ちょっとした立体が3Dプリンターで簡単に出力できるようになった。そうまさしく出力という感覚で3Dの立体がつくり出せるようになってきました。いまや15万円程度でその機械が個人的にも手に入るようになってきました。自分自身でいろいろと創りだすことが好きな筆者にとってはまだ手にはしていないですが、非常に心惹かれるものがあり、色々調べる中で気づいたことなどを一度整理してみました。
◆MAKERSーー21世紀の産業革命が始まる
日本でも非常に注目されるようになったきっかけは、昨年10月に米WIRED誌編集長で『フリー<無料>からお金を生み出す新戦略』などのベストセラーの著者であるクリス・アンダーソン氏の「MAKERS──21世紀の産業革命が始まる」が大きな役割を果たしたとよく言われています。「これからの10年でものづくりの世界が革命的な変化を迎える」と彼はその中で語っています。
印刷の世界を振り返ってみると、1980年代にはDTP(デスクトップパブリッシング)が登場し、印刷会社に発注しなくても机の上においてあるプリンターから印刷物を手にすることができるようになってきました。ちょっとした販促チラシなんかも、少ない枚数なら個人で簡単にある程度のレベルのものがつくることができます。このような世界が立体物に対してもまもなく実現することにおそらくなるでしょう。
以前から3Dプリンターは製造業を中心に建築・医療・教育・先端研究などの分野で幅広く使われてきました。建築分野ではコンペやプレゼン用の建築模型として、製造業では試作品やモックアップとしてデザインや機能の検証などに使われてきました。これまでは安くても数百万円ぐらいはしたものですから、大手の企業でしかなかなか導入されてはいませんでした。が、米3Dシステムズ社から5月をメドに国内最安値となる15万円前後の製品が発売されると発表されています。
日経新聞4月17日に3Dプリンターについて簡潔にまとめられていたので以下に引用します。
「3DプリンターはCAD(コンピューターによる設計)データを基に樹脂や粉末などを溶かして積層させ、立体の造形物を作ることができる。製品の開発や試作の際に金型を作る手間やコストがいらないため、製造業などで利用が広がりつつある。中高級機は数百万円から数千万円で、個人事業者向けは30万円~300万円程度。造形の精度によって価格に大きな差がある。
世界では米国企業が強い。3Dシステムズと、イスラエル大手のオブジェットと合併したストラスタシスが「2強」企業とされる。米調査会社、ウォーラーズ・アソシエイツによれば、3Dプリンターの世界市場は2015年に11年実績比2倍以上の37億ドル、19年には同4倍弱の65億ドルに達すると予測している。」
◆ハードとソフトの価格の低下による広がり
なぜ近年話題に上がるようになったのでしょう。
先にも述べたように、まず第一にはハード価格の低下が挙げられます。15万円程度のものが近々日本でも発売され、個人でも手の届くところに来ました。
ハードもソフトがなかったらただの箱、とよくいわれますが、3Dプリンターも活用するにはCADソフトが必要です。これも通常は数十万円ほどしていましたが、最近では無償で利用できるものも現れてきました。ともに個人でも手を出しやくなってきたことが、大きなきっかけとなっています。
◆3Dフィギュアがプリントされる仕組み
ではどうやって立体的なフィギュアのような造形物が3Dプリンターでつくれるのでしょうか。
その仕組は、立体物の3DデータをPCのソフトで薄くスライスします。ちょうどCTスキャンで人体を輪切りにするようなイメージですね。
スライスしたデータはほぼ平面です。これをインクの替りに溶かした樹脂で台の上に印刷します。
1枚印刷できたら、その上に次の1枚を溶かした樹脂で印刷します。溶けているから前の2枚はくっついて2倍の厚さになります。これ繰り返すことによって立体物が出来上がっていきます。
インクジェットプリンターで紙の上にノズルからインクを噴射して文字や写真を印刷するように、材料の細い樹脂ワイヤーを熱で溶かしながらプリンターヘッドから押し出します。ヘッドはPCからの信号に応じて左右に動き1枚の絵を描きます。1枚が完成したら台がわずかに下がり、ヘッドは次の絵を溶けた樹脂で描いていきます。前に書いた樹脂とくっついて、これを次々と何百層にも積み重ねてひとつの立体物を形作っていきます。
素材としては樹脂以外に、金属の粉とレーザーを使う形式もあるそうです。
◆3Dプリンターでなにができるだろうか
筆者は残念ながらまだ行ったことはないのですが、渋谷区道玄坂には「3DスタジオCUBE」という3Dプリンターなどのデジタルツールが見られるショールームができています。
世界に一台しかないBodyScannerを使用した、スキャニングサービスが開始されたとホームページにアップされていました。
またバレンタインデーに参加者の顔をスキャンして、それを基に顔チョコを作るというワークショップも過去に開催されたということです。
http://www.i-guazu.co.jp/cube/
人体を3Dスキャンして採寸したデータで完全オーダーの服を作ったり、年賀状を自宅のプリンターでつくる感覚で立体年賀状を書いたり、個人のオリジナルデザインのプレゼントを友だちに送ったりなど、近い未来に何だか夢が膨らみますね。
◆テクノロジーのシェアの時代
ものづくり企業の元気がかつてほどないと言われてきた昨今でしたが、いろんな技術の芽が現れだし新しい発展の兆しが見えてきています。大企業依存ではなく小さな企業、一個人からでも大きな成功の可能性が大いにあると思われます。
これまでの常識にとらわれることなく、メーカーになることもひとつの道となるかもしれません。
「個人が経済を動かす時代」、シェアの集積が大きな力となっていくでしょう。
テクノロジーが過去の時代よりも近い存在になってきました。デザインされたアイデアをオンラインのコミュニティで公開し、世界の仲間と共創できるような場ができあがりつつあります。レベルはとにかくとしてプロではなくとも個人でものづくりができる時代がうまれつつあります。
自分で「やってみる」「意識的に試してみる」ことからなにかが生まれる楽しみが増えて来ました。
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■執筆者プロフィール
藤井健志
一級建築士、中小企業診断士、ITコーディネータ
(勤務先)(株)日商社 プラニング部