コンピュータウィルスによる被害を避けるために / 池内 正晴

1.コンピュータウィルスとは

 コンピュータウィルスとはインフルエンザなどのウィルスが人から人へ感染するように、コンピュータからコンピュータへ感染する、悪意をもって作られたコンピュータのプログラムである。インフルエンザなどのウィルスは遺伝の過程によって徐々に変異していくのだが、コンピュータウィルスの場合は人為的に作られるものであるため、容易に新種が作られて、それぞれが蔓延していく。

2.コンピュータウィルスによって与えられる被害

 コンピュータウィルスの歴史は古く、パソコンが一般家庭に普及し始めるころから、すでにコンピュータウィルスと呼ばれるものがすでに存在していた。しかし、初期のころのコンピュータウィルスは愉快犯的なものが多く、感染した場合でも画面に花火の画像や様々なメッセージが表示されるといった程度のものが多かった。
 パソコンの普及が進み、多くの人が利用するようになってくるに伴って、コンピュータウィルスのもたらす被害も悪質化が進み、コンピュータに格納されているデータを破壊したり、コンピュータそのものを使用できなくするといったものが増加していった。
 インターネットが普及し、日常生活の一部としてパソコンなどが活用されるようになってくると、そこでやり取りされるデータが大きな価値や意味を持つようになってゆき、そのデータを盗んだり、犯罪行為に利用されたりするなど、被害の甚大化が進んでいる。
 コンピュータウィルスの感染による最近の出来事としては、個人が所有しているパソコンが遠隔操作されて犯行予告や脅迫の発信が行われ、そのパソコンの所有者が偽計業務妨害罪で誤認逮捕される事件や、インターネットバンキングを使用しているときに、パスワード等を入力させる画面を表示させて、そこに入力されたパスワード等を外部から盗むことにより、銀行口座から預金を奪われるという事件なども発生している。

3.コンピュータウィルスの感染方法

 コンピュータウィルスは、悪意を持って作られたコンピュータのプログラムがパソコン等の内部に取り込まれて感染し、それが実行されることにより発症する。
 パソコンがネットワークに接続されず単体で利用されていた頃は、フロッピーディスクなどの媒体を使って外部から入手した怪しげな実行ファイルを取り込むことで感染するということがほとんどであった。
 パソコンが電話回線などを使って、ネットワークとつながるようになってくると、そこからダウンロードした実行ファイルなどから感染するという機会が増えてきた。また、電子メールが普及することによって、メールに添付という形で、利用者同士が容易にファイルをやり取りできるようになることにより、コンピュータウィルス感染の勢いが急激に増していった。さらに、実行ファイルだけでなく、ExcelやWordなどの文書ファイル経由で感染するマクロウィルスと呼ばれるものも出現するなど、感染方法の多様化も進んでいった。
 インターネット環境が普及し、パソコンが常時ネットワークに接続されている環境が普及すると、ネットワークを通じて外部からパソコンに対して攻撃を仕掛け、脆弱な部分があると、そこからコンピュータウィルスを送り込むといった方法も可能になってきた。これまでの方法であれば、利用者が何らかの操作を行ったときに感染するということがほとんどであったのだが、外部からの攻撃によって利用者が気付かない間にコンピュータウィルスに感染させることが可能になったのである。特にWinnyなどのファイル交換ソフトを使用するとその仕組み上、パソコン本体の脆弱な個所を増やしてしまうことが多くあるので、そこを狙ったコンピュータウィルスが増加するということも起こっている。
 コンピュータ利用環境の進化に伴って、それをうまく利用した感染方法をもったコンピュータウィルスが次々と出現しているのである。

4.コンピュータウィルスの感染を防止するためには

 パソコンへのコンピュータウィルスの感染を防止する最高の方法は、ネットワークや外部媒体と完全に遮断し外部とのデータなどのやり取りを無くすことである。しかし、この方法は、そもそもパソコンを使うということの価値がなくなってしまうので現実的ではない。
 そこで考えられるのが、市販のウィルス対策ソフトを利用するということである。ウィルス対策ソフトの開発会社は、さまざまなコンピュータウィルスの仕組みや動作を調査し、感染や発症をしないように防御したり隔離するというソフトウェアを開発している。コンピュータウィルスは次々と新種や亜種がでてくるため、ウィルス対策ソフトは数日に1回以上というペースでアップデートが実施されている。
 ウィルス対策ソフトは、世間に出まわっている多くのウィルスからパソコンを守ることができる。ただし、一度導入すれば安全というものではなく、常に最新の状況にアップデートしておかないと、新しいウィルスには対応できないので注意が必要である。
 しかし、ウィルス対策ソフトが100%完全に対応できるわけではない。ウィルス対策ソフトが新しいコンピュータウィルスに対応できるようにアップデートしたとしても、さらにそれを避けられるように次々と新たなコンピュータウィルスが作られるため、完全に防ぎきれない場合があるのである。
 そのため、さらにウィルス感染のリスクを避けるためには、インターネットからダウンロードした出所がわからないソフトウェアの利用や、見知らぬ相手からの電子メールを開くなどの行為を避けるようにしていく必要がある。
 特に業務で使用しているパソコンについては、コンピュータウィルスに感染した場合の被害が桁違いに甚大になるケースがあるので、細心の注意が必要となる。最近はBYOD(Bring Your Own Device)と言って、個人所有のパソコンやスマートフォンなどの機器を業務で利用することを認める動きがあるが、経費削減や利便性の向上だけに目を奪われることなく、それに伴うリスクも存在するということ
をしっかりと認識して導入を検討する必要がある。

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■執筆者プロフィール

 池内 正晴 (Masaharu Ikeuchi)

 学校法人聖パウロ学園
     光泉中学・高等学校
 ITコーディネータ