企業の担当者が押さえておきたい景品表示法の基本 / 松山 考志

 1月のコラムにもありましたが、IDCの調査によると、スマホ、タブレット、電子書籍リーダの販売が前年比20%で成長しているそうです。国内電子商取引市場はここ数年間に年率2ケタの成長を続けており、経済産業省の調査では2010年で約7兆8000億円、シンクタンクによると2012年には10兆円に達するとの見方もあります。その背景には、昨年3000万台強にまで普及してきたスマートフォン=スマホの存在が大きく、私たちの購買行動そのものを変化させています。何しろ、移動しながらスマホで目当ての店を検索して行くことはもちろん、店頭で実物を見ながら、その最安値情報を同時にネットで調べ、自宅でゆっくり買い物をすることができてしまうわけです。米国では、すでにリアル店舗で、このような消費者の購買行動が話題となっており、店頭で品定めをしてからネットで安く購入する行動を「ショールーミング(showrooming)」と呼んでいます。
 米アマゾン・ドット・コムが運営する「プライス・チェック」、イーベイ関連の「レッド・レーザー」などが有名で、消費者は、店頭においてスマホのアプリで商品のバーコードを読み込むと簡単に価格情報を比較することができます。スマホの普及は、景気低迷の長期化によって消費者が出費を抑えようという傾向をさらに後押ししています。

 消費者は、ネットの口コミ情報を通じ、あらかじめ事前に商品の評判、使用した感想などをチェックして、賢く購買することが可能になりました。口コミサイトはその最たるもので、実際に店舗に訪れた感想、商品、サービスを利用した感想が数多く掲載されるようになっています。口コミサイトが、訪れた人の自由意志で書き込みされている時は信用できる情報になりますが、店舗側の意図で店舗や商品の評判をあげるための書き込みを業者や有名人に代行させる事例が現れて、社会の批判の的になったことはまだ記憶に新しいです。このような事態を受け、消費者庁は、昨年5月に「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を一部改定し、口コミサイト問題事例として、「口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること」を問題視するようになりました。
 そもそも商品・サービスの品質や価格についての情報は、消費者が商品・サービスを選択する際の重要な判断材料であり、消費者に正しく伝わる必要があります。ところが、商品・サービスの品質や価格について、実際よりも著しく優良または有利であると見せかける表示が行われれば、消費者の適正な購買意思決定を妨げることになります。景品表示法は、このような消費者に誤認される不当な表示を禁止し、消費者が適正に商品・サービスを選択できることを目的としています。
 消費者庁のホームページでは「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を公開していますので、具体的に理解できます。要点は、商品・サービスの内容について実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示(優良誤認表示)、商品・サービスの内容、その他の取引条件について、実際のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示(有利誤認表示)、その他、競争業者のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示は、不当表示でNGということです。例えば、口コミサイトに、地鶏を使っていないのに地鶏が美味しかったとの書き込みを業者にさせる行為や、クーポン割引の対象商品を「通常価格」で販売したこともないのに、クーポン適用後の「割引価格」を不当に安く表示するとともに「通常価格 5,730円、割引率 72% OFF、割引額 4,130円」と表示するような行為などが記載されています。また、注意が必要なビジネスモデルとして、フリーミアム、口コミサイト、フラッシュマーケティング、アフィリエイト、ドロップシッピングが上げられています。

 最後になりますが、売り手側はとかく消費者の気を引こうとして広告や商品の宣伝をしてしまいがちですが、商売の原点を客観視することが大切です。特にネット経由での商取引が拡大しているために、ネットの情報は消費者の購買意思決定を大きく左右する影響力を持つようになっています。企業担当者が意図せず、消費者とトラブルにならないようなサイト運営を心がけ、自社のホームページ以外の情報にも注意を払うことが必要になっています。

(参考文献)
・消費庁ホームページ
 http://www.caa.go.jp
・公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会ホームページ
 http://www.jaa.or.jp

———————————————————————–
■執筆者プロフィール

 松山 考志
宅地建物取引主任者