日本企業の長寿の秘訣とその精神 / 下村敏和

 過日、“日本企業の長寿の秘訣を探る”と題した公開シンポジウムに参加しました。「近江商人の三方よしという生き方」の基調講演そして100年を超える3長寿企業の代表によるパネルディスカッションが行われました。
 創業100年以上続く企業や店舗が2万7千社(東京商工リサーチの2012年分析データより)を超え、世界で見ると約45%を占めるという世界一の長寿企業大国ニッポンとなっています。海外からも学ぶべきところが多いと最近注目を浴びています。これらの企業の約96%が300人未満の中小企業です。さらに10人未満の小企業ですと約51%になります。それらの企業がどのようにして生き延び、事業継承されてきたのか講演や各種文献から少し整理してみたいと思います。

■近江商人に学ぶ
 近江(滋賀県)に本店を置き、全国各地を商圏として江戸時代から明治時代にかけての約300年間、その地道な活動によって日本の商業を根本から支えました。
 堅実・勤勉・質素倹約・信用第一を基本とする一方、無償で橋をかけたり、学校を建てたりと、利益の社会還元を進んで行うなど、金儲けさえすれば家業の永続は保証されるという考えを排し、常に世の中全体という視点を意識した活動が浮き彫りになってきます。皆さんもよくご存じの「三方よし」の言葉ですが、その理念と商いの手法のポイントは下記のようになります。

1)原典-中村治兵衛宗岸の書置(麻布商)
「たとえ他国へ商いに参り候ても、この商い物、この国の人一切の人々皆々心よく着申され候ようにと、自分の事に思わず、皆人よき様にとおもい、高利望み申さず、とかく天道のめぐみ次第と、只そのゆくさきの人を大切に思うべく候、それにては心安堵にて、身も息災、仏神の事常々信心に致され候て、その国々へ入る時に、右の心さしをおこし申さるべく候事、第一に候」

2) 現代の「三方よし」:売り手よし(従業員満足)、買い手よし(顧客満足)、世間よし(仕事満足)と解釈でき、特に際立つ「世間よし」は諸国産物まわしによる地域の産業振興を図ったり、利益を地域や社会に還元し、現代版CSRを実践されていたことです。
3) 三方よしの商いの手法と理念
  ・売りて悔やむこと商人の極意とし、不道徳な商行為は禁止
  ・流通コストを下げた諸国産物まわし、広域志向の商売
  ・行商で知る各地の情報、消費者ニーズの先取り、マーケティングの実践
  ・出店/枝店による物流拠点づくりと商人定宿との委託販売制度
  ・仏の心で商品と情報を届ける感謝の気持ちを忘れない
  ・紳商をめざして陰徳、修養、たしなみの実践

■長寿の秘訣
 一方で、100年を超える長寿企業から学ぶべきことは多いと思います。パネルディスカッションで話されたそのポイントは、

・適者生存の精神で目先を追わず、長い目で見る(短期的利益を追わない)
・継続していることに価値をみて、大きくすることではない
・本物志向、顧客志向が大切
・中核として変化しないものと時代に合わせた革新のバランスが重要
・ビジョンや理念(三方よし)が大切
・企業理念を維持しながら人材を大切に
・知徳一体、情理円満の社風づくり、人格を高める
-「感謝の心」「思いやりの心」「自立の心」「最高品性」
・後継者育成(血縁を超えた後継者含む)への注力、夢を語りその気にさせる
-事業承継は暗黙知(生活態度、生き方、無欲)
などでした。
 その中で特に京都の老舗として感じるところは、
・消費者の目が肥えている、本物志向
・同業者の仲が良い、教え合う(友人を商売に使わない)
・京都の町が適正規模、匠の精神の育った町
などを強調されていました。

■長寿企業のその精神
 このように長寿の秘訣を聞いて特に印象に残った点は、長期的視点から人の才覚よりも人望や性格といった「人間性」に重きが置かれ、そこで働く人たちの道徳観念をベースにした「精神性」や「社風」が脈々と引き継がれているところでした。
 新渡戸稲造著の『武士道』において道徳は、「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「名誉」「忠義」からなるという。「義」は正義の道理、「勇」は正義を実践する心、「仁」は愛、寛容、やさしい徳、「礼」は他人に対する思いやりを形に表し、「誠」は嘘をつかない正直さ、「名誉」は立派な振る舞い、「忠義」は主君に対する忠誠とざっくり解釈できますが、これらは近江商人の生き方や長寿企業の道徳的精神そのものであるように思います。江戸時代の武士道の代表として知られている『葉隠』は武家社会の厳しい日常生活の中で得た多くの知恵が盛り込
まれています。近江商人の生き方も「人として、ビジネスマンとして」のありようを『家訓』に残されている点で多くの共通点があるように思います。
 またそれらの精神、理念、価値観を反芻して体得するような仕掛けや機会が各種イベントやセレモニーで作り上げられています。そして陰徳善事つまり社会的貢献が重要視され、企業は公器であるという経営哲学が流れています。勤労の精神、職人の尊重、和の精神、修養の精神、三方よしの精神などが、わが国をして長寿企業大国にしているのではないでしょうか。

(参考文献)
・近江商人三方よし経営に学ぶ 末永國紀著
・百年企業、生き残るヒント  久保田章市著
・武士道           新渡戸稲造著、矢内原忠雄訳

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■執筆者プロフィール

 下村 敏和
 ヒーリング テクノロジー ラボ 代表
 ITコーディネータ

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