サービス業のノウハウの継承にITの活用を/成岡 秀夫

 ・今年度の中小企業白書でも、事業継承やモノ作り企業への支援などが打ち出
されている。確かに、特に製造業系の企業において、経営者が高年齢化し、事
業継承がままならない事例が多く見聞されている。また、高度なモノ作りの技
術が継承されたり、しっかりノウハウが伝授されたり、海外に安易に流出しな
いように、きめ細かな対策が打ち出されている。

・製造系の企業では、確かにモノ作りの技術ノウハウの継承は難しいとは思う
が、最終的に形になるものに製品が仕上がるので、微細な微妙なノウハウはあ
るにせよ、定量化することが決定的に困難ではない。筆者が工場開発室の現場
で化学繊維の生産開発の仕事に携わっていたときは、「品質標準書」「技術標
準書」「設備標準書」「作業標準書」などが基本のドキュメントがあった。

・さらに、これらの標準書ではカバーしきれない現場でのノウハウは、「運転
マニュアル」「操作マニュアル」などの現場的なマニュアル類に落とし込ん
で、常に現場に常備され、常に改訂が繰り返された。当時は、パソコンなどな
かったから(ワープロもまだほとんどなかった)、マニュアルや文章の改訂作
業は大変だった。

・それに比べて、サービス業の事業継承は難しい。何をサービス業と定義する
かも定かではないところはある。 人間関係がベースに事業が成り立っている
ビジネスは、その継承には多くの困難が伴う。特に、経営者が年齢が高いと、
ITとその周辺技術に疎いので、非常に進めにくい。また、誰にそれを継承する
かによって、継承する内容が変わってくる。

・経営者は、何かの動機で独立して起業したのち、順調に業績を伸ばしてきた。
設立して30年以上も経過して、業績は一見順調に見える。ところが、実際は経
営者そのものに、人脈や情報を含むほとんどの経営資源が集中している。
 グループウエアを導入していても、形式的な情報共有は出来ても、そこに至
る細かなプロセスは、なかなか共有できない。

・特に、人間関係や人脈などという、表現がし辛く、あってないような定性的
な経営資源を継承するのは難しい。SWOT分析をやると、強みの欄に、よく、
「経営者の豊富な人脈」というのが出てくるが、確かに強みではあるが、逆に
みれば、弱みともなる。一代限りの経営資源になりかねない。

・それを回避する方策として「ITの活用」がある。簡単なグループウエアに始
まり、複雑なERPなどのアプリケーションまで、巷に多くのソフトが溢れている。
しかし、筆者の周辺を見渡しても、サービス業においてITが活用されていると
は言い難い。フランチャイズ系の多店舗展開をするビジネスならいざしらず、
人的資源を経営のコアに据えている企業では、なかなかITの活用がままならない。

・活用できない理由のひとつには、経営者の意識もあると思う。企業は永遠で
継続することに意味があるわけだから、継続していく仕組みを初めから考えて
おかなければならない。ところが、設立当初は自分の経営リソースに頼りがち
で、他人にノウハウを伝えようという方針に欠けていることが多い。初めから
そんな気が無い経営者の方もいる。

・他の理由としては、定量化するプロセスが見えないことがある。あまりに難
しく考え過ぎているとも言えるかもしれない。人脈というが、所詮は人のデー
ターベースである。そのデータの精度、メンテナンス、更新頻度、などがきち
んと出来ていれば問題はない。概して、難しいソフトを入れて汎用性が無く、
自分しか分からないようになって、結局途中で挫折することが多い。

・更に最終の成果物だけをデータでストックしている場合もある。そこに至る
プロセスの中に相当なノウハウが含まれているのだが、ほとんどそれが分から
ない。その成果物に至った過程が重要なのだが、どうもそこはないがしろにさ
れることが多い。こまめに記録を残す、履歴や経過を残す、時系列的に並べて
おくなどが大事なことだ。

・そして多くの人間がいつでも、どこでも、簡単にデータを引き出せるように
(もちろんセキュリティの問題はあるが)アクセスを容易にしておかないとい
けない。必要なときに、必要なことが、タイムリーにアウトプットされないシ
ステムは、所詮、最終的にはほこりをかぶったお荷物にしかならない。それで
は、投資の意味が無い。

・サービス業のノウハウは、非常に属人的なことが多い。それを、いかに自社
の実態に即してデータとしてストックし、活用できる状態にしておくかが重要
だ。その利用の方法には、ITの活用が欠かせない。しかも、そんなに難しく考
えずに、できることから始めることが大事だ。それには、経営トップの思い
と、意思を強く持つことが大事だ。

・このシステムを使って何をしたいのか。自社の強みを共有し、弱みをカバー
するために、どう利用すればいいのか。こつこつ、地道に実践することが、遠
回りに見えて、実は一番近道なのだ。歩みを止めると、あっという間に差が開
くが、ゆっくりでも間違いない方向に歩んでいれば、スピードは遅くとも、結
果はついてくる。逆の方向に歩くのと、歩みを止めるのが、最も避けるべきこ
となのだ。



■執筆者プロフィール

株式会社成岡マネジメントオフィス
代表取締役 成岡 秀夫

中小企業診断士/ITコーディネータ/高度情報処理技術者
永年の中小企業の経営者としての経験をもとに、地元中小企業の経営改革をサ
ポート。生まれる前からの阪神ファン。
naruoka@nmo.ne.jp  http://www.nmo.ne.jp


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