感情的な顧客への対応とメンタルトレーニング / 下村 敏和

 システム開発やパッケージ適用プロジェクトでは、仕様変更やカストマイズ増
大に伴う技術的な交渉や費用交渉が必ずと言ってよいほど発生します。また、大
きなシステムトラブル時には損害賠償対応を含めた交渉に至る場合があります。
 このような交渉時にお客様が突然怒りを爆発させ、感情的になって緊迫した交
渉に発展することがあります。私はメーカ系のSE・営業を経てITコーディネー
タに関わっていますが、過去に体験したことを踏まえながら、どのように対応す
れば良いのかを考えてみたいと思います。これらの交渉は必ずしもシステム開発
などに関わるだけでなく、広く一般のビジネスでも起こりうる交渉事です。

■感情的な顧客との交渉体験談
 いくつかの修羅場のプロジェクトにおいて、お客様が各種交渉の中で感情的に
なられ、緊張状態に置かれた経験があります。

1)引き継いだばかりの泥沼プロジェクトでシステムトラブルが多発し、報告時
 に「それでも課長か?帰れ!」と大声で怒鳴られ、心臓がドドッと動いたこと
2)某工場長とシステム開発の方向性で協議し、説得しようとするが費用問題も
 背景にあり、不用意な一言が逆鱗に触れ、キングファイルが飛んできたこと
3)開発途上のパッケージを売込んだ結果として大幅にカストマイズ増となり、
 費用交渉打診で客先の逆鱗に触れ、社長まで電話が入り、客先へお詫び状を書
 いたこと
4)膨大な仕様変更に対し、費用交渉で客先と対峙し、軟禁状態で3~4時間の
 費用交渉を数回行い、最後には副社長に私の個人名入りで非難するFAXが入っ
 たこと

 システム開発プロジェクトでは技術交渉の局面、費用交渉の局面、トラブルで
の謝罪の局面、トラブルの応急処置対応は出来ても根本原因がなかなか分からな
い時や、翌朝までに直さないとシステムが止まる時の報告局面、本番延期の交渉
局面等々、営業・SEとも緊張状態の交渉が発生します。
 お客様に対して平常心を保ちながら感情に走らず、理性的に対応し、決して不
遜な態度を見せず、淡々と毅然とした態度で交渉に臨むことが重要です。誠意を
もって対応すれば、結果的には”雨降って地固まる”となることでしょう。

■ハイプレッシャー下での交渉術
 強烈なプレッシャーの掛かる交渉を“ハイプレッシャー下の対応術”としてま
とめられた参考文献(後述)を引用しながら、上記のような感情的なお客様への
初期対応手順、ポイントを以下に列挙します。

1)ハイプレッシャーな状況とは?
 ・相手が感情的になり、こちらに圧力をかけ、思い通りに交渉を進めようとす
  る状況 - 灰皿を投げる/机をたたく/怒鳴る/怒る

2)ハイプレッシャーな状況下の対処法を身につける
 ・ハイプレッシャーな状況での課題の理解と初期対応の基本とそのような状況
  を起こさない方法を理解する。

3)ハイプレッシャーの中でのまずい対応
 ・黙ってしまい、何も言い返すことができない
 ・自分の正当性を主張するあまり、火に油を注いでしまう
 ・当事者意識が欠落した受け答えや言訳に終始し、逃げようとする
 ・場当たり的な返事をして逃げる「何とかします」、「わかりました」

4)ハイプレッシャーでの初期の対応ステップ
 a)事前準備
  ・心の準備、体の準備、相手の対応の把握
  ・クレームやトラブルは何かを変えるチャンス[前向きなマインドで臨む]
 b)感情をくみ取る
  最初に相手の感情を受け取り、くみ取ることで、相手を感情的でない状態
  (理性的に話ができる状態)に持っていく。
  (1)初期対応の3つのポイント
   ・相手の話をひたすら聞いて口を挟んだりしない
   ・自分の事として対応する(当事者意識がないような対応をしない)
   ・相手の非やミスを指摘しない、相手のメンツをつぶさない
  (2)感謝と共感の言葉
   ありがとうございます、・・/おっしゃるとおりです、・・。
  (3)クッション+謝罪・共感法
   相手が感情的になっている場合、謝罪なしに収めていくことは難しいこと
   が多い。しかしながらただ謝れば良いというものではない。相手の言葉を
   受け止め、その発言を入れて謝罪する。
  (4)感情のおさまりを確認
   表情、呼吸、口調が開始当初と比べて落ち着いたかどうかを確認する。
   相手に他に感情的に言いたそうなことがあれば、「他にありませんか」と
   引き出す。人の怒りは通常3分以内
 c)話し合いへ誘導する(DESC法)
  感情がおさまってきたら、問題を客観視させ、冷静な話し合いに誘導してい
  く。実際には感情をくみ取ることと並行して行っていくことがほとんど。
  Describe(状況を描写する)、Explain/Express(自分の気持ちを説明する)、
  Specify/Suggest(提案をする)、Choose(代案を述べる・選択する)
  つまり、伝える→理解して貰う→意思決定を促す、をできるだけ感情的にな
  らずに行うことです。
 d)対応のポイント
  (1)事前準備の大切さを再認識する
  (2)お客様の立場を尊重する
  (3)回答や約束できないものはしない(守れない約束はしない)
  (4)トラブルと納期変更や追加費用の件はできるだけ一つ一つ分離して交渉す
   る
  (5)最優先事項に集中し、話やテーマを広げない
  (6)お客様にも協力や依頼の前向きな提案を積極的にする

 最近のTVニュースの企業の謝罪会見を観ても、言訳や隠蔽体質、当事者意識の
欠如等が見られ、もう少し上手な対応が出来ないものかと考えさせられます。
    
■打たれ強く生きるためのメンタルトレーニング
 これらのハイプレッシャー下の交渉事が続いたり、トラブルで睡眠不足が続い
たりすると、メンタル面への影響が少なからず出ます。失敗を恐れず、打たれ強
く生きるために日頃から強い精神力や胆力、平常心を身につけることが重要です。
その為に坐禅やスポーツそして芸術等に触れて精神の内面を鍛えることも必要です。

 人間である限り落ち込むこともある中で、自ら気を付けていることがあります。
1)できるだけ朝から元気な大きな声で喋る(大きな声で挨拶から)
2)今日一日を精いっぱい生きる(前後際断)
3)仕事モードの"ON"、"OFF"を明確に(リラックス時はとことん)
4)几帳面になりすぎたと思ったら時々、少し不真面目にやる
5)驕らない、威張らない、謙虚に相手に耳を傾ける

 プロのゴルファーでさえ、パットで失敗すると次のホールでドライバーでパッ
トの練習をしています。前のホールを引きずっているのです。
 「前後際断」(前後の事を忘れ、今に集中する)の精神が大切と思います。

(参考文献)
 ・ITエンジニアのためのハイプレッシャー下での対応術 鳥山康見著

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■執筆者プロフィール
 ヒーリング テクノロジー ラボ  代表 下村 敏和
 ITコーディネータ

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