自分自身をビジネスモデル化する / 中川 普巳重

創業セミナーなどでいつも使っている定番の「経営戦略フロー」。
事業理念:○○を通じて社会に貢献する、どのように貢献するのか?
事業目標:理念の実現に向けて定性目標や定量目標をたて具体化する
事業領域:外部・内部の環境分析をもとに「誰に何をどのように」を決める
     ここでは、何が特徴なのか?なぜそれが自分にできるのか?
     自分らしくどう生きるのか?を考える
といったように項目の説明をしながら、
・企業も個人も同じくこのフローを元に生きる道を考えることができる
・フローを元にしたストーリー性が重要である
・ぶれない自分を手に入れることが成功のキーである
・ぶれない自分(事業理念)を元に環境の変化にどう適応し続けるかである話と話している。
 また、「求められていること」と「できること」と「やりたいこと」のバランスが大事であるとも話している。顧客から求められてはいるものの経営資源が不足していて対応できない、会社から求められていてやれてはいるけれども本当に自分のやりたいことではない、やりたいと思っているしできるんだけれども今の自分を取り巻く環境では誰もそれを求めていない等、バランスが悪い場合は長く続けることは難しく環境の変化にも耐えられない。
 ところで、今年度のセミナーでは、いくつかのツールを活用している。その一つが「ビジネスモデル・キャンバス」(注1)である。実務の現場でビジネスに関する議論をする際に、ビジネスモデル・キャンバスを用いて図示することで、直観的に全体像を把握することができ、かつ、共通言語として機能し、ビジネスとしての議論を有効にする。また、同じフォーマットを用いることで、複数のモデルの比較検討や時系列の比較検討が可能になる。「経営戦略フロー」では話が抽象的で聞き手によって受け取り方にバラツキがあるが、共通のフォーマットでしかも可視化することで考えていることが共有でき、ディスカッションも有効である。
 「ビジネスモデル・キャンバス」の9つの構築ブロックは、顧客セグメント、価値提案、チャネル、顧客との関係、収益の流れ、リソース、主要活動、パートナー、コスト構造である。特に、「価値がどのようにつくられるか」と「顧客に届くこと」がポイントであり、これらが論理的につながっているかが重要である。
また、モデルを検討する際には、一つのブロックの内容を変えてみてモデル全体がどう変わるのかを検討したり、一人ではなく複数人数でディスカッションすることが有効である。
 そして、前置きが長くなったが、今回のテーマである「自分自身をビジネスモデル化する」に向けて、この「ビジネスモデル・キャンバス」の考え方を個人のキャリア構築の設計へと拡張した「パーソナル・キャンバス」(注2)を紹介する。
 「パーソナル・キャンバス」の9つの構築ブロックを「ビジネスモデル・キャンバス」と同じ順番では記載すると、誰の役に立ちたい?、誰のためになりたい?、どう役に立ちたい?、どうためになりたい?、どう知らせる?、どう届ける?、どう顧客と関わり/接する?、何を手に入れる?、あなたはどんな人?、どんな財産(リソース)がある?、あなたならではの大事な仕事や取り組みは何?、鍵となる協力者たちは誰?、何を費やす?となる。
 事業理念においても、○○を通じて社会に貢献する、どのように貢献するのか?を考え、誰かの何かに役に立っているから企業として存在するように、個人も誰のどんなことに役に立ちたいのか?を考えながら自分らしく生きたいものである。
 子供の頃から今現在の自分を振り返って、テンションが高まった出来事について、あまり思い出したくない出来事について、いつも同じような活動を繰り返している、何かパターンの様なものがあると感じることがないだろうか? そこに個人の「関心」ごと、その人の「能力やスキル」、そして「価値」を感じることが浮き彫りになってきた時、「パーソナル・キャンバス」にそれを落とし込んでみる。そして、現状との違いを確認し、満足できてないブロックを改善するためには他のブロックをどう変化させバランスを取っていけばいいのか?を検討する。
きっと「求められていること」と「できること」と「やりたいこと」のバランスが取れた自分が見つかるのではないだろうか。キャリアプランニングの際に、ライフライン法等の色々な方法を使うが、一つのアセスメント手法であり、やはり、共通のフォーマットに可視化することは、経営の現場だけではなく、個人に向けても共通言語として機能しとても有効なツールであると感じる。
 自分は別に事業をやろうとは思っていないし、自分自身のビジネスモデル化なんて?と思われるかもしれないが、この機会に、「ビジネスモデル・キャンバス」で勤務先企業を、「パーソナル・キャンバス」で個人を書いてみてはいかがでしょうか。いままで気がつかなかった何かが手に入るかもしれません。

(注1)出典:「ビジネスモデル・ジェネレーション」~ビジネスモデル設計書
 著:アレックス・オスターワルダー&イヴ・ピニュール
 共著:45カ国の470人の実践者  訳:小山龍介
(注2)出典:「ビジネスモデルYOU」
    著:ティム・クラーク
    共著:アレックス・オスターワルダー&イヴ・ピニュール
    訳:神田昌典

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■執筆者プロフィール

中川 普巳重(なかがわ ふみえ)
(財)京都高度技術研究所 経営・新事業創出支援本部 コーディネータ
中小企業診断士、ITコーディネータ、日本経営品質賞セルフアセッサー、
(財)生涯学習開発団体認定コーチ、キャリア・デベロップメント・アドバイザー