クラウドソーシングによる研究開発/馬塲 孝夫

●最近の報道を見ていると、かつて飛ぶ鳥を落とす勢いであった日本のエレクト
ロニクスメーカの目を覆うばかりの不振を報じた記事が目につきます。今年3月
期決算で、パナソニック、ソニー、シャープ、NEC等の名だたる優良企業は大幅
な赤字を計上、その一方で、韓国メーカのサムスンや、米国のアップル、台湾の
ホンハイ等の躍進ぶりが対照的です。

●この不振には、各種の原因がありますが、その一つとして、短期化した製品ラ
イフサイクルの開発競争に、日本企業は、戦略的で迅速な意思決定、経営リソー
スの有効活用などの面で、海外企業に後れをとったことが指摘されています。

●すなわち経営戦略面で、何でも秘密裏に自社開発する、いわゆるクローズド戦
略や、製品の川上から川下までの部品を自社系列で支配する垂直統合型モデルな
どにとらわれ過ぎていたのではないか、との批判です。

●一方、欧米ではこのような自前主義からいち早く脱却し、積極的なアウトソー
シング戦略が採用されています。欧米での最近の動向を見ていると、この戦略は
研究開発にまで拡張されており、今後の日本企業の研究開発を考えるうえで非常
に参考になるので、その事例を紹介します。

●それは、いわゆる“クラウドソーシング”を活用した研究開発です。“クラウ
ドソーシング”とは、ウィキペディアによると“不特定多数の人に業務を委託す
るという新しい雇用形態。ウェブサービスのトレンドの一つでもある。群衆
(crowd)と業務委託(sourcing)を組み合わせた造語で、アメリカなどでは、
クラウドソーシングのサービスやビジネスが数多く立ち上がっている。とありま
す。インターネットで、広く業者を募集し、仕事を委託する形式で、最近では、
様々な業種で見られるようになりました。

●注目すべきは、それを研究開発という、極めて秘密性の高い業務にまで応用し
ようとする動きです。クラウドソーシングを活用した代表的な研究開発支援シス
テムに、米国ナインシグマ社(2000年創業)や米国イノセンティブ社(2001年創
業)が提供しているサービスがあります。いずれも米国生まれのサービスですが、
ナインシグマは2006年に日本法人が設立され、日本語でのサービスが開始されま
した。

●ナインシグマ社、イノセンティブの両者に共通する特徴は、企業(特に大企業)
が、課題を提示し、問題解決技術を広く公募することです。公募はインターネッ
ト上で行われ、大学の研究者のみならず、一般発明家、企業の研究者等、その提
示課題に対して技術提案をすることができます。クラウドソーシングの力は、技
術提案をする研究者の層の厚さにあります。例えばナインシグマ社は、全世界の
200万人以上の科学技術者をネットワーク化していることです。つまり、企業の
課題解決に必要な研究開発者リソースを外部に圧倒的な量で持っている事になり
ます。科学技術者とは、例えば全世界の各大学の教授や博士研究者等であり、自
社の人的リソースの比ではありません。ナインシグマ社は、このようなネットワ
ーク環境の中で技術募集企業と技術提案者との技術仲介を行い、後は当事者間で
のプロジェクで研究開発を実施してもらいます。

●イノセンティブ社もほぼ同様ですが、こちらは、もう少し身近な技術課題の解
決にも範囲を広げ、課題解決に対してそれぞれ報奨金を設定しているのが特徴で
す。例えば、○○の新しい加工技術の提案募集案件に、採用されれば100万円支
払う等。資料によると、提案者総数は200か国、20万人(約半数は、中国、イン
ド、ロシアから)。報酬総額は 2億4千万ドルとか。こちらは、まだ日本語サイ
トが無いようです。

●研究開発をこのようなクラウドソーシングで行うと、圧倒的に多くの人的リソ
ースにアクセスでき、かつ研究開発を迅速にかつ安価に実行できます。そのため、
他者に先んじて新製品を出すことが可能となります。科学技術が高度に発展して
きた現代、事業課題に対する解決策は、ある意味、どんな企業でも時間をかけれ
ば到達できる時代と言えます。だとすれば、いち早くその技術課題を世界の英知
を結集して解決し、新製品を世に出し、先行者利益を獲得する事が重要な経営戦
略になります。

●海外では、このようなサービスが10年以上前から提供され、特に大企業を中心
に活用されてきました。しかし日本では、企業が自前主義にこだわりがちである
ため、積極的に利用されなかったのではないかと思います。しかし、世界の潮流
を考えれば、いつまでも自前主義にこだわっているわけにはいきません。研究開
発における外部リソースの活用は喫緊の課題だと思います。

●さらに、クラウドソーシングの活用は大企業のみならず、中堅・中小企業にと
っても大企業以上に恩恵を受けるサービスです。元々、規模の小さい企業では研
究開発人員を抱え込むことができません。クラウドを使うことで、広く外部リソ
ースに手軽にアクセスし、これまで考えられなかった技術開発や企業連携が実現
可能になります。そういった意味で、クラウドソーシング型の研究開発サービス
は今後大いに期待できるサービスです。

●残念ながら、現在、日本にはまだ手軽に利用できる研究開発用クラウドソーシ
ングサービスがありません。早急にこのようなサービスが日本でも運用され、広
く活用されることを期待します。

(参考)
ナインシグマジャパン社 URL  http://www.ninesigma.co.jp/
イノセンティブ社 URL  http://www.innocentive.com/ (英語)

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■執筆者プロフィール

馬塲孝夫(ばんばたかお) (MBA)

ティーベイション株式会社 代表取締役社長
株式会社遠藤照明 監査役
大阪大学 産学連携本部 特任教授
URL: http://www.t-vation.com

◆技術経営(MOT)、FAシステム、製造実行システム(MES)、生産産情報システムが専門です。◆

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