最近、いくつかの研究会で中小企業経営者とお話をしている事をベースに、時代変化に伴う経営者としての意識改革のポイントと製造業、サービス業、いずれにも関わりが深くなっている「モノからコト」への対応について概況を述べたい。
1.大局観の醸成
広辞苑では、大局観は「物事の全体的な状況や成り行きに対する見方、判断」であり、喩えて言えば、「森の中で次への道を探している時、やや高台に上り、俯瞰的に現状を掴むことであり、事業を推進する点においては、4、5年先のビジネスが明確に描ける事ではないのだろうか。
何故、今、大局観が必要なのか?
・生産年齢人口減少に伴う避けられない経済の縮退(藻谷氏のデフレの時代)
・急激な技術進歩とそれに伴う社会変化(ソーシャルメディア拡大)
・溢れかえる情報、何が重要なのかの不確定性拡大(ビッグデータ化)
・いまだ垣間見える80年代の成功体験の残影(イノベーションのジレンマ)
混迷と時代錯誤の中、我々の周辺は大きく変わりつつあるが、経営者として些事に囚われていないだろうか。
私自身も80年代後半から20数年の間、10件ほどの事業化の経験をして来たが、大雑把な計画でも結構結果の出た80年代の甘い体感がまだまだ、あるようだ。
中小企業経営者の悩みも深いようであるが、以下の点を考えてもらいたいものである。
(1)まずは、時代変化の絶対認識
生産年齢人口の急激な減少、社会のつながりの広まり等、絶対的変化要因による社会変化の認識と自身のビジネスとしての軸決め。
(2)基礎情報の収集とその選別
まずは基礎となるべき情報の収集について日常化して欲しい。
■基礎的レベルでは
「総務省統計局」の様々な統計データや生活情報センターの『民間統計徹底活用ガイド』等である。民間リサーチ会社の情報も、結構有効。
■先見的な知恵者からの気付き
コトラーのWeb3.0は色々と示唆の多い内容がある。頑張っている企業の事例も直接お話を聞くと中々に面白い。
■口コミ情報含めマクロデータを読む
Web上でのデータは加速度的に増加している。GoogleInsight、口コミサイト情報など。
そして、「情報は相思相愛」であることの認識である。
何かビジネスでのテーマに集中すると、不思議とそれに関する情報が自分に集まってくる経験をしたことはないだろうか、私の場合でも結構多い。
人からの思いつき、勘、エイや!の度胸で、ビジネスは出来ない。
(3)顕著に現れている現象、活動への感度アップ
例えば、最近の顧客の認識価値の変化は、
■商品からサービスへ
商品と付随するサービスを統合的に提供することが重要となっている。
■モノからコトヘ
新しいイベント、体験、感動などや自分にとって持つ意味を重要視する。
■関係性重視
商品、サービスを単体としてのものではなく、それを提供する企業との関係性において評価するようになった。
人口構成の変化、社会トレンド、経済的な環境、政治・規制面での変化、競争状況、新しい技術、など主要なポイントを自身のベースを基軸に選別し、より精度の高い大局観を醸成してもらいたい。
2.「コトへの変化」に対し、サービス力強化の視点
まずは、サービスの特性を少し考えてみると、同時性(サービスは生産と消費が同時に生じるという特性)、不可分性(生産と消費が分離できない一体性を持っている)、不均質性(サービスの品質を一定に保つことが難しい)、非有形性(形を持たない)、消滅性(非有形性という特性から、在庫ができない)の5つがあると言われる。
そして、顧客は、モノ⇒サービス⇒体験へ 意識変化している。
このような顧客を相手に、商品の機能や品質等の基本価値を上げ、他社との差別化を図るだけでは、結局は価格競争となる。
しかし、今でも日本の製造業の多くは、機能と品質の泥沼の消耗戦を続けている。「モノのストックよりも体験、知識、思い出、人との関係性といったソフトのストックに関心が移っている」事の認識が必要である。
「製品→サービス→体験と付加価値の中核を高度化させていくことで、モノから関心が離れた消費者に購買行動を促す必要がある。
「モノからコトへ」というキーワードをキチンと考えるべき時期でもある。
(1)モノとコトの違いは何か。
広辞苑の抜粋では、
物:形のある物体をはじめとして、広く人間が感知しうる対象
事:意識・思考の対象のうち、具象的・空間的でなく、抽象的に考えられるもの
先行的な製造業でも、「モノ」を単に作り、売るのではなく、モノを使う楽しみ、つまり感動体験という「コト」を提供するマーケティングを進めてきている。
これからは、これを更に強化する必要がある。
私の知っている中小企業でも、結構、頑張っている企業もある。
地域資源活用支援事業の多くはモノの開発認定企業であるが、その中でも、「コト」をベースに事業展開をしている企業がある。
・A社では、京町家という環境と本物の工房に隣接している特徴を活かし、従来にない「京都古来の雰囲気の中で」職人とも交流が図れるという付加価値を有した新サービスを行っている。
・B社では、『京町家』を改修し、「暮らすように」滞在できるサービスを提供する。滞在時にはお客様のご要望により、京都の伝統文化をゆったりとほんものを体感して頂けるプログラムを併せて提供している。
(2)サービスの生産性、品質向上
成熟化社会、そして生産人口の減少などの大きな流れの中で、サービス業でも、高度化・効率化する事により、消費者が満足する高品位な社会を実現して行けるか?が大きな課題となって来ている。
しかし、顧客対応としての「コト」化の推進は、重要であるが、そのためには、企業としての体質改善、改革も重要な活動である。
(a)サービスにおける生産効率化へのアプローチ
「勘と経験」は必要ではあるが、定量的なアプローチも考えるべきである。
特にサービス業に関わる多くの中小企業では、認識の低さも在り、労働生産性の低さは顕著である。因みに、平均的な製造業の労働生産性に比して、サービス業でのそれは、ほぼ半分との事。
基本は、「観測、分析、設計、適用」を現場状況を反映しながら、PDCA化していくべきではあるが、まずは、サービスに関する機能について、特に、以下の4点を中心にまとめる必要がある。
(イ)プロデュース機能
プロデュース機能は、個々のサービスの機能をアレンジして、「人」「モノ」「情報」「環境」を最適化し、顧客のニーズを充足するサービスをつくる役割をもつ。
(ロ)サービス評価メカニズム
サービス提供者による顧客の観察メカニズムを整備するとともに、利用者がサービス内容を適正に評価するための評価項目の整備が必要になる。
第三者による評価をサービスの選択や自らの評価に反映させるための環境の構築も重要。
(ハ)生産管理機能
製造業や小売業の生産管理機能を、サービス特有の性質を考慮しながら
サービスの生産管理に適用していく手法を考える。
(ニ)関係者の合意形成機能
サービスは、複数の利害関係者の調整による協働の結果実現されるものである。サービスの選択や提供プロセスの決定のために、関係者間の合意形成が必要になる。
そして、これらをベースに業務プロセスの見直しを考える。
但し、製造業でのプロセス見直しとは以下の点で注意する必要がある。
(イ)提供価値の明確化
顧客に対して、どのような価値を提供するのか?そして、それは、自社の経営理念に沿ったものか?
(ロ)サービスの設計見直し
顧客に対して直接的に提供される内容を具体的な業務の流れに沿ってムダやムリがないか?
(ハ)業務の見える化
各業務項目とそのフローを把握する。ただ、サービス業務の同時性、非有形性を考えておくことが肝要である。
(ニ)業務の評価
自社競争力の基本業務であるか、顧客にとっての付加価値業務か、あまり付加価値を生まない業務か?を評価選別する。
この4ステップをベースに、担当者と討議し、業務プロセスの見直しを行う。
業務見直しの決定には、サービスの実施者である担当者との密な確認が、人をベースとしたサービス業務での必須活動でもある。
(b)人のマネジメント
サービス強化の環境では、人材のマネジメントが、直接、サービスの品質につながる。特に、初めに上げた同時性、不可分性、不均質性、非有形性は、従来の製造業での人材の活用とは、大きく異なる。
また、幾つかの調査でも、サービス業で働く人々の動機では、「給与ではなく、組織貢献、顧客に対して役立っていると実感できるから」という精神的な満足感というものが動機になっているとの事。
自立、自発的な動機付けが重要なのである。
例えば、「顧客からの満足、感謝の言葉、同僚からの励まし、上司などからの褒めの言葉」等の精神的な報酬が必要である。
生産性、勤務態度、などの外部要因での評価も必要であるが、自身の「存在感、組織への貢献感、他のメンバーとの共感」を持たせるためのマネジメントが必要となる。
時代変化は、経営者の意識改革と企業内部の改革の両面に及ぶ、地道な活動の継続で、是非、推進してもらいたい。
■執筆者プロフィール
現在、中小企業のコンサル、行政関係の支援、地域活性化支援をしています。
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