ウェブサイトでの受注・販売促進について再考 / 松井 宏次

 何気なくNHKのTV放送を見ていると、江戸時代の絵師伊藤若冲の技が紹介紹介されていました。その内容のひとつが金の表現。赤橙黄緑青藍紫という虹の7色にみられるような色のバリエーションには出てこない、金という色の表現です。金や銀は金属光沢による視覚効果で捉えられる色ですが、若冲はそれを金属成分を使うのではなく、黄色と黒、そして白を、地色から裏側までの層に巧みに使うことで金色を感じさせているというものでした。
 後の世に謎解きを残そうとしたかのような技法の追求、開発に驚くとともに、こうした絵師、そして絵画が生まれた時代が持っていたであろう、ある種の豊かさに思いを巡らせてしまいました。 

 今回は、ここ20年程の間にデジタル情報技術の進化がもたらして来たことに関しての話題です。

 商用インターネットプロバイダーとしてIIJインターネットイニシアティブがサービスを始めたのが1992年。日本のブロードバンド普及が進むきっかけとなったソフトバンクのYahooBBが始まったのが2001年。かたや、携帯電話に音声以外のサービスを載せたi-modeがNTTdocomoによってサービスが開始されたのは1999年。インターネット上の電子モールについて見ると、現在、国内の代表的な電子モールの一つとなっている楽天市場がスタートしたのが1997年でした。
’90年代に始まり2000年を越える頃から加速して来た日本のデジタル情報通信利用の広がりは、暮らしのありかたにも、様々なビジネスの成り立ちかたにも大きな影響を与え続けています。

 昨年2011年末には、楽天市場の年間流通総額が1兆円を越えたことが報じられました。開設当初は数十万円規模の流通高で、5000億円を越えたのが開設後10年の2007年。その後4年を経ての1兆円突破。出店数も3万8000店以上と伝えられています。文字通り飛躍的な伸びです。
 楽天市場などの電子モールへの出店と自社のウェブサイトでの販売との兼ね合い、モールの効果的な活用度などは様々ですが、インターネット上を受注や販売促進の場とすることは、企業にとって、一般的になったことに違いはありません。

 ちなみに、昨年2011年後半に京都で行われた「中小企業における受注及び販売の促進活動に関する調査・研究(中小企業診断協会京都支部平成23年度調査研究事業)」においても、実施している販促活動等を問う質問に対し、最も多い回答が「インターネットで情報発信(58.3%)」でした。広く受注や販売促進に関わる動きについての問いへの答えで、サイトの受注機能の程度等は問われていませんが、回答者の約6割が、受注、及び販売促進としてインターネットでの情報発信に取り組んでいるという回答結果でした。

 ウェブサイトでの受注、販売促進の取り組みには、様々な試みがなされて来ました。かつては、現実の店舗を模した仮想空間づくりが競うように試みられた時期もあります。現在のような恵まれた通信環境もなく、PC端末の性能もまだまだ不十分な頃での試みでした。今にしてみれば、それは象徴的な試行錯誤のひとつだったと言えそうです。試みの背景となったのは、ウェブサイトに品物の画像や説明の文章を並べただけでは、お客様の「買う楽しみ」が得られない。その楽しみを満たす仕組みが必要との考えでした。
 人の購買行動には、機能や対価にたいるす合理的な判断がはたらくこともあれば、心地よさや楽しさという情緒のはたらく局面もあります。コンピュータ、インターネットといった、構成しているもの自体の無機質さを感じがちな販売の仕組みのなかで、どのように情緒の面なども含めた購買行動全体への対応を進めるかという課題が追いかけられたのでした。
 時を経て現在、現実の店舗を模したような仮想空間づくりとは異なる取組みが重視されています。いうまでもなく、近年での取り組みの大きな傾向のひとつは、検索エンジンの伸長に応じての動きでした。SEOと呼ばれるものです。視点を置き直すと、それは、買い手のリサーチについての要求、言い換えると、「知りたい、調べたいという欲求」への対応だったといえます。
 買い手が、売り手側に不必要に煩わされることなく、検索エンジンや、様々なサイト閲覧を通じて商品情報を収集し比較検討するといった行為に、有効に対応する取組みがそこでは求められるようになりました。そして、そのネット上で検索し調べるという行為が、消費者にとって次第に、新しい「買う楽しみ」になって来てもいます。そこでは、求められるであろう情報に適確に応えた上で、かつ少し追加された情報が提供されること、あるいは、心地よい意外性が付属していることなどの工夫が、受注や販売促進に繋がります。
 また、近時では、ソーシャルネットワーク(SNS)の広がりを背景にした対応が重視されています。そこにも新しい楽しみが生まれています。例えば自らがその商品への評価の情報発信者になるという「伝える楽しみ」です。これは、発信したいことが良好な内容であってこそ生まれる楽しみです。そこでは、買い手が、商品やそれを提供する企業にどのように共感できるかが鍵になります。

 ここに述べたような動向は、Googleに代表されるインターネット上の検索システムや、FaceBookに代表されるSNSといったテクノロジーやサービスの登場による環境変化がもたらしたものと言えます。それとともに、人々の側の事象として捉えておくべき変化もあります。買い手にとってデジタル情報技術の利用が「普段使い」になった中、購買における新しい楽しみかたも持ち始めたといった変化です。
 新しい技術が社会やビジネスに影響を与えていくとき、その影響のありかたは様々であり、また相互的ともなります。発達の段階を踏まえながら、そして複数の視点から現在の情況を捉えることが大切です。


■執筆者プロフィール

松井 宏次(マツイ ヒロツグ) ソフトプラウ SoftPlow Business Lab
ITコーディネータ 1級カラーコーディネーター 中小企業診断士
e-mail:hiro-matsui@nifty.com  Twitter : honobuon