フリー戦略を考える / 中川 普巳重

 最近5歳男児の息子と一緒にハマっているiPadのフリーゲームがある。それは「Candy Crush Saga」(登録商標)というタイトルのゲームで、並んでいる色とりどりのキャンディを入れ替えて並べるパズルだ。内容説明に「アドオンがあります」と書いてあるものの詳細説明も良く読まずにダウンロードしゲームを開始、結構楽しくて、うまくいったり、いかなかったり、レベルも色々あってついつい続けて遊んでしまった。レベルをよりクリアし易くするためのツールの購入や、「あともう少しでクリアできたのに~」と言う時のためのキャンディ移動の回数を追加購入したり、失敗を繰り返すと「ライフ」がなくなり連続してゲームができなくなるため思わず「ライフ」を購入してゲームを続けたりと課金機能があちこちに潜んでいる。もちろん無料でプレイすることは可能なのだが無料の範囲では物足りなくなるのが心理でしょうか。日頃ゲームをしない私がハマってしまった、ということで改めてフリー戦略の妙を考える機会となった。

 フリー戦略にはいくつかのパターンがある。
 1)あるものを2つ買うと1つが無料でついてくるというパターン。2つに1つのフリーならまだしも3つに1つのフリーは悩ましい(のは私だけだろうか)。
何人かでシェアする場合は顧客思いのパターンだが、フリーにつられて1つでいいものを2つ3つ買ってしまい、さらにもう1つついてくる場合においては消費しきれずに冷蔵庫内で眠るケース(食品の場合)もあるのではないだろうか。買い物が下手な私はついつい「お得感を演出され購買意欲を喚起され」、必要以上に買ってしまい結局無駄にしてしまう、保管場所という無駄も発生してしまうというパターンに陥ってしまうのだ。アナログの世界で接客スキルもプラスされさらにこの状況は加速する。
 次に、アナログの世界で古くは2)ジレットの髭剃り。様々な商品のおまけに髭剃りをつけ、実際に使ってもらい、柄は残し消耗品である替え刃を買ってもらうパターン。ジレットモデル系としては、複合機のカウンター料金やトナーなどの消耗品であったり、いま流行りのネスレのバリスタはオフィス向けに無料でマシーンを貸し出している。消耗品であるコーヒーを購入してもらうことも重要だが、オフィスで飲まれるコーヒー市場を確保する狙いもあるだろう。消耗品購入=リピート=顧客の囲い込みにとどまらず、他の方法で調達していたコーヒーをネスレバリスタを体感させることでネスレ顧客にしてしまうのだ。
 更に、インターネットが普及したデジタルの世界で特徴的なのが3)フリーミアムである。冒頭のケースがこれにあたる。フリーミアムという言葉はベンチャー投資家のフレッド・ウィルソン氏による造語で、無料(フリー)のサービスとしてたくさんの顧客を集め、その中の一部の人がサービスを気に入り、有料(プレミアム)サービスを利用するというパターンである。その昔、販売促進の手段として「無料サンプル」というものが主流であった。いまも化粧品や健康食品の業界では「無料サンプル」に膨大なコストをかけているし、身近なところではスーパーやデパ地下の試食がある。つまりこれらはアナログの世界。アナログの世界では「無料サンプル」に商品代、人件費、送料などのコストがかかるため、「無料サンプル」はやたらめたらにばらまかない、継続的な販売促進アプローチができるように顧客情報をしっかりと獲得しアンケートにまで答えてもらう場合が多い。一方で、デジタルの世界ではデジタル化したものはどれだけたくさんの人にばらまいてもコストは変わらない。さらに無料サービスを利用する人たちがフェイスブックなどのSNSを介してお友達に広げてくれることで一気に情報は拡散されるという具合だ。サンプルに都度コストがかかっていない分、広がりにスピード感と範囲の広さがある分、その中の一部(といってもそれなりの数)の人が有料サービスを利用することで儲かる仕組みになっているのだ。
 無料の範囲で利用して、気に入って更に使い込んでいくことで無料の範囲では賄いきれなくなるというサービスも多い。自分の業務生産性を考えた際に、インターネット上にデータを置く機能や大容量のデータを送受信する機能などは使えば使うほど大容量が必要となり、コストパフォーマンス的にも有料サービスを利用するに値するという判断にたどり着くのではないだろうか。心理的に有料サービスに導かれるケース、コストパフォーマンス的に価値があると判断し利用するケースなどケースはそれぞれだが、大多数の無料顧客の中に無料でサービスを体感し価値を感じた人が有料顧客となるというモデルをコストをかけずに実現できるということが重要なのではないだろうか。

 「量が質を変える」、あるマンション管理会社の社長が言った言葉に「なるほど!」と妙に納得した記憶がある。フリー戦略を考える中で改めてこの言葉を思い出した。この時、量が増えればコスト構造も効率化が図れるし、提供するサービスの検討範囲も広がると理解した。人が集まれば提供するサービスの質が変わる、顧客が集まれば広告収入も見込めるようになる、始めにフリー戦略を考え実践した人はここまで想い及んでいたのだろうか。フリー戦略は進化を続け奥が深い・・・とゲームを楽しみながら思うのであった。

————————————————————————
■執筆者プロフィール

中川 普巳重(なかがわ ふみえ)
(公財)京都高度技術研究所 経営・新事業創出支援本部 コーディネータ
中小企業診断士、ITコーディネータ、日本経営品質賞セルフアセッサー、
(財)生涯学習開発団体認定コーチ、キャリア・デベロップメント・アドバイザー