政府は、国民一人一人に番号を割りふる「共通番号制度」の導入に向け、制度の中心的な法案となるいわゆる「マイナンバー法案」を閣議決定し、14日に国会に提出した。
新制度は所得や納税額、支払った年金や医療、介護などの保険料のほか、社会保障の受給に関する情報を住民基本台帳のネットワークを通じて集約するため、国民や企業にそれぞれ数字を割り振る。2015年1月の利用開始を想定し、すべての国民と企業に番号を登録したICチップ付きのカードを配る予定である。
個人情報に関しては現在、納税は国税庁、年金は厚生労働省などに担当官庁が分かれ、それぞれの省庁で管理する番号もばらばらだ。新制度でこれらを「マイナンバー」によって1つにまとめることによって利便性を向上させ、収入に応じたきめ細かい社会保障サービスを提供するとしている。
現行の住民基本台帳ネットワークで住民に交付するカードが普及していないのは、カード利用者の利便性に乏しいためであろう。利便性を高めるためには、相当程度の個人や企業の情報を国等の行政機関が管理することが必要となる。
利便性を追求していけば、国民のあらゆる個人情報を国が管理するという状態になる。このような膨大な情報を管理運営し、個人情報漏えいによるプライバシー侵害や情報の不正利用を一切防止できるシステムは可能なのだろうか。毎日のように企業や行政の情報漏洩事件が起こっている現状から考えるとそれは不可能であると考えるべきだろう。
「マイナンバー」による利便性には、国民の利便性と政府の利便性の両方の意味があるように思える。国民の利便性を追求すると国が国民を管理する利便性も向上することになる。したがって、どこまでの個人や企業の情報を国が管理することとし、その集めた情報の利用度の制限をどこまでにするのかを決めなければならない。そのベースになるのが、今回の「マイナンバー法案」ではないだろうか。国民にとって大変重要なプロジェクトが進行中なのである。しかし、国民の制度への理解は広がっていない。内閣府が行った世論調査では、8割がこの制度を知らなかったとのことである。現在、政府では平成23年度から平成24年度の2年間をかけ、全国47都道府県で「番号制度シンポジウム」を開催している。このシンポジウムでは、政府からマイナンバー制度について説明するだけではなく、国民の意見を番号制度づくりに活かしていきたいと考えているとのことである。あなたも「番号制度リレーシンポジウム」に参加してみてはいかがだろうか。
反対の声が今のまま高まらなければ、マイナンバー制度は実現へ向けて進行していくだろう。制度が普及すれば、個人情報漏えいによるプライバシー侵害や情報の不正利用の被害の危険性が増大する半面、新たなビジネスチャンスの可能性も十分考えられる。
《参考》
行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案(マイナンバー法案)
(目的)
この法律は、行政機関、地方公共団体その他の行政事務を処理する者が、個人番号及び法人番号の有する特定の個人及び法人その他の団体を識別する機能を活用して、効率的な情報の管理及び利用並びに他の行政事務を処理する者との間における迅速な情報の授受を行うことができるようにするとともに、これらの者に対し申請、届出その他の手続を行う国民が、手続の簡素化による負担の軽減及び本人確認の簡易な手段を得られるようにするために必要な事項を定めるほか、個人番号その他の特定個人情報の取扱いが適正に行われるよう行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十八号)、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十九号)及び個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)の特例を定めることを目的とする。
(理由)
行政機関、地方公共団体その他の行政事務を処理する者が、個人番号及び法人番号の有する特定の個人及び法人その他の団体を識別する機能を活用して、効率的な情報の管理及び利用並びに他の行政事務を処理する者との間における迅速な情報の授受を行うことができるようにするとともに、これらの者に対し申請、届出その他の手続を行う国民が、手続の簡素化による負担の軽減及び本人確認の簡易な手段を得られるようにするために必要な事項を定める等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
■執筆者プロフィール
中川 秀夫(なかがわ ひでお)
税理士、ITコーディネーター、CFP(1級FP技能士)、
不動産コンサルティング技能登録者
IT投資に関する支援を新機軸に経営計画、
建設投資、不動産に関する業務サポートを展開中 。
お問合せ先:naka.h@dream.com