上が期待できる
4)情報システムのチェックポイントが明になり、不具合防止に役立つ
とかくシステム運用のサービスレベルと言った場合、コンピュータの故障が発生する間隔とか、故障の修理時間などハードウェアの面が話題になりますが、むしろどれだけコンピュータを有効活用しているかを基準に考えていかなければなりません。しかし、コンピュータの有効利用の係数を図る指標はありませんので会社事情にあった独自の指標作りが必要ですが、この点は別の機会とします。
前述の事例が、単にその会社固有の問題であればよいのですが、類似の問題が発生していますので、今回の事例を通して検めて情報システムに関わる実務者の育成の大切さを鑑みて対応策を講じられることを提言いたします。情報システム健全な運用は導入のインパクトに劣らず大事ですので、企業経営を足元から揺るがすことのないように留意下さい。
■執筆者プロフィール
大塚 邦雄
情報処理システム監査、ITコーディネータ
長年にわたるシステム経験をもとにIT化を支援します。
e-mail:k_ootuka@mbox.kyoto-inet.or.jp