システム開発者の「歴史」 / 西田 則夫

私の勤めているITベンダーで定年退職される方がいらっしゃり、ついこの間退職に際して謝恩会が開催されました。その際に、入社から現在にいたるまで業務経歴を「歴史」として紹介する企画があり、まさにITに関わる人の変遷がみてとれる内容であったので紹介したいと思います。
入社は1972年で、大型汎用機の時代です。当時は、その運用業務を電機メーカで担当されています。1975年には、担当顧客が変わり引き続き運用業務でしたが、COBOLを利用したプログラミングを食品メーカで実施されています。
ここで使用されたCOBOLはバージョンの変遷はあるもののまだ、現役で活躍している言語のひとつです。
1977年になると、オンライン開発業務やOSの設定や、インストールなどを担当するシステムプログラマーを担当されています。このころになると、バッチ処理でジョブの実行だけでなく、オンライン端末にて各種の処理を実行できるようになっています。
1982年以降は、流通系の顧客のシステム開発を受託形式で開発責任者を担当されています。流通業においてもシステム投資が活発に行われきたことがわかります。
1989年以降は、小売業向け「ASP事業」運営会社のシステム開発会社の責任者として赴任されています。小売業のレジがPOS端末として、データ収集機能をもつようになり、そのデータ集中管理をする仕組みが広がることになります。
1993年以降は、現場の支援部隊に移られ、大型化した開発案件のプロジェクト管理支援、トラブル対応なども対応されています。このころは、大型汎用機からダウンサイジングへオープン化が進み、種々の要素技術の組み合わせでシステムを構成するようになり、顧客要求も複雑さを増し、規模の大型化も相まって予期せぬ問題を発生して、種々のトラブルが発生していました。
2000年は、戦略的案件対応で、ある顧客のシステム開発責任者として、社内システムの再構築を担当されています。顧客側も外部の専門家を情報システム部門に取り入れて自社に不足しているものを補完する役割をベンダーに求めるようになってきています。
2001年以降は、電機メーカの生産拠点向けのシステム導入プロジェクト業務支援を担当し、グローバル展開にむけてのシステム構築にかかわっています。
輸出企業は特に海外拠点とのシステム連携、統合にむけての開発が行われていく時期になっています。ITベンダーもオフショア子会社を中国、インドなどに展開して海外進出した企業の開発需要の取り込みを活発化させています。
2003年以降は、社内のプロジェクトマネジマント機能の充実のため、PMO設立の伴い、その責任者を専任されています。以前のコラムにも記載しましたがITベンダーでは、トラブルが頻発し、業績への影響が少なからずでる要因として「プロジェクトマネジメントの不足」があげられていました。従来の、製造業から受け継いだ品質管理手法では、まったく同じものが二つとない、プロジェクト的な業務の改善は難しいといえます。そのような現状で、大手IT各社は、プロジェクトを横断的にみる組織や、既存の品質管理部門などの役割を広げて、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)なるものを設置しました。
こういった組織をつくってはいますが、恥ずかしながら当社でも毎年、大規模プロジェクトにおいてトラブルが発生し、その火消部隊の感もいなめません。
ただその反面、PMOを設置した時は、PM(プロジェクトマネジャ)を支援するものであったわけですが、実態としては、「進捗遅れはないか」「品質に問題はないか」「標準化に準拠して作業をしているか」などPMやプロジェクトチームの作業内容をチェックすることに注力する傾向があります。
現場のPMにとっては「ユーザからの仕様変更」「納期調整」「コスト圧縮対策」等、ステークホルダー対応に常に苦慮しているのが現状です。こういった状況で、PMOによるチェックに対しての報告に労力をさかれることはある意味耐えがたい場合もあるのも事実です。
以上が、入社から定年を迎えた方の、業務経歴をもとにその折々の事象を付記しました。
コンピュータが大型汎用機から、PCの普及でのクライアント./サーバ時代、ERPの導入、インターネットの拡大でのWEB化、分散から集中へクラウド環境を活用とITのトレンドはどんどん変化しています。現場の技術者は常に切磋琢磨しながら知識を習得し、それを経営に有効に活用するべく経営者は知恵をしぼっています。
ITベンダーにおいても、顧客が求めるものはなにかを常に意識しながら、最適、最短、最少価格で提供できる体制、仕組みを構築していく必要であると実感しています。

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■執筆者プロフィール

西田 則夫(Nishida Norio)
情報処理プロジェクトマネジャー、ITコーディネータ

マネジメントの経験を顧客満足の向上に役立てたいと思います。