IT人材育成の環境変化への対応/下村 敏和

 企業における人材育成は人財育成ともいわれるように非常に重要な永遠のテーマであります。その中でも、昨今の技術革新のスピードの速さにIT技術者がなかなか追いついていけないという実状も大きな課題となっています。経営戦略に立脚したIT戦略を実践するために、それを支える人材育成は企業にとっての生命線とも言われる存在であり、今回はこのテーマについて考えたいと思います。

■IT人材育成における環境の変化
 インターネットやWEB技術の発展に伴い、昨今、IT環境は劇的に変化しています。企業におけるIT部門のSEは自社システムのメンテナンスに追われ、新しい取り組みになかなか取り組めないことや技術変化の速さで過去に積み上げられたノウハウを継承できない事態に追い込まれているのが現状です。
具体的なIT環境変化としては、次のものなどが挙げられます。
1)インターネット/WEB/GUI技術高度化時代の到来
2)大容量データ(音声、動画、写真、CAD、イメージ)の取扱い
3)ユビキタス社会としてモバイル端末、メールでのネットビジネス展開
4)OS、データベース、言語の劇的変化によるサポート期限への対応
5)ERP他の業務パッケージとバージョンアップ対応
6)クラウドサービス時代の到来
7)アプリケーション資産の巨大化
8)個人情報、セキュリティへの対応
9)BC/DR(事業継続・災害対策)への対応

■求められる企業内IT人材像
(1)企業内IT技術者に要求される能力
a)業種・業務スキル
 自社の業界知識や生産、会計、物流、販売、購買、経営ほかの業務知識
b)テクニカルスキル
・ハードウェア知識 コンピュータ(サーバ/PC/モバイル)、ネットワーク通信機器(LAN/ルータ/Firewall)
・ソフトウェア知識 OS(Windows/Linux等)、データベース(Oracle/SQLサーバ等)、言語(JAVA/VB.NET等)、各種ミドルウェア、業務パッケージ、システム構築プロセス、情報セキュリティ技術、SaaS、PaaS、IaaSなどを含むクラウドサービス、等
c)マネジメント&ポリティカルスキル
・問題解決能力、プロジェクト管理能力、リスクマネジメント能力
・ニーズの発掘及び対応策の企画力、実行力、組織化力、人脈構成力、抵抗対応力、洞察力、全体俯瞰力
スキル(skill) とは、教育や訓練を通して獲得した能力のことです。

(2)求められる業務遂行能力
 大学などの教育ではテクニカルスキルを中心に知識ベースの教育と最近ではPBL(Project-Based Learning)「課題解決型学習」形式でケーススタディなど実践・実習的教育手法が取り入れられています。これは企業におけるOJT(On the Job Training)などに相当します。座学(講義形式教育)と一線を画するものです。企業では知識だけでなく現場経験を通じての知恵が必要となります。求められる業務遂行力は、知恵として上記の知識に洞察力や企画力といったアクティブな要素に加えて、マネジメント&ポリティカルスキルにあるような総合的な能力つまり人間力が求められます。

■内外作基準の明確化による企業内に残すべきIT人材
 上記のような能力を全て兼ね備えているスーパーマンはなかなかいません。結局は、組織(チーム)として総合的な能力を確保することになります。この組織は、企業規模や業態に応じて変化します。大企業では、IT部門を分社化し、さらには人件費やITコストの削減を目的としてITベンダーに株式を譲渡しているケースもあります。最近ではこの譲渡理由が、分社化したIT子会社の技術力強化や大規模開発に対応するという目的に変化してきています。
 一方、中小企業ではIT人材の採用すらままならない状況ですが、数少ないIT要員にどのような知識を持たせるか、つまり内外作基準(内作すべきものと、外部から調達すべきものの判断基準)の明確化が必要です。
1)企画機能をのみを自社に置いてシステム開発、運用をベンダーに任せる。
2)業務パッケージを導入し、他社との差別化のため追加開発、運用を自ら行うなどいろいろなケースがありますが、何年間もメンテナンス中心でシステム運用してきた企業などは自社の業務を完全に押さえている人がいないケースも散見されます。このような場合、要件定義の作成から全面的にベンダーに任せてしまい、結果としてコスト高のシステムになってしまうケースも出ています。ベンダーの言いなりにならないためにも自社の業務把握と他社との差別化要素を明確化することが重要です。そしてIT人材の計画的な現場ローテーションを行い、自社業務を身をもって体験させることも重要です。
 テクニカルスキルについては、全てに追随することには限界があるため、不足している技術の調達を、適宜ITコーディネータやベンダーの力を借りて行えば良いと思います。また、ベンダーからRFI(Request For Information)と称して情報提供を受けたり、最近ではネットを使った情報収集力が重要となっています。


■執筆者プロフィール

 ヒーリング テクノロジー ラボ  代表 下村 敏和
 ITコーディネータ京都 理事  ITコーディネータ