顧客経験価値(ユーザエクスぺリエンス)が差別化となる/宗平順己

 最近ユーザエクスペリエンス(UX)という言葉をよく見かけるようになりました。スマートフォンやスマートタブレットが登場してからなのですが、実は2000年ごろから使われている言葉です。
 その頃は、ネットショップの評価だけでなく、まちづくりや商品の評価にもユーザエクスペリエンスという言葉が使われていました。
 その後、Web系のアプリの増加に伴い、ユーザインターフェイス(UI)をよりよくしないといけないという観点から、主にIT分野で使われるようになったのですが、このため、UIとUXが同じものと考えている人が多くなっていますが、これは実は大変な間違いです。
 IT以外の分野ではUXはカスタマーエクスペリエンスと呼ばれるようになって、いろいろな業種でとても重要なものとして取り扱われています。
 よくカスタマーエクスペリエンスの引き合いに出されるのが、スターバックスです。おいしいコーヒーを提供し、飲食する場を提供するという「機能」だけを考えると、他のコーヒーショップチェーンとは異なるところはありません。ではなぜ、みな「スタバ」に行きたがるのでしょうか?そこには、スタバでカフェを飲むことから得られる特別な体験が顧客にあり、それが支持されているからです。
iPhoneもそうです。見事にAppleの思惑にはまっているのですが、利用者はそれを心地よく感じています。UIだけでなく、それを使って得られる新たな経験が、世界中で支持されているということです。
 このように経験価値を高めるように顧客経験をデザインするということは、ここにあげた事例のほかにIKEAやサウスウェスト航空、ディズニーランドなど非常に多くの実例があり、有効性が証明されているわけです。
 この中心となるのが「顧客経験価値」というもので、単に製品やサービスの機能ではなく、顧客がそれを使用することによって得られる新しい「何か」が差異化要因となっているということです。
 ここで日常の皆さんの活動を考えてみてください。お客様に商品やサービスを説明する際に、「機能」や「価格」が説明の中心になっていないでしょうか?皆さんもたくさんのセールマンからこのようなアピールにはうんざりしている筈なのに、いざ自分がその役割を担うとなると、どうしても提供側に立った説明やプレゼンしかできていない。そのように感じる方は多いと思います。
 それはなぜか?実は、真に顧客の立場に立って物事が考えられていないからです。お客様が困っていることをわかったつもりになっているだけで真には理解できていない。だから押しつけ型の説明になってしまうのです。
 これを解決するにはどうすればよいのでしょうか。最近、日本でも取り組みが始まっている「デザイン思考」にそのヒントがあります。デザイン思考は、顧客の課題を「共感」することからスタートします。顧客の側にたって、顧客と同じ立場から何が問題点なのかを体感するということです。
 京都大学でも今年度デザインスクールができるなど、いろいろな取り組みが身近で始まっています。ぜひ、皆さんもデザイン思考のエッセンスを理解して、少しでも顧客経験価値を高める活動を開始されることをお勧めします。

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■執筆者プロフィール

氏 名 宗平 順己(むねひら としみ)
所 属 (株)オージス総研 取締役執行役員 技術部長
資 格 ITコーディネータ、公認システム監査人

専門分野
・クラウド
・BSC(Balanced Scorecard)
・IT投資マネジメント
・ビジネスモデリング
・エンタープライズ・アーキテクチャ