”内なるグローバル化(人事制度改革)”による日本企業の活性化について / 坂口 幸雄

1. 本格的なグローバル時代と日本経済の現状
リーマンショック以降、日本企業を取巻くビジネスの環境は日々厳しくなり、様々な問題が発生してきている。

1) 政治面では、近隣諸国と友好関係が損なわれてきている。
韓国(竹島)や中国(尖閣諸島)で領土問題が発生している。民間のビジネス交渉であれば当事者間で“本音”で話し合えば解決できるが、政府間交渉は“建前や面子”があり、この交渉は当面解決しそうにない。

2) 経済面では、日本企業の競争力が弱体化している。
関西の大手電機メーカーの“リストラ・人員削減”、“中国・台湾等の外国資本との提携”などが深刻な問題となってきている。日本の大手電機メーカーは新たな収益モデルを構築出来ず、中国・台湾メーカーの後塵を拝している。

3) 人材面では、人事制度でグローバル化への対応が遅れている。
多くの日本人が外国資本の企業で働くようになってきている。IT業界においても、 私と同じ団塊の世代の仲間も中国資本の企業で働く人がいつの間にか増加している。そのために日本人が外国人と同じ職場で一緒に働く機会が急増しているが、 グローバル化時代にそぐわない陳腐化した“人事制度や働き方”
を見直しをする必要がある。
ここでは“企業の内なるグローバル化(人事制度改革)”の必要性について私の意見を独断と偏見を交えて述べることにする。

2. 日本と欧米の人事制度の違い
日本と欧米の人事制度にはそれぞれ長所と短所がある。

1) “欧米”では、“まず必要となる職務を決める”
経営戦略に基づいて“まず必要となる職務を決めて”、その職務の役割(責任と権限)を明確に定義する。次に、必要な能力を持った人材を採用する“職務給制度”である。欧米のERPを導入する時には、職務の役割(ROLL)を定義することが最初の仕事となる。

2) “日本”では “まず人を決める”
“まず人を決めて”、その人に職務を割当てる“職能資格制度”である。日本の企業 風土の中で異動等の“職務の変更”は容易であるが退職等の“人材の変更”は容易ではない。総人件費が抑制される中で、毎年職務が曖昧なスタッフの人員数が 増加するため、企業にとって本当に必要な“特殊なスキル・技術”や“新しいアイディア”を持った外部の人材を採用する資金的余裕がなくなっている。職務が曖昧な“烏合の衆”よりも、職務が明確な“少数精鋭”の方が競争力がある。

日本の人事制度は景気が長期的に成長している“安定期”に強みとなるが、反対に、不安定な“変動期”には、リストラがむつかしく、弱点に変わる。これが日本企業の長期停滞の原因となっている。

3. 日本と欧米のプロジェクト・マネジャー像の違い

ここでは“プロジェクト・マネジャーの人材像”の視点から考えてみる。欧米でも日本でも、プロジェクト・マネジャーは高いスキル・技術と豊富な経験を持つ“プロフェッショナル”であることを求められるが、日本と欧米ではその人材像が大きく異なる。

1) 欧米のプロジェクト・マネジャーの人材像
プロフェッショナルはどんなものかと英語辞書で調べてみると、“A professional is a person who is paid to undertake a specialized set of tasks and to complete them for a fee.”とある。“契約した仕事”をきっちりこなして“対価として報酬”をもらうのがプロフェッショナルである。彼らは20代の若い時から個人として重い責任を負いながら、背水の陣でプロフェッショナルとしての厳しいキャリアを積んできている。人事の面では“雇用の流動性と実力主義”に基づいた“低コンテキスト”の企業風土が前提となる。米国は多民族国家で異質(heterogeneous)な人々の社会なので、低コンテキストな企業風土にならざるを得ない。

2) 日本のプロジェクト・マネジャーの人材像
一方、日本のプロフェッショナルは年功序列・長期雇用の人事制度の中で、若い時は下積みで40代~50代でやっと花が咲く遅咲きの桜であり、ミッション志向の「使命達成型職業人」を目指すこととなる。日本では高コンテキストの企業文化が前提となっている。日本は均一(homogenous)な人々の社会なので、必然的に高コンテキストの企業風土になる。

4. グローバルスタンダードへの対応方法

日本企業のグローバルスタンダードへの対応方法は2つある。

1) 消極的なグローバルスタンダードへの対応方法
バブル崩壊後、日本人は従来の日本的経営に自信を失ってしまい、欧米のビジネスモデルをそのまま安易にベストプラクティスとして受け入れた。これまでの日本の人事制度など従来のビジネス慣行をそのままにして、表面だけ欧米のビジネスモデルを取り入れた。しかし身を切る“本質的な業務改革”をしてないので、形だけ欧米のビジネスプロセスを導入しても本来の成果が上がってない。1990年代に採用された成果主義も結局失敗に終わっている。

2) 積極的なグローバルスタンダードへの対応方法
現在のビジネスの変動期には、雇用形態の主流は“終身雇用の「何でも屋さん」(ジェネラリスト)」”から“職務毎のプロフェッショナル”へとシフトしている。日本の人事制度の3種の神器(年功序列、終身雇用、企業別組合)は戦後出来た制度で、元々戦前には無かった制度であるが、日本人の潜在意識の中には、自己の所属するグループの繁栄を願い、そのためには自己犠牲もいとわない伝統的に考えが内在する。それを人事制度として具現化したのが、終身雇用であり年功序列制度である。しかし反面グループ外の他人には無関心になり、グローバルな視点ではアンフェアとなる欠点がある。企業別組合も見直しが必要である。職種別の人材の知識やスキルの互換性を増し、人材の市場の流動化に対応できるように改善しなければいけない。定年制は必要ない、60歳で定年になった人でも職務に有能な人材は適切な給料で雇用すればよい。

“職務を明確に定義”したビジネスモデルが出現している。米国“Vizio社”は完全なファブレス企業であり、液晶テレビの企画と設計だけを行っている。
社員数はたった“90人”で、アメリカ市場では液晶テレビメーカーとしては“販売台数シェア2位”とのこと。米国では、パナソニックやソニーはこの社員90名の“Vizio社”の後塵を拝している。

日本の中小企業の“ものつくり”では、チームワークが最重要である。共通の目的に一致団結して取り組んだ時に初めて大きな結果を生むことになる。人事制度は企業の競争力に大きく関係している。日本は人事制度の3種の神器(年功序列、終身雇用、企業別組合)の長所を出来るだけ残して、グローバルなビジネス環境にも適応できる新しい人事制度を再構築する必要がある。

以上

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■執筆者プロフィール

坂口 幸雄
ITベンダ(東南アジア・中国での日系企業の情報システム構築の支援)、
JAIMS日米経営科学研究所(米国ハワイ州)、
外資系企業、海外職業訓練協会等を経て、グローバル人材育成センターのアドバイザー、
http://www.g-jic.com/index.php/gyoumu
資格:ITC、PMP、PMS、CISA、日本経営品質賞セルフアセッサー
趣味:犬の散歩、テレサテンの歌を聴くこと、海外旅行、お寺回り
(四国八十八カ所遍路の旅および西国三十三カ所観音霊場巡り)