中小製造業の中国における情報システム活用のツボ/坂口 幸雄

1.中小製造業を取巻く環境
 現在、「尖閣諸島問題」により日中関係が大変険悪な状況となっている。中国
政府はチベット・ウイグルと同じく“核心的利益”だと主張している。当分は
“政冷経冷”の関係が続く模様である。日本経済にとって中国は“最大の顧客で
あり貿易相手国”である。1月中旬に公明党山口代表が中国訪問し習近平総書記
と会談したが、日本の景気回復のためにトップ交渉による早期の解決が望まれる。

 それでなくても国債発行残高1000兆円・景気停滞・超高齢化・少子化により日
本市場は縮小している。日本の製造業は“6重苦”もの重荷を抱えており、海外
展開しないと国内市場だけでは存続できない状態である。関西大手電機業界の
“業績不振”も景気後退に拍車をかけている。パナソニック等大企業でさえ生き
残りに苦慮しているのに、中小製造業が生き残るためにはそれ以上の努力を要求
される。得意先の海外展開等により中小製造業も海外進出を余儀なくされている。

 中小製造業が海外に進出した時に直面する課題の一つが“情報システムの活用”
である。現地法人の経営には情報システムは今や“不可欠な道具”となっている。
経営者は情報システムを活用して、競争力を高めたいがなかなか上手く使いこな
せてない。ここでは日系中小製造業の中国における“情報システムの活用のツボ”
について考えてみる。

2.中国に進出している日系中小製造業の現状
 2000年までは日本の中小製造業は競争力があり、中国の製造業と比較しても経
営資源(人材・技術・資金)で負けることはなかった。しかし現在は中国企業の
方が逆に優位に立っている。そのため今までの日本式経営の成功体験はもはや通
用しない。経営資源で優位性がなければ中国に進出すべきでない。差別化できる
技術を持たなければ中国側からも歓迎されない。

 中国の日系中小製造業は一般的に下記の様な状況に置かれている。
・業種:自動車・電気関連の部品メーカーが多い。
    中国だけでなく、アジア・米国・欧州等複数の国にも展開している。
・資本:独資(100%出資)の現地法人が多いが、中国でも拡販するため、
    現地資本・人材を活用する戦略的提携を模索している。
・組織:日本人は最低限の人数へ削減中で、総経理(社長)を含めて2名程度で
    ある。(日本人の給与を負担することで現地法人の経営が圧迫する)
    事務と技術部門のラインマネジャーは中国人を採用している。

3.日系中小製造業の情報システムの現状
 私が訪問した某企業の状況は以下の通りであった。これは他の企業にも当ては
まる。
・情報システム部門はIT専門家がいないため、運用・メンテのみを行っている。
・経理部門では問題なく活用しているが、生産部門では上手く使いこなせてない。
・現状のシステムは現地法人設立時にとりあえず導入したものがほとんどである。
 (設立当初なので、業務プロセスの詳細が決まらないまま要件定義している)
・中国では1年もたてば“ビジネス環境”や“ビジネスモデル”は大きく変わる
 が、それに対応したシステム変更がタイムリーにできていない。顧客はシステ
 ムの対応の遅れを一刻も待ってくれない。そのために経営者は現状システムに
 満足してない。現状のビジネスモデルに適合したシステムへの再構築が必要と
 なっている。

4.システム再構築のための要件定義まとめの動き
1)要件定義をまとめるには、“日本人経営者”と“中国人マネジャー”が集ま
 り、業務の“ありのままの姿”と“あるべき姿”について「議論と合意」をす
 る必要がある。この会議ではエンドユーザーである中国人マネジャーからシス
 テム再構築に対する“やる気”をどれだけ引き出せるかが“成功の鍵”となる。
2)“異文化コミュニケーション”が重要である。中国人マネジャーが「明白
 (mingbai)」 と言っても、「日本語として理解しただけ」なのか「業務として
 ちゃんと内容を理解している」のかは大きな違いである。お互いに誤解をしな
 いように理解度の確認が必要である。

 やはり“言葉”は“異文化コミュニケーション”そのものである。日本人は謙
虚になって、中国では“中国語”で会話するための努力をすべきである。

5.私の所感・感想
1)IT人材には“要件定義”、“BPO”、“内部統制”等の幅広い知識が求め
 られる。特に2008年以降は日本版SOX法が適用されたため、日本本社より内部統
 制強化の要請がある。初期段階からCOBIT(Control OBjectives for Informa-
 tion and related Technology)のコンセプトの適用が必要である。今後は“生
 産性”だけでなく“コンプライアンス”も重要となる。
2)大企業では、情報システムの整備・運用に“人材と予算”を確保出来るが、
 中小製造業ではそれがむつかしい。中小製造業でのボトルネックは“人材と予
 算”である事は明明白白である。しかしこの問題は解決がむつかしい。
3)優秀な中国人IT人材を募集してるが、人材確保に苦慮している。応募者にと
 って魅力ある職場にしなければいけない。中国人の意向を反映したグローバル
 人事制度改革が必要である。

6. 最後に 
 過去を振り返ると、高度経済成長期には、日本は世界から“東洋の奇跡”と称
賛された。それを実現した原動力は、日本の「ものづくり」だった。その「もの
づくり」を必死に下支えしたのは“中小製造業”であった。つまり中小製造業が
日本を経済大国に押し上げたのである。

 マレーシアのマハティール元首相は1982年に日本を手本に“ルックイースト政
策”を唱えた。しかし、皮肉にも現在は“日本の過ちから教訓を学ぶべきだ”と
苦言を述べている。失敗の原因は“日本の伝統的なやり方とグローバリゼーショ
ンの調和に失敗した”、更に分析すると “日本は本来の伝統的な価値を捨てて、
安易に欧米に迎合してしまったからだ”と語っている。

 私は今年1月下旬に旅行でニューヨーク市を訪れた。世界都市ランキングでは、
“世界第1位”の都市である。市の人口は800万人であるが、移民の国なので市民
の3分の1が外国生まれだそうだ。犯罪・人種間対立・バラバラの価値観など矛
盾は多いが、そのダイバーシティにはムンムンする異様な活気がある。去年私が
上海を訪れた時にも同じ活気を感じた。ニューヨークも上海も、吸血鬼のように
外国のエネルギーを吸いこみながら、発展している。日本も外国のエネルギーを
吸い込んで、チャッカリ自分を活性化して再生する“ずる賢さ”を学ぶべきであ
る。

 日系中小製造業には“職人根性による愚直さ”など外国が真似できない多くの
伝統的な独特の精神的特徴がある。明治時代の日本人の知恵である“和魂洋才”
で、日本人の伝統的な精神である大和魂を基にして、“欧米のグローバリゼーシ
ョンの果実”や“5000年の歴史を持つ中国のしたたかな生命力”をエネルギー源
として取り込まないといけない。日本の中小製造業が技術力だけでなく、チャレ
ンジ精神で中国人と連携を図り、再び“日本の奇跡”や“中国の奇跡”、更には
“世界の奇跡”を実現できることを期待したい。

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■執筆者プロフィール

坂口 幸雄
ITベンダ(東南アジアや中国で日系企業の情報システム構築の支援)、
JAIMS日米経営科学研究所(米国ハワイ州)、外資系企業、
海外職業訓練協会(キャリアコンサルティング)を経て、
グローバル人材育成センターのアドバイザー
資格:ITC、PMP、PMS、CISA
趣味:犬の散歩、テレサテンの歌を聴くこと、海外旅行、お寺回り
(四国八十八カ所遍路の旅および西国三十三カ所観音霊場巡り)

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