ビジネスにおけるクラウド技術利用の光と影/柏原 秀明

■はじめに
 2006年に“クラウド・コンピューティング”という言葉が発表された。ご承知
のように、従来のコンピュータ利用が企業・組織などのユーザがコンピュータの
ハードウェア、ソフトウェア、データなどを企業・組織自身で保有・管理しビジ
ネス活動を行ってきたのに対して、クラウド・コンピューティング(SaaS:
Software as a Service, PaaS: Private as a Service,HaaS: Hardware as a
Service, IaaS: Infrastructure as a Service)では“ユーザは、インターネット
接続に必要な最低限の接続環境用パソコンや携帯端末とブラウザを用意し、クラ
ウド側のサービスを受けビジネス活動を行うことができる。ユーザは、このサー
ビスに対して利用料金を支払う形式をとる。最近、このクラウド・コンピューテ
ィングの利便性が、広く浸透しつつあり一段と脚光を浴びている。その起爆剤の
1つは、高機能・高性能なスマートフォンの出現である。よって、ここでは“ビ
ジネスにおけるクラウド技術利用の光と影”について鳥瞰する。

■利用のメリット
 クラウド・コンピューティング利用のいくつかのメリット(利便性)について述
べる。
・発生費用の低減
 利用した行為にのみ費用が発生する仕組みである。すなわち、従来のように企
業・組織が自前でシステム構築を行い使用する場合と比較して、導入費用・運用
費用が少なくなる傾向にある。併せて、複数企業・組織の多数のユーザを対象と
するためスケールメリットにより発生費用が少なくなる。
・運用・保守のサービスの享受
 クラウドサービス業者の技術者の専門的な技術・知見・知識による情報セキュ
リティを含むサービスが享受できる。
・安全・安心なデータ管理サービスの享受
 専門的な技術に基づく堅牢なデータセンターに利用者のデータが格納され、利
用者は安全・安心なデータ管理サービスを享受できる。
・ユーザ企業・組織の人員削減
 ユーザ側で抱えていたIT部門・情報の取り扱い部門の人員を削減し費用削減を
行うことができる。
・ユーザ企業のサービス選択の自由
 ユーザ企業・組織が必要とする利用形態に応じてSaaS,PaaS,HaaS,IaaSを自由に
選択できる。

■利用のリスク
 クラウド・コンピューティング利用のいくつかのリスク(危険性)を述べる。
・データ管理がホワイトボックス状態からグレイ・ブラックボックス状態へ
 従来の企業・組織自身でコンピュータシステムを保有・管理する形態とクラウ
ド・コンピューティングの形態が根本的に異なるのは、データそのものを企業・
組織の外で管理してサービスを受けることである。すなわち、従来の保有・管理
形態では、企業・組織内の人員がデータ管理に携わり十分に把握することができ
る。併せて、業務内容とコンピュータシステムのデータとの関係を具体的に掌握
することができる。しかし、クラウド・コンピューティングの利用では、データ
管理の状態の関係把握が希薄になる。すなわちデータのホワイトボックス状態か
らグレイ・ブラックボックス状態へと時間の経過と共に変移する可能性がある。
・業者側主導によるクラウドシステム構築・サービス
 一般的に業者のSE(System Engineer)は、情報通信技術には詳しいが、ユーザ側
の業務を十分に理解しているとは限らない。むしろ、理解していない場合の方が
多いと考えるべきである。したがって、ユーザの期待するクラウドシステムが構
築、サービス実現されない可能性がある。
・データアクセス不可状態の発生
 データセンターで管理されているデータにインターネット経由でアクセスしよ
うとした場合、アクセス不可の状態(インターネットの不通、大規模な通信輻輳、
セキュリティ侵害・攻撃・改ざんなど)が発生してビジネス活動に支障が発生す
る可能性がある。既にこのような事故がいくつか発生している。

■全ては利用者責任
 ビジネスでクラウド・コンピューティング・サービスを利用する場合、業者側
との契約内容を十分に理解し、利用リスクの想定ケースを予測することが従来の
コンピュータシステム構築・運用と比較して重要である。大事な情報資産(会計、
人事、顧客、技術データなど)を外部(データセンター)で管理するのであるか
ら、一旦、事故が発生した場合の対処方法とそれに基づく事前準備をどのように
行うかを具体的に検討し納得することが必要である。“天災は忘れた頃にやって
くる”の諺のように益々、利用者の責任が重くなる。

■おわりに
 情報通信技術(ICT: Information Communication Technology)は、20年前の
“IT革命”からクラウド・コンピューティングを利用した“スマート革命”に移
行してビジネスや生活の中で重要な中枢神経になろうとしている。しかし、新し
いICTの出現によってビジネスや生活の利便(メリット)は増大するが、それに対
応した潜在的な様々な危険(リスク)が潜んでいるはずである。新しいICTに急い
で飛びつくのは良いが、利用開始から時間が経過するにつれて様々なリスクが、
ひたひたと出現・成長している可能性がある。ビジネスにおいては、これらのリ
スクに遭遇して東日本大震災のように致命的な被害を被ってから“想定外”だっ
たでは済まされない。新しいICTを導入・活用する場合には、そのリスクについて
メリットと同等以上に事前調査が必要である。


■執筆者プロフィール

柏原秀明

柏原コンサルティングオフィス代表、ITコーディネータ京都理事
ITコーディネータ、博士(工学)、技術士(情報工学・総合技術監理部門)、
EMF国際エンジニア、APECエンジニア

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