ITCはビジネス・プロジェクトを志向せよ!~ 新ITCプロセスガイドラインに込められた重要な方針 ~/角倉 悟郎

今年6月にITCプロセスガイドラインβ版(以下PGLβ)が全面的に見直され、ITCプロセスガイドラインVer1.0(以下PGL1.0)がリリースされました。PGL1.0によれば、ITCとは、「経営者の思いや企業理念、企業価値観を理解・把握し、経営者の立場に立って、経営とITを橋渡しし、真に経営に役立つIT化投資を推進・支援するプロフェッショナル」と定義されています。
ITCの使命は
(1)経営改革の支援
(2)経営とITを結ぶ人材
(3)e-Japan 戦略II の推進を担う人材
また、ITCプロセスの特徴として
(1)「経営戦略」の重要性の認識
(2)指導原理は「経営戦略との整合性」
が示されています。
この内容からは、今回大きな変更は無いように思えます。
しかし、実はとても重要な方針が明確にされているのです。

数年前までERP(統合業務)パッケージが全盛期であり、IT万能論が大勢を占めていました。当時、多くの企業でERPをはじめ高機能なITツールが導入されました。ERPを導入しさえすればBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)が実現でき、これによって経営改革ができると信じられていました。PGLβはこの環境の影響を強く受けていると思われます。PGLβでは、戦略情報化企画フェーズのアクティビティとして経営改革企画があり、戦略情報化企画は経営改革の上位に位置づけられていました。
IT導入の成功はビジネスの成功であると思われていましたが、必ずしもそうなりませんでした。ITに対する期待が大きかった分投資は肥大し、当初想定されていた効果は得られないといった失敗事例が数多く報告されました。その原因の第一はITソリューションに頼りすぎた経営改革にあったと考えられています。
その後、ITバブルがはじけITブームが過ぎ去ると、以前のような、ITに頼りきった経営改革は影を潜め、ITはツールであり手段にすぎないという基本認識に立ち返りました。今では、IT化は経営改革の部分となり、重要ではあっても中心に据える企業は少なくなっています。このような認識の変化は、今回のPGL1.0にも大きく影響を及ぼしたようです。PGL1.0では、経営改革企画はプロセスフローの基盤に経営戦略実行(プロセス改革)というかたちでより上位の概念に位置づけられました。そして、ITCプロセスの指導原理を「経営戦略との整合性」として、IT戦略はプロセス改革の下位概念であるとのスタンスが明確にされました。PGLβでは経営改革に対する“迷い”のようなものが感じられましたが、今回この迷いが解消されたように思われます。

今、多くの企業は長い不況による業績不振により、経営改革の必要性に迫られています。企業の目的は収益をあげることであり、収益をあげるために戦略が必要となっています。そして経営改革は多くの戦略の柱となっています。企業はこの経営改革を実現するためにプロジェクトを立ち上げ実行することになります。
このプロジェクトは、製品開発プロジェクトのような成果物を目的としたプロダクト・プロジェクトとは異なり、収益を目的としたビジネス・プロジェクトとです。現在、実施されているITプロジェクトのほとんどはプロダクト・プロジェクトであり必ずしも収益には繋がりません。
今、企業が求めているのは、収益を目的としてビジネス・プロジェクトです。
戦略を実現するためには、経営改革を実現するビジネス・プロジェクトを成功させる必要があります。経営戦略目標を達成するための戦略的IT化投資のためには、ITプロジェクトがビジネス・プロジェクトでなくてはなりません。このような要求から、アドバンスト・プロジェクト・マネジメントや、プログラム&プロジェクト・マネジメント、あるいはPBSCといった経営戦略と下位プロジェクトを紐づける先進のプロジェクト・マネジメント手法が開発されています。経営戦略を実現しビジネスを成功させる鍵は、ITプロジェクトをビジネス・プロジェクトと位置づけることです。これが今回のPGL1.0に込められた重要な方針です。

このような変更を受けて、ITCの実務はどのように変化するのでしょうか。ITプロジェクトが、ビジネス・プロジェクトと位置づけられることで、この担い手は、ますます重要になってきます。ビジネス・プロジェクトの成功のためにITは必須要件となっているにも関わらず、IT化には高度な導入技術とマネジメントが必要になることから、ITがビジネス・プロジェクトのボトルネックになる可能性が高まっています。IT導入の成否によって、ビジネス・プロジェクトの成否が決まるケースが増えてくると予想されます。
PGLによれば、ITCは経営者と経営環境変化についての認識を共有するとともに、革新的な経営戦略の策定支援、経営戦略目標を達成するための戦略的IT化投資支援を通して、経営改革を支援していく使命を担っているとされています。このような使命を担っているITCは、ビジネス・プロジェクトにおいてもこれを支援する重要な人材となるのは間違いありません。今後、ITCはビジネス・プロジェクト遂行の中心的役割をはたす人材として有望視され、より積極的にビジネス・プロジェクトに関わることが求められるでしょう。

<参考文献>
ITCプロセス Ver1.0 ITコーディネータ協会 2005/06
アドバンスト・プロジェクト・マネジメント 能澤 徹2003/07
プロジェクト・バランス・スコアカード 小原 重信他 2004/04


■執筆者プロフィール

角倉 悟郎 (すみのくら ごろう) ITコーディネータ

外資系大手コンサルティング会社、IT人材派遣会社、外資系ERPベンダーを経験。
現在物流会社にて経営企画室、事業統合本部を歴任。BSCの導入、BPR/ERPの導入、管理会計システム、M&A企業との拠点・IT統合にプロジェクトに従事。