○五輪開催と経済再生
半世紀を経て、私たちは再び東京五輪の栄誉をつかみました。世界の日本への信頼感、その底流にあるのは安全、安心、快適を社会のすみずみで支えているのは日本国民の「叡智と努力」です。7年後の五輪を目指して世界の期待に応えるために如何に歩んでいくべきか、国民一人一人のテーマともなっています。
日本社会に久しく漂っている閉塞感をまずは打ち破っていかなければなりません。安全、安心の社会の継続はもとより次世代に向けた新しい空気を吹き込みたいものです。また、災害復興、原子力災害の克服を世界に注視されながらの7年でもあります。他者との共生、異文化との共存を基本に新しい価値観を織り込んだモデルとなる新・五輪を目指していきたいものです。
もとより五輪の直接・間接の経済効果への期待も大きく、日本再生への大きな一歩となるでしょう。開催地・東京にとどまらず日本各地の「おもてなし」の心のもと観光関連事業、独自の伝統産業・文化を世界にアピールできる絶好の機会と受け止め地域経済の活性化に生かしたいものです。企業は規模の大小を問わず、世界に目を向けての市場開拓と商品開発に英知を発揮していきましょう。
○時代を先取りする元気で挑戦的な中小企業
五輪開催は単なる祭典でない以上、産業社会を底辺で支える中小企業はさらなる活性化への起爆剤と捉えたいものです。中小企業は多種多様、多士済々ゆえに時代、環境の変化に果敢に挑戦し生き延びています。ここではこの中小企業の特性を生かして発展を続ける3社を取り上げたいと思います。
事例1;ユニークな経営手法と温かい人材育成で「全員経営型」のH工業です。
H工業は、元々は織物業であったが、トランス製造(電圧の高さを変喚する変圧器)で、その織物業から転身を果しました。事務所の中は明るく清潔で、今期の業務改善や数値目標などあらゆるものが掲示されていて、いわゆる「見える化」が徹底されています。「工場はショールーム」との考え方から清潔で訪問する顧客すべてに「おはようございます」、「ありがとうございました」と笑顔で応えています。他社から学ぶことにも積極的で、それを経営改善、経営計画策定に生かしていますが、その計画策定もボトムアップの従業員参加型です。
従業員教育にはとりわけ熱心で、彼らを外部研修に参加させ、その参加者の意見に耳を傾け、彼らとのコミュ二ケーションを通してその後の教育に生かし、また定期的に実施される従業員主導の飲み会でのコミュニケーションも活発です。
とくにユニークなのは、輪番で従業員に一定期間管理職にして、彼らに管理職、経営感覚の取得の機会を付与しています。このように従業員の成長を最優先する経営手法は業界での注目されており、他社からベンチマークされる存在となり「工場見学」の問い合わせも多くなっています。
事例2;自動機省力化機器の設計、制作のP社で同社は顧客の問題解決を通じて、自社の開発力や技術力を向上させてきました。社長は、自社事業を「ハンティングビジネス」と呼び「将来の成長分野をいち早く探しだし経営資源を集中投下して回収する」と言っています。社内でベンチャーを立ち上げることを推進しています。
社長は、いつも「自分たちが自ら考え、行動する」ことで社内文化が育つと考えています。事実これまでも従業員発で、いくつかの新規事業が立ち上がってきました。
そんな中、これまでの産業分野とは全く違う「食品産業事業」への参入を図りました。もとよりこれまで培った様々なノウハウを生かし、長い試作期間を経て新農産品を仕上げました。地元農産品を使っての商品開発も予定しています。
もとより主体事業である産業機械については市場を海外、特に東南アジアへの参入を予定するなど新たな市場開拓にも余念がありません。
事例3;T社は本拠を富山に構える伝統木工技術「組子」で欄間、和風を製造・販売してきました。釘を使わずに熟練した職人の手作りがさえています。
「和」の需要の激減で会社はかつて窮地に追い込まれましたが、そこからインターネットに目を向け自社のホームページの立ち上げを皮切りに遠距離の需要開拓に努め、いまでは売り上げの8割が他府県になっています。ネット販売の拡充による販売方法で売上を拡大してきました。
さらに加えて数年前から海外へのネット販売を始めています。このように地方の需要減、高齢化を逆手にとっての大胆な政策転換が奏功した訳です。同社は零細企業であること、ノウハウがない、地理的に不利、外国語が話せないからなどの固定観念・「壁」をITで取り去り、商圏の拡大を図っているのです。そこには自社の製品の特性の普段の研究開発による自信を糧に将来を見通した旺盛な市場開拓の追及、信念に裏打ちされたものと言えましょう。
○経営変革のためのIT化推進
市場環境、ビジネス環境が大きく変化するときに、いままでの仕事のやり方や組織の在り方を再構築しなければなりません。現場のノウハウや技能を発揮した付加価値の高い商品づくりが改めて見直すべき、新しい「職人像」が求められる時代になっています。新商品の開発がスピーディで顧客の素早い対応を求めうる職人技を磨く上で欠かせないのがIT活用です。板金加工のHA製作所はこの顧客の要望に応えるために受注時のデータと在庫情報を統合し、事務のニ重管理を減らすITシステムを求めています。
また人口歯製造のK社は生産管理や販売管理・経理のシステムを改善し、会社全体の見える化に挑戦、これにより現場の担当者の製造方法の改善、コスト削減への工夫を自ら考え実行することで、個の力が伸びたのです。
上記2社の事例は社外のITの専門家を活用してこのハードルを乗り越えました。
あらゆる分野で機械化が推し進められる中、人でなければできない仕事だけが残されていきます。これからのIT活用は、個の力生かす仕組みや組織をつくり、その組織力で会社がより強くなるものです。そのために外部のIT専門家の活用も経営者の手腕発揮の有力な選択肢となっています。
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■執筆者プロフィール
玉垣 勲
IT経営・代表、労務管理事務所・所長
(中小企業診断士、通訳案内士(英語)、ファイナンシャルプランナー